MY LIFE,MY SPIRIT by Masato

今までの人生で感じたこと、自分の考え方を率直に語ります

全損事故と物欲

2006-08-21 11:36:55 | Weblog
社員採用が決まるとすぐに待望の新車を買った。フルモデルチェンジされたばかりのホンダのインテグラだ。それまで車には全然興味がなかったのだが、リクルートの同僚が車好きで、毎日のように車の話を聞いている内に僕も興味を持ち出した。アルバイトの時は我慢していたが、社員になったらすぐに買いたいと思っていた。ただし貯金は全然なかったので、全額親からの借金で買った。全部で180万円位だったと思う。

ホンダのエンジンは良く回る。軽くアクセルを踏んだだけでヒュンヒュンと軽快な音を立ててタコメーターが一気に上がっていく。調子に乗って毎日ガンガンスピードを出して楽しんでいた。

新車を買って約3ヶ月後、大晦日の真夜中、実家に帰るため東北自動車道を160km以上の猛スピードで走っていた。久喜インターのあたりで、あまりのスピードにあっという間に前の車に追いついてしまい、急ブレーキを掛けたが間に合わず、バランスを崩して中央分離帯に激突してしまった。

慌ててバックさせようとしたが、エンジンが変な音を出すばかりで全然車が動かない。もう頭の中が真っ白になってしまって、どうしたらいいかわからなくなってしまった。仕方なく車から出たところ、すぐに後から別の車が猛スピードで僕の車の後部に激突し、スピンして止まった。夜中で僕の車がよく見えなかったらしい。その後すぐ今度はバイクが2台の車の中に突っ込んできて、バイクが横転した。

この時間がどれくらいだったかは自分でもよくわからない。一瞬の出来事だったようにも思えるし、数分間の出来事だったようにも思える。
どちらにせよ、あっという間に2台の車が全損、バイクのライダーが怪我をした。ライダーは地面に寝そべりながら「こんなところに車置いてんじゃねえよー!バカヤロー!」と怒鳴り散らしていた。とりあえず僕ともう一人は無傷だったので、近くを通る車の人に警察に連絡してもらい、間もなく警察と救急車、レッカー車が来て事故を処理してくれた。その間、東北自動車道は大晦日の夜にもかかわらず1車線しか使えず大渋滞となり、通り過ぎるドライバー達はぐしゃぐしゃになった無残な僕たちの車を横目で見ながら唖然としていた。

間もなく両親が迎えに来てくれて、家に帰ることができたが、その夜はさすがにがっくり落ち込んでしまった。180万円の借金で買った車があっという間にパーになってしまった。僕だけならまだしも、事故で帰省する他のドライバー達には大変な迷惑をかけ、もう1台の車も全損、1人の怪我人を出してしまった。

幸い自分自身はかすり傷一つなかったが、信じられない出来事だった。あと一瞬車から出るのが遅ければ、きっと大怪我をしていただろう。自分の身体に何もなかったことだけでも幸運だった。

後日保険会社に連絡し、事故の保険手続きをした。車両保険には入っていなかったので、結局向こうの過失と相殺しても100万円以上の借金が残った。
しばらくして車の中の私物を取りに廃車置場に置いてある車に行ったが、前部と後部がぐしゃぐしゃになって、雨ざらしで置いてある愛車を見て愕然とした。あれほど可愛がっていた愛車がこんなみじめな姿になっているのを見て、本当に虚しい気持ちだった。仏教には「色即是空」といって、この世にある一切の物質的なものは、そのまま空であるという意味の言葉があるが、それをしみじみと実感した瞬間だった。

結局借金は親に2年位かけてボーナスのほとんどを渡して返したが、自分にとって本当にいい教訓になった。それ以来、僕は決してローンを組まず、必ず現金で買う。お金があったとしても、高価な車を選んだりはしない。買ったその日に全損事故でパーになったとしても仕方ないというつもりでいる。

車以外でも同じだ。プライベートであれ、仕事であれ、借金は絶対にしない。買った物が手元にないのに返済し続けることの虚しさを知っているからだ。
最新のPCや家電製品を買うのは好きだが、それはそれらの機器がもたらす利便性、時間の短縮、知識欲、好奇心を満たしてくれるからであって、所有することに執着はしない。だから必要がなくなったらすぐに古い機器は手放してしまう。いらないものは躊躇なく捨てる。

手痛い経験だったが、あの全損事故は僕の物欲を捨て去るのに役に立ったと思う。この世の中のすべての物はいずれ壊れ、消えていく。自分の身体でさえも、いつかは死んで灰となる。永遠に続き、あの世に持って帰れるのは自分の心だけである。


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