外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

パレスチナぼんやり回想(2)~ISMのトレーニング~

2023-12-22 20:34:45 | パレスチナ

 

 

エジプトのターバ国境から、国境検問所のイスラエル側での執拗な尋問をなんとかクリアして入国した後は(過去記事)、リゾート地エイラートのなんとなくうさん臭い宿で1泊してから、バスで北上してエルサレムに出て(到着したのが金曜夕方のシャバット開始後だったので色々苦労した)、旧市街のムスリム地区にあるこ汚い安宿に泊まった。確か、ネットで見つけた「アル・アラブ」とかいうホステルだったと思う(たぶんここ)。そこを拠点に家探しをしていて、たまたま東エルサレムのオリーブ山の自宅の1階を間貸ししているパレスチナ人のタクシードライバーに出会い、彼の家に住むことになって、新しい生活が軌道に乗り始めた。(過去記事

 

少し現地の生活に慣れてきたタイミングで、ISMのトレーニングに参加することにした。

 

ISMというのは、「 International Solidarity Movement」(国際連帯運動)の略称で、イスラエルの占領による抑圧に抵抗するパレスチナ人を支援する非暴力の国際ボランティア団体だ。パレスチナ人も運営に関わり、世界各国から来た外国人ボランティアが現地の人々と協力しながら、デモに参加したり、オリーブ摘みを手伝ったり、パレスチナ人の子供たちがユダヤ過激派の入植者の嫌がらせを受けないよう、通学に付き添ったりしするなど、様々な活動を行っている。

 

ISMといえば、その活動に参加していたアメリカ人ボランティアのレイチェル・コリーさんが2003年、ガザでイスラエル軍のブルドーザーの前に立ちはだかり、押しつぶされて死亡したことで知られている(参考)。その話を聞いて、アメリカ人でも殺されるんだ…とビビった記憶がある。私にはそんなこと、とても出来そうにない。

 

レイチェル・コリーさん(23歳で死亡)

 

 

私は当時ISMのことをよく知らなかったのだが(今も「あれ、ISMだっけ、IMSだっけ?」となる)、私より先にパレスチナに滞在したシリア留学仲間が、ここのトレーニングに参加して良かったと言っていたので、私も行ってみることにしたのだ。そもそも私がパレスチナに住んでみたいと思ったのは、イスラエルの占領下でパレスチナの人々がどのような暮らしをしているのか、自分の目で確かめてみたかったからなのだが、なにしろ引きこもり体質で人との深い付き合いを避ける傾向があるため、どこに行ってもなかなか現地の人たちと仲良くなれない。だから、こういう団体に参加したら、多少なりとも人と接する機会が増えるのではないかと思ったのだ(実際増えた)。

 

トレーニングは1泊2日の合宿形式で、ISMの拠点がある西岸地区ラーマッラーで行われた。ネットか電話(パレスチナのSIMを携帯に入れた)で予約して、参加費は当日払ったような気がする(うろ覚え)。ラーマッラーはパレスチナ自治政府の中心的な都市で、エルサレムの北10㎞の地点にある。エルサレムからバスで30分もかからないのだが、イスラエルの検問所で足止めを食ったら1時間以上かかったりする。占領地ですから。

 

トレーニングはISMの理念や活動についての理論的な講義から始まって、イスラエル軍がデモ隊に対して使う爆弾についての解説(音響爆弾、催涙ガス、ゴム弾等を実弾を見せて説明)や、デモに参加していて誰かが軍に拘束されそうになった時に阻止するための対処の仕方(皆で手をつないで地面に寝転がる)などの具体的な講習に進んだ。小型とはいえ、爆弾を見たのはこれが初めてで、もう爆発しないと分かっていてもビビってしまったが、周りの人たちは全然平気そうだった。みんな、なんでコワくないの…?

