レポート(5)より
2月6日土曜日 カーニバル・サタデー
今日のメイン・イベントはスティール・パンのパノラマ・ファイナル(王座決定戦)だ。17時には会場入りし、16チームの演奏をぶっ続けで見て、終わったのは夜中の2時過ぎだった。でも、素晴らしいものだった。人気チームについては、もう練習を何度も見に行っていたのだが、本番は全然違ってさらに良かった。本当に素晴らしい決勝戦だった。
横50m以上、幅も15mくらいの巨大ステージで、何千人という観客が見守る中、スポットライトが当てられ、約8分の一曲一回だけの演奏で優劣を競うので、緊張度が並大抵のものではない。よくこの緊張感の中で、ピッタリあわせて演奏できるなと感心する。
お気に入りのチームの曲は結構覚えていたので、「失敗しないでくれ」と祈りながら緊張して聞いたりもした。また日本人の奏者とはだいたい知り合いになっていたので、彼らが出てくると一生懸命応援した。
優勝は予想通り「フェイズⅡパン・グルーブ」だった。曲が独創的で、ドラマティックで、アレンジもカッコよかったので、当然の結果だったと思う。このチームはオリジナルの曲で挑んだのだが、他の有力チームは既成の曲をアレンジしただけなので、曲が他のチームとダブったりして印象が良くなかった。
日本人が6人くらいその「フェイズⅡ」に参加していて、ほぼみんな知り合いになっていたので、余計嬉しかった。僕らもこのステージに感動して、自分たちでも演奏してみたくなった。そしてスティール・パンを僕らも購入することに決めたのだ。
でも、このファイナルで一番印象に残ったチームは「デスパレイドス」だった。このチームはレバンティルというダウンタウンから少し離れた丘の上の低所得労働者が住む地区にある。毎日のように新聞で「レバンティルで殺人があった」とあるように、トリニダードで最も危険だといわれているところなのだ。そして多くの人が、この物価の高い国で1日1USドル以下で生活しているという厳しい地区なのだ。
このチームが登場した時から、雰囲気が一変した。その時だけ警察がたくさん出てきて、このチームの取り巻きの人たちを追っ払い始めた。別に彼らが何をしたわけでもないのに、「レバンティル=犯罪」という感じで見られているのだろう。悲しくなった。
「デスパレイドス」の演奏はカッコよかった。というか演奏している彼らの「顔」がカッコよかった。彼らの顔と雰囲気は他のチームとは全然違うのだ。他のチームは子どもが多い。そして東京で言えば山の手のお坊ちゃまという感じのが多いのだ。スティール・パンという廃品をリサイクルしたクールなスピリットと歴史を持った楽器なのに、携帯を持った裕福な高校生ばかりが演奏していては何かが違うのだ。ハイソな家族の高尚な趣味になってしまっては勿体ない気がする。
トリニダードのカーニバルはずっと昔には木刀を持ってのコミュニティー同志のチャンバラ合戦をしていたのだという。そしてスティール・パンが誕生しコンテストが始まってからも、ライバル・チーム同士がすれ違うとケンカが起きるくらい、コミュニティー同士の激しいものだったというのだ。そんな歴史を唯一想像させてくれるチームが「デスパレイドス」だったのだ。
「デスパレイドス」のメンバーの中にはたくさんの50歳以上の味のあるおじさんがいた。どちらかというと柄が悪く、昔はたくさんケンカをしていたけど、今は穏やかというようなカッコいいおじさんたちだった。そして若い人も、笑顔ではなく、激しく感情を出して演奏していてとにかくカッコよかった。惚れ惚れする感じのチームだった。
悪のレッテルを貼られてしまっているレバンティルに優勝で希望を与えてほしいと願ったが、惜しくも3位に終わってしまった。来年は是非優勝してもらいたいと心から思った。
このパノラマ・ファイナルは僕たちにとって特別なものだった。これを見ただけで、もうトリニダードのカーニバルに来た甲斐があったなと思った。
