外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

米英仏のシリア空爆について

2018-04-24 14:23:52 | 中東ニュース

 

4月14日(土)、用事があったので珍しく午前中に起きた。

まずパソコンを開いてFacebookをチェックしたら、2時間ほど前に米英仏がシリアのアサド政権の軍事拠点複数を空爆したとのニュースが流れていた。7日に反体制派支配下の東グータのドゥーマで起こった化学兵器による攻撃を受けての空爆で、軍事空港や化学兵器貯蔵場所等を対象としたものだという。

「おお、とうとうやったか~!もうやらんかと思ったぜ」と喜びつつ、アルジャジーラの生放送を観る。出かける予定は取りやめ。

しかし、その後まもなく、米国防長官の発表でこれは一回こっきりの空爆だったと判明し、大いに落胆する。

 

後にシリア支援を実施している日本の団体や関係者が(欧米諸国の反戦・人権団体の多くも)、この空爆を非難する声明をネット上で矢継ぎ早に出したのを見て、「ああ、またか」と思う。去年の4月にイドリブ郊外ハーン・シェイフーンでサリンを使用したとみられる攻撃が起こった後、トランプ大統領がホムスのシュアイラート軍事空港(この攻撃を行った戦闘機が離着陸したとみられる軍事基地)をピンポイントで空爆させた時もそうだった。口から泡を吹いて痙攣する子供たちの映像を伴う虐殺(数十人死亡)のニュースが流れても、ロシアやシリア政府軍の空爆で学校や病院が破壊され、民間人が大勢死傷したとのニュースが流れても、何も言わずにスルーするのに、米軍が軍事標的を一回空爆したら、みんな一斉に抗議するのはなぜだろう。彼らは天災に遭ったわけではない。当然どこかの軍事空港から離陸したどこかの軍に属する戦闘機から落とされた爆弾が原因で死亡したわけだが、それについては深く考えず、「かわいそう。でも誰がやったかはっきりしないし…」と思考停止してグレーゾーンに入れておき、ハーン・シェイフーンの事件に関する調査の結果、「アサド政権がサリンを使用した」と明確に認定する内容の国連報告書が出されても、これもスルーする割に、米国が軍事空港を空爆したらこぞって糾弾するのはなぜなのか。私なんかにはとてもできないような、素晴らしい支援活動をしている人たちであるだけに、非常に残念だし、彼らの声を聞いて、シリアに関心のある一般の人々がその意見に染まっていくのはなおさら残念だ。(だから、ない気力を振り絞ってこの文章を書く事にしたのだ。私の声など誰にも届かないかもしれないが…)

米国がシリアを空爆したら、「イラク侵攻と同じ、武器商人の暗躍、イスラエルの陰謀、シリアの人達がかわいそう、戦争反対、憲法第9条死守!」という図式が浮かびがちなようだが、シリアとイラクでは状況が違うし、ましてや日本の政治状況は無関係(私だって憲法第9条は死守したい)。武器商人の暗躍やイスラエルの陰謀はあるにしても、そういった側面だけから中東における欧米の軍事介入の全てを説明しようという態度は横着に思える。

 

今回空爆対象になったのは軍事施設であって、ロシアやシリア政府軍のそれのように住宅街を無差別に狙ったものではない。ちなみに、イスラエルも米英仏のシリア空爆に先駆けて、シリアのT4軍事空港を空爆しているが、それについては誰も気にしていないようだ。イスラエルはちょくちょくシリア政府の軍事施設を空爆しているが、あまり話題にもならない。それは一体なぜなのか。

 

米英仏の首脳は、自分と自国の利益のためにシリアを空爆したのであって、「シリア政府が化学兵器を使用した」というのは、建前に過ぎないという意見もよく聞く。それはその通りだ。そもそも、相手の国民のことを思いやって他国に軍事介入をする国など存在しないと思う。国連平和維持軍等の枠組みを離れて軍事介入を行うのは大きなリスクを伴うから、決断した本人にとっての利益が判断材料に入っているに決まっているし、その国の世論の支持を得るためには、軍事介入の「正当性」と共に、自国にとっての国益が必要になってくるだろう。

 

しかし、彼らの目的が何であるかは問題ではない。重要なのは結果なのだ。シリアの反体制派支配地に暮らしている(あるいはそこから避難した)人々は、「3か国の空爆を歓迎する」とSNS上で次々に表明しているし、もっとやってほしいと願っているのだ。これが一番重要なことだと私は思う。彼らだって、トランプ大統領が彼らのために善意で空爆したなどとは思っていない。米国に軍事介入してもらう以外に自分たちへの攻撃を止める手段がないと知っているから、歓迎しているのだ。去年のシュアイラート軍事空港への米国の空爆の後もそうだった。