 

ISMの理念の「非暴力主義」について、講師の男性が「非暴力主義に基づく活動は、イデオロギーによるものではなくて、戦略的な選択だ」と言っていたのが印象的だった。つまり、イスラエル軍や入植者の暴力に対して、非暴力の平和的な抗議活動をするのは、そうすることが効果的だからであって、平和主義を理想としているからではないということだと私は解釈した。つまり、状況が変わって、非暴力主義が効果的ではなくなったら、違う戦略を取る可能性があるのではなかろうか。私は常々、平和主義ではどうにもならない時もあると考えている。特に、最近のイスラエルのパレスチナ人に対する凄まじい悪意、圧倒的な暴力を見ていると。

 

トレーニングの参加者は、欧米人の若者が多かったが、中には韓国人の女の子2人組もいて、泊りがけで2日間一緒にいるうちにアジア人同士仲良くなって、後日一緒に街を歩いたり、うちに泊まりに来たりした(過去記事)。彼女たちは韓国でパレスチナ支援団体を運営していて、毎年のようにパレスチナに来て活動していると言っていた。その後もソウルに旅行した時に会ったり、日本に旅行に来た時にうちに泊まってもらったりして、今も時々連絡を取り合っている。アメリカのミシガンから来た年配の女性2人組とも連絡先を交換し、後に彼女たちの借りているアパートに泊まらせてもらって、一緒にオリーブ摘みのボランティアをやったことがある(過去記事)。その後、この2人組のうちの1人、いつもおっとり微笑んでいた気のいいサンディーが、デモに参加していた時にイスラエル兵に腕を折られ、病院送りになったと聞いた。あんな見るからに人畜無害で、見るからにアメリカ人な、孫のいる年齢(60代くらい)の女性の腕を折るとか、どういうことやねん…

 

 

ISMのトレーニング会場の外にいた子猫たち

 

 

ISMのトレーニングでは、出国の時にイスラエルのチェックに引っかからない方法も教えてくれた。出国で引っかかると、将来的に再入国できなくなる可能性が高いからだ。空路で出国する場合は、余裕をもって空港に行って、監視カメラを意識せずに何気なく振舞うこと、パレスチナ人の連絡先や彼らと交わしたメッセージなどは携帯から消去しておくこと、デモで撮影した写真のデータはコピーを取って、パレスチナグッズなどと共に出国前にあらかじめ自国に郵送しておくこと、カメラのメモリカードの方には普通の観光客が撮るような写真を数枚を残して、後は消去しておくこと、云々。非常に具体的なアドバイスだった。

 

出国の時、私は陸路でヨルダンに出た。陸路の場合、空路での出国よりもチェックが緩いと聞いていたが、念のためカメラのデータのコピー(大して撮らなかったけど)やアラビア語の本などは日本に郵送しておいた。国境検問所(アレンビー橋、ヨルダン側はキングフセイン橋)では、荷物チェックが全然なく、ほぼ素通りだったから、ちょっとがっかりした。

 

国境検問所で出国審査の列に並んでいる時、後ろから横入りしそうな動きをするマナーの悪い欧米人の若い女性がいたので、ムッとしてそちらを見たら、イタリアのパスポートが目に入った。う~む、こんなところでイタリア人に会うとは。しかも横入りされそうになるとは。

 

私が険しい顔で「私の方があなたより先ですからね!」とイタリア語で言ったら、彼女は特に慌てるふうでもなく、「あら、そうなの?じゃあいいわ、お先にどうぞ」と悪びれずに言って愛想笑いした。やれやれ、何がお先にどうぞだよ…

 

 

エルサレム旧市街の猫さん「マナーは大事にゃ~」

 

 

 

と言うわけで、今回は「ISMのトレーニングは役に立つ」という話でした~(大雑把なまとめ方)

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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1 コメント

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ウンム・キタト・ミチさんへ (Zhen)
2024-01-01 11:27:58
忙しさに紛れて、ブログもコメント投稿もご無沙汰していました。

それにしても、今回のISMのこと、知りませんでした。とても真似できないし、ミチさんへのリスペクトが高まりました。

今年も、宜しくお願い致します。
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