『アーツ&クラフツ運動(1850-1914 Arts and Crafts Movement)』は、イギリスの“近代建築運動・芸術運動”で、後にヨーロッパ各国で始まる“近代建築運動・芸術運動”の先駆けとなります。
『アート』とは、芸術(外観、意匠:視覚として認識できる物体の形状や色彩)
『クラフト』とは、工芸(製作、製造:アートを達成する為に適切な架構法で物体を完成させる行為)
イギリスで18世紀に始まった産業革命は、手作業による生産システムを機械による生産システムに置きかえましたが、中世の職人が丹念に作っていた製品を、その精度同等に工場で製造する技術はまだ伴っておらず、結果、工場による生産は、単なる劣悪な製品の大量生産と一部の人々の目には写りました。
工場の製造能力がその程度であれば、製品は、形状(アート)も製造(クラフト)も機械の能力に適合するようデザインされるべきでした。
そこで、イギリス人のウィリアム・モリス(1834-1896)は、中世の職人たちが誠実に製品を製作していた時代を回顧し、『アート』と『クラフト』の融合を目指します。
モリスが求めた融合とは、『アート』も『クラフト』も、同一人物が一貫して携わる事でした。
仮に『アート』と『クラフト』を別々の人間がそれぞれ作業を分担して受け持つとすると、人による考え方や理念が100%同じでないのと同様に、思想性、コンセプトの伝達欠如が起こり、その結果、製品の品質に欠陥が生じるという事です。
又、製品の形状や色彩(アート)には意味があり、それを製造(クラフト)する為の架構法、構造にも意味があります。
つまり、『アート』を達成する為の『クラフト』であり、適切な『クラフト』であるからこそ達成できる『アート』です。
その為には、『アート』と『クラフト』の密接な関連性、一貫性が不可欠だとモリスは考えたのです。
『アーツ&クラフツ運動』の拠点は『赤い家(レッドハウス)』と称された、名前のとおり外壁は赤色のレンガで構成された建物で、室内は、中世の室内装飾品、家具調度品が据えつけられていました。
しかしながら、『アーツ&クラフツ運動』の理念である手作業による生産システムは、時間も手間もかかり、結果、最終成果物の価格は必然的に高くなります。
すると、モリスの目指す“大衆の為の物”ではなくなるという矛盾が発生しました。
結果、モリスは、社会主義国であれば、自身の理想を実現できると考え始めました。
このように、モリスの理想には限界があったのですが、後にヨーロッパ各国で起こる“近代建築運動・芸術運動”に強く影響を与え、とりわけ、機械生産の問題点の提起、建築、工芸品、生活用品の品質向上の必要性について多くの人に意識づけさせた点は大きな貢献でした。
そして、モリスの理念は、後の『ドイツ工作連盟』で受け継がれ、さらに理念が進化します。
最後に余談ですが、『アーツ&クラフツ運動』は中世の手作業で製造する生産システムを理想とし、その一方工場による機械生産を否定する考え方で、機械を理想とする後の『モダニズム』の理念とは相反します。