 

そもそも、シリアが内戦状態に陥ってから、政府軍の空爆や砲撃等の標的となっている地域の住民から、米国に軍事介入を求める声が徐々に高まり、2013年8月のグータでの化学兵器攻撃による大量虐殺の後、ピークに達した。しかし、オバマ大統領は空爆をためらい、「シリアの化学兵器を国際管理下で廃棄させる」とのロシアの提案に応じた。あれは、オバマのシリア政策における最大かつ致命的な失敗だった。2015年9月末にはロシアがアサド政権側での軍事介入を開始して、政権側を勝利に導き、今に至る(2016年12月の東アレッポ陥落で、政権側の勝利はほぼ確実になったように思う。東グータも陥落したし、次はダマスカス南郊に駒が進められている)。化学兵器を使用した空爆は、それ以来何度も繰り返されている。

 

3国によるシリア空爆の「合法性」に疑いを持つ人も多いと思う。しかし、国連安保理では、シリア政府に不利になる決議はことごとくロシアの拒否権行使で闇に葬られているのだ。化学兵器疑惑の国際調査についても、ロシアとシリア政府が調査団の現地入りを遅らせ、証拠を隠滅していると言われる。シリア政府の不利になることを「合法的」に行うのは不可能な状態なのだ。当該地域で空爆をしているのは、シリア政府軍とロシア軍のみ。米軍率いる有志連合が空爆しているのは、北部・東部のISの支配地や拠点、北部の旧ヌスラ戦線の幹部等のみ。反体制派は航空機を所有していないし、化学兵器を持っていたら戦闘で使うだろう。ドゥーマに関して政権側と和平交渉を行っている最中に、自分たちの支配地域で化学兵器を使用するいわれはない。今回の化学兵器攻撃の後、反体制派のイスラム軍は停戦協定への最終合意を余儀なくされ、ドゥーマから完全撤退することとなった。

ロシアがアサド政権を支援する限り、政権側に不利になる「和平交渉」は進展しない。現状を鑑みるに、「シリアに平和が戻る」ということは、アサド大統領やその一族、側近らが大量虐殺の罪に問われずに引き続きシリアを支配することを意味するだろう。

今回の空爆は何の役にも立たないへなちょこ攻撃だったと初め私は思ったが、反体制派支配地で活動するフリージャーナリストのハーディ・アブドゥッラー氏のFBでのコメントによると、そうでもないらしい。ダマスカスのメッゼ軍事空港やカシオン山の軍事拠点等が激しく叩かれ、政権側は震え上がった由。米国防総省は、今回の空爆による破壊状況を示す衛星写真を公開している。少なくとも、威嚇の効果は多少あったのかもしれない。

 

シリアの人たちは辛抱強い。「米国に本気で軍事介入して、シリア政府軍による民間人への空爆を防いでほしい」という願いが実現する日は来ないだろうが、それを求める彼らの声は、また聞こえている。私には何もできないけれど、せめて日々発信されている彼らの声に耳を傾けていきたいと思う。それが私なりの誠意だと思うからだ。

 

(参考)

英語ですが。

'Too little, too late': What Douma refugees think of US strikes on Syria

http://www.middleeasteye.net/news/too-little-too-late-syria-war-douma-ghouta-west-debate-air-strike-assad-russia-2027833063

 

Before and after: satellite pictures of airstrikes in Syria

https://www.theguardian.com/world/ng-interactive/2018/apr/15/satellite-pictures-airstrikes-syria?CMP=fb_gu

 

Will U.S. airstrikes on Syria change anything?

https://www.youtube.com/watch?v=7Q6VHoV4PPI

 

これはアラビア語。上述のハーディ・アブドゥッラー氏のコメント

https://www.facebook.com/HadiAlabdallah/videos/2531585040399238/UzpfSTEwMDAwMDE2OTg5NjgzMjoyMDY2OTAzMDk2NjU4NjY3/

 

以下は日本語:化学兵器か シリア・イドリブ攻撃で子供も被害に

http://www.bbc.com/japanese/video-39499387

 

アサド政権の使用認定=シリアのサリン攻撃-国連報告書

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017102700252&g=int

 

(終わり)

 

 

 

 

 

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