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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

太陽がいっぱい(V)

2008-08-13 17:47:08 | 映画(た)
評価点:76点/1960年/イギリス・フランス

監督:ルネ・クレマン

観てから読もう! 読んでから観よう!
パトリシア・ハイスミスの秀逸小説の映画化。

貧しい身であるトム・リプレー(アラン・ドロン)は、かつての友人フィリップをイタリアから、
アメリカに連れ戻すようフィリップの父親に頼まれた。
しかしイタリアのフィリップは婚約者と共に住み、アメリカに帰る気はないという。
フィリップの父親との約束の金を受け取れないことになったトムは、フィリップを殺し、彼に成り代わる計画を立てる。

先に原作を読んで映画を観た。
だから設定などに特に違和感を覚えることなく観ることができたが、逆に原作とどうしても比べてしまったので、映画「単品」としては、正確でないかもしれない。

▼以下はネタバレあり▼

冒頭の始まり方が原作とは違っていて、しかも登場人物の人間関係も差異があったため少し驚いたが、結末を見てその完成度の高さにうなった。

フィリップとマルジェ(彼の恋人)が愛し合っているという設定が既に違っていたのだが、それは結末に収束されていく。
つまりフィリップを愛していた彼女は、哀しさのあまりトムと寝てしまう。
しかし、フィリップの死体が見つかることで、その無念さが描かれなくとも、観た後に容易に想像される。
登場人物のそうした関係性が、結末のトムが捕まってしまう所につながっていくのだ。
マルジェに遺産を全て譲渡した遺書をトムが偽造したのも、それで合点がいく。
つまり彼女までも奪ってしまうことで、遺産も間接的に手に入れることになるのだ。

原作のように逃げおおせた場合そうはいかない。
同じ結末では全くそうした設定や伏線が役に立たなくなる。
わざわざ改題(原作は「ザ タレンティドゥ ミスターリプリー」)までして
ストーリーを変えたのはそうした明確な意図があったことに気づかされる。
(忠実という意味ではリメイクされた「リプリー」のほうが原作に忠実かもしれない。)

また製作者側の明確な「理想」が垣間見えるのも特徴だ。
つまりフィリップ・グリーンリーフを殺すまでは、あくまでフィリップはトムをいじめる役でしかない。
しかし殺した後では、トムの異常性がクローズアップされる場面が増え、結末部では彼は捕まってしまい犯罪の否定が下される。
製作者が、生理的な嫌悪感をどういうキャラクターにもっているかが、非常にわかりやすく、映画の中に一貫性を与えている。
だから観客は違和感なく最後の結末に納得しつつ、トムの運命の憐れさに後味の悪さも覚える。
こうした矛盾がこの映画の最大の魅力である。

ただ気になったのは、トム役のアラン・ドロンがあまりにもかっこよすぎることだ。
彼が、あまりにも美形なので金銭的な状況を同情せずに
むしろその外見を羨んでしまう。あきらかにフィリップよりかっこいい。
マルジェも見る目がないなあ、と思ってしまう。

この映画は確かに古い。
カメラも動かないし(殆んどワンアングル!)、現代映画にはないほど説明的な場面が少ない。
けれどこれは必見の映画の一つだと思う。
カメラのことをいえば唯一すごいと思ったのは光のつかい方だ。
光の角度や明度で場面の状況を瞬時に理解させる技法は巧いと思った。

人間の変身願望を巧く利用した秀作だと思う。

(2002/07/27執筆)

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