外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

シリアのイドリブの運命とアブ・ムハンマド・ジューラーニ

2018-09-07 05:08:06 | 中東ニュース

猫は内容と無関係です。(^▽^)/

 

もう2週間くらい前の話になるが(時差の範囲よね)、8月23日に「シャーム解放機構」がアブ・ムハンマド・ジューラーニ指導者の演説の録画をテレグラムで公開した。「シャーム解放機構」(以下HTS)とは、シリアでアサド政権と戦うヌスラ戦線が、他の武装集団を統合して組織改編を重ねた後の現在の名称。「ヌスラ戦線→ファタハ・シャーム戦線→シャーム解放機構」と覚えておくと何かと便利だと思います(何に)。アブ・ムハンマド・ジューラーニ(以下ジューラーニ)はそのアミール、つまり最高指導者だ。

 

このブログで以前ジューラーニについて書いた記事:

 

ヌスラ戦線指導者アブ・ムハンマド・ジューラーニのアルジャジーラ独占インタビューhttps://blog.goo.ne.jp/mendokusainoyo/e/f2c2c2fbd6304d18f89574b3b3978a69

 

ヌスラ戦線指導者アブ・ムハンマド・ジューラーニの素性と、寿司屋の三毛猫https://blog.goo.ne.jp/mendokusainoyo/e/30da85f51f18f08d19d3519d30eb1630


ロシアのシリア空爆をめぐるヌスラ戦線指導者の声

https://blog.goo.ne.jp/mendokusainoyo/e/0559a728f69ed9c3fe1c074cfd1f4758

 

ジューラーニのこと、いっぱい書いてたんだな。ジューラーニの素性と寿司屋の三毛猫って、なんなんだ私は・・・

 

と、とにかく、久しぶりに公開されたジューラーニの映像を見て、「あ、ジューラーニ、前より人相が悪くなってる・・・」と思った。2016年7月末に彼が初めて素顔を見せ、「ヌスラ戦線はアルカイダから離脱して、『ファタハ・シャーム戦線』として生まれ変わる」と宣言した時の容貌と比べてみてほしい。

 

2016年7月28日

 

2018年8月23日

 

ほら、顔がいかつくなってるでしょう。まあ、そうなっても全然おかしくない状況だが。HTSの存在(彼の人生も)は、もはや末期だと言えるし・・・

 

2015年9月末にロシアがアサド政権側についてシリアへの軍事介入を開始してから、政権側が圧倒的に優勢になって勝ち進み、HTSを含む反体制派側は支配地域を次々と失った。HTSと他の武装集団との抗争も激しい。せっかく脱アルカイダ宣言を出して名称を変えても、国際社会に完全に無視されて「アルカイダ系テロ組織ヌスラ戦線」と呼ばれ続け、そして今、最後の主要拠点イドリブがシリア政府軍・ロシア軍・イラン系の勢力等に攻め入られる瀬戸際にあるのだ。それを避けたい(=さらなる難民の流入を避けたい)トルコがロシアと交渉し、反体制派の諸集団を「国民解放戦線」という名の下に集めて政府軍との和解・交渉の方向に持って行こうとしていて、HTSにも解散を迫っているという。

 

この状況で出された動画の中で、ジューラーニは政権側との交渉・和解を「裏切り」として許さない姿勢を示し、最後まで武力闘争を続けるよう呼びかけている。「穏健な反体制派」とされる自由シリア軍傘下の諸集団などとは違い、「テロ組織」とされるHTSには逃げ場はないので、背水の陣である。

 

HTSはイドリブ県の最大地域を支配しており、その戦闘員は約6万人と言われている。HTS以外にも、中国を始めとする多くの国・国際組織からテロ集団に指定されているウイグルの武装組織「東トルキスタン・イスラム運動」などもイドリブを拠点にしている。

 

イドリブの運命は7日(あ、もう今日だ)にテヘランで行われるロシア・トルコ・イランの首脳会談で明確になる予定だ。デミストゥラ国連シリア大使は、「メディアによると、シリア政府はイドリブ攻撃を10日まで待つとしている」と言っていたが。

 

イドリブが政権側の攻撃を受けるのは時間の問題だと思う(郊外ではもうロシアの空爆や政府軍の砲撃等が始まっている)。問題は、どの程度の規模の攻撃が行われるかだ。全面攻撃か、限定攻撃か。面積の広いイドリブ県の全域で、数万人規模の捨て身の戦闘員と戦うのは容易なことではない。

 

シリア人権監視団等によると、シリア政府は北のアレッポからイドリブ、ハマー、ホムス、ダマスカスを経由して南のヨルダン国境まで伸びている高速道路M5の完全支配を目指しているという。ロシアはイドリブの「テロ集団」(=ヌスラ戦線)撲滅を主張している。イドリブに隣接するラタキアにあるフメイミーム基地に飛んでくる無人機の問題もある。イランは「テロを駆逐してシリア政府の支配を全土に広げる」ことを目指している。しかし、攻撃の有無・規模を最終的に決定するのはロシア、つまりプーチン大統領である。攻撃を避けるためにトルコは努力しているが、できることは限られている。アメリカのトランプ大統領はイドリブ攻撃を牽制するような発言をしているが、本格的な軍事介入をするとは考えられない。「化学兵器が使用されなければ、後はどうでもいい」という姿勢だ。

 

HTSはテロ集団呼ばわりさているが、単にシリアでアサド政権側の軍事勢力と戦っているだけで、民間人に対するテロなどしていない。病院や学校などを空爆し、子供だろうが女性だろうが何の容赦もなく民間人を虐殺しているのはシリア政府軍とロシア軍・同盟勢力の方なのだ。

 

イドリブ県には、政権側の支配下に入った東アレッポや東ゴータを始めとするダマスカス郊外の諸地域、ダラア、クネイトラ等から反体制派戦闘員とその家族、その他の一般市民が大量に流入しており、現在の人口は約300万人だとされることが多い。周辺地域も含むと400万人に達するという見方もある。トルコ国境は閉鎖されており、彼らには安全な逃げ場がない。アレッポ郊外の反体制派支配地に逃げても、いずれ攻撃対象になる可能性が高い。彼らの運命はロシアの決定にかかっている。シリアでの反体制運動開始以来最大の悲劇が起こらないことを願う。

 

 

シリア勢力地図

 

 

こちらはイドリブ勢力地図

 

 

(参考記事)

Syria's war: Who controls what?

https://www.aljazeera.com/indepth/interactive/2015/05/syria-country-divided-150529144229467.html

 

The battle for Idlib: Three scenarios

https://www.aljazeera.com/indepth/opinion/battle-idlib-scenarios-180904074749602.html

 

ジューラーニの演説録画(アラビア語)

https://www.youtube.com/watch?v=PPcMzBhbRHY

 

上記演説に関する記事(アラビア語)

http://www.aljazeera.net/news/arabic/2018/8/22/%D8%A7%D9%84%D8%AC%D9%88%D9%84%D8%A7%D9%86%D9%8A-%D8%A5%D8%AF%D9%84%D8%A8-%D9%84%D9%86-%D8%AA%D9%81%D8%A7%D9%88%D8%B6-%D8%A7%D9%84%D9%86%D8%B8%D8%A7%D9%85-%D9%88%D8%B3%D9%84%D8%A7%D8%AD%D9%86%D8%A7-%D8%AE%D8%B7-%D8%A3%D8%AD%D9%85%D8%B1

 

(終わり)

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