続く
2月6日土曜日 カーニバル・サタデー
今日のメイン・イベントはスティール・パンのパノラマ・ファイナル(王座決定戦)だ。17時には会場入りし、16チームの演奏をぶっ続けで見て、終わったのは夜中の2時過ぎだった。でも、素晴らしいものだった。人気チームについては、もう練習を何度も見に行っていたのだが、本番は全然違ってさらに良かった。本当に素晴らしい決勝戦だった。
横50m以上、幅も15mくらいの巨大ステージで、何千人という観客が見守る中、スポットライトが当てられ、約8分の一曲一回だけの演奏で優劣を競うので、緊張度が並大抵のものではない。よくこの緊張感の中で、ピッタリあわせて演奏できるなと感心する。
お気に入りのチームの曲は結構覚えていたので、「失敗しないでくれ」と祈りながら緊張して聞いたりもした。また日本人の奏者とはだいたい知り合いになっていたので、彼らが出てくると一生懸命応援した。
優勝は予想通り「フェイズⅡパン・グルーブ」だった。曲が独創的で、ドラマティックで、アレンジもカッコよかったので、当然の結果だったと思う。このチームはオリジナルの曲で挑んだのだが、他の有力チームは既成の曲をアレンジしただけなので、曲が他のチームとダブったりして印象が良くなかった。
日本人が6人くらいその「フェイズⅡ」に参加していて、ほぼみんな知り合いになっていたので、余計嬉しかった。僕らもこのステージに感動して、自分たちでも演奏してみたくなった。そしてスティール・パンを僕らも購入することに決めたのだ。
でも、このファイナルで一番印象に残ったチームは「デスパレイドス」だった。このチームはレバンティルというダウンタウンから少し離れた丘の上の低所得労働者が住む地区にある。毎日のように新聞で「レバンティルで殺人があった」とあるように、トリニダードで最も危険だといわれているところなのだ。そして多くの人が、この物価の高い国で1日1USドル以下で生活しているという厳しい地区なのだ。
このチームが登場した時から、雰囲気が一変した。その時だけ警察がたくさん出てきて、このチームの取り巻きの人たちを追っ払い始めた。別に彼らが何をしたわけでもないのに、「レバンティル=犯罪」という感じで見られているのだろう。悲しくなった。
「デスパレイドス」の演奏はカッコよかった。というか演奏している彼らの「顔」がカッコよかった。彼らの顔と雰囲気は他のチームとは全然違うのだ。他のチームは子どもが多い。そして東京で言えば山の手のお坊ちゃまという感じのが多いのだ。スティール・パンという廃品をリサイクルしたクールなスピリットと歴史を持った楽器なのに、携帯を持った裕福な高校生ばかりが演奏していては何かが違うのだ。ハイソな家族の高尚な趣味になってしまっては勿体ない気がする。
トリニダードのカーニバルはずっと昔には木刀を持ってのコミュニティー同志のチャンバラ合戦をしていたのだという。そしてスティール・パンが誕生しコンテストが始まってからも、ライバル・チーム同士がすれ違うとケンカが起きるくらい、コミュニティー同士の激しいものだったというのだ。そんな歴史を唯一想像させてくれるチームが「デスパレイドス」だったのだ。
「デスパレイドス」のメンバーの中にはたくさんの50歳以上の味のあるおじさんがいた。どちらかというと柄が悪く、昔はたくさんケンカをしていたけど、今は穏やかというようなカッコいいおじさんたちだった。そして若い人も、笑顔ではなく、激しく感情を出して演奏していてとにかくカッコよかった。惚れ惚れする感じのチームだった。
悪のレッテルを貼られてしまっているレバンティルに優勝で希望を与えてほしいと願ったが、惜しくも3位に終わってしまった。来年は是非優勝してもらいたいと心から思った。
このパノラマ・ファイナルは僕たちにとって特別なものだった。これを見ただけで、もうトリニダードのカーニバルに来た甲斐があったなと思った。
続く