音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

官僚人事の不可思議

2008-07-03 23:12:40 | 時事問題
先日、会社の近くでバッタリ、昔の同期に出会いました。久しぶりだったので、その辺でお茶でも飲んでいきたいところでしたが、これから出かけようというところで急いでいたため、その場は名刺だけ交換して別れました。彼はまだ古巣で頑張っているのです。その日の晩に改めて電話で話したのですが、今年は我々の期から、2人の所長が誕生したんだそうです。

一人は新人の頃から際立って成績優秀でしたが、もう一人は、入った時はどちらかといえば癒し系キャラで、若手の頃は当時彼がトップを切って所長になるとは思いませんでした。なんせ営業会社ですから数字が全てで、ブランド大学を出ていようが、名家の出であろうが関係ない。鼻息の荒かった者、知的で一目置かれていた者が次々と脱落・転身していった中で、15年後に誰が勝ち残るかなんて、普通判らないですよ。それにしても、新人合宿研修でふざけ合っていた仲間が、30代の若さで大所帯を率いていると聞けば隔世の感があります。ただ出世頭の彼らとて、これから更に階段を上っていくのは、並大抵ではないでしょう。大きな組織ですからね。

漫画の世界では、島耕作が初芝五洋ホールディングスの社長に就任しました。モーニング誌の読者人気が低調ならば、課長で連載が終わっていたかもしれません。作者も主人公が社長まで上り詰めるとは予想していなかったでしょう。

現実世界に目を移しても、東芝の西田厚聰社長の例があります。先の決算は冴えなかったといえ、当代の経営者としては人気の高い御方ですが、彼は東大大学院時代に留学生だったイラン人の女性と結婚、そのままイランに渡り、29歳で東芝と現地法人の合弁会社(照明機器の会社)に入社、東京芝浦電気本体へ入社した時には、32歳だったといいますから異色の経歴です。当時この遅れてきた青年が、後のPC事業でめざましい成果を挙げて、東芝の社長の座につくことを予想した人は皆無だったに違いありません。また、1年前にこの方のこと を書きましたが、その後無事に社長に就任されたようです。ワンマン創業者が有名だったこの会社でまさか社長になろうとは、若い頃の竹中さんは夢想だにしなかったでしょうが。

サラリーマンは山あり谷あり、優秀であっても身体を壊したり、人事の波に呑みこまれたりと色々あります。たまたま業績の悪いセクターに配属になったり、性質の悪い上司に当たったりと、出世には「運」も多分に作用します。先のことは本当にわかりません。一方で、ウン十年後のトップがほぼ正確に見通せる組織があります。いや、その辺のオーナー会社じゃないですよ、とても有名なところです。

つい先ごろ、財務省の人事が発表されましたが、事務次官に杉本和行氏、次期次官含みの主計局長には小泉内閣で首相秘書官を務めた丹呉泰健氏、その後の官房長には、あの勝海舟の末裔である勝栄二郎氏がそれぞれ就任したようです。でもこれを見ると、つくづく官僚の世界の特殊性を感じますね。

何故これが異様なのかといえば、中学生の頃から月刊文春の「霞ヶ関コンフィデンシャル」を毎号熟読するオタクだった私にいわせれば、件の3氏は大昔より有力な次官候補であり、90年代前半に何冊か出た別冊宝島の大蔵官僚特集でも、次官確実といわれるリストに名を連ね、写真入りで詳しく紹介されていたからです。20年前からトップになると目されている人たちが、予定通り次々と頂点に立つのが官庁という世界です。これって民間企業では、およそ考えられないでしょう。

霞ヶ関では、原則としてキャリアの高級官僚が入省年次が先の者を追い越すことなく、1~2年で順繰りに社長(事務次官)になっていく強固な年功序列組織です。不祥事やトラブルがあって政治介入を招いた特別の時以外は、このサイクルが崩れたことはありません。もちろん民間だって、若い頃から将来を嘱望されていた人が順調に昇進してという例はないことはありませんが、その衆目が一致する候補者たちが、揃いも揃って下馬評通り社長になるというのはありえないでしょう。それこそ長いスパンでは、色んなことがあるんですから。こうしてみると、2つのことがわかります。1つは、財務省では相当早い時期から評価が固定されるのだということと、もう1つは、失礼ながら高級官僚は案外ラクな仕事なんじゃないかということ。そうじゃなかったら皆が皆、30年も順当にサバイバルしないと思うんですよ。

財務省のメインストリームは主計畑といわれていますが、国家予算を省庁ごとに査定していく主計官僚は、査定の適正が問われることも結果責任をとらされることもありません。民間のビジネスであれば数字は一目瞭然だし、他社と競って受注できるかどうかという、常に胃がキリキリするような緊迫感に晒されますが、それに比べたらお金を稼ぐ・使うというシビアさとは無縁な業務に若いうちから従事し、キャリアはどこに行っても腫れ物に触るように大事にされ、周りが頭を下げるのが慣れっこですから、真のプレッシャーは少ないでしょう。しきりに激務が喧伝されていますが、国会対応とか無駄な残業が多く、待機時間は長いものの、夜はタクシーで帰れるし・・・。入省同期のキャリアは何十人もいるわけではないので、コンペチターも少ない。(トップ人事は年次を追い越す抜擢がないのでタテの競争が要らない)東大法学部卒のタイトルを持って入省し、一度コースに乗ってしまえば、あとは「実力」が問われる場面が意外なほどない世界なんだそうです。(元官僚の友人談)

もし自分がこういう組織にいて、仮にエリートコースに乗っているとしたら、どういうスタンスをとるかといえば、余計なことはしないという一語に尽きるでしょうね。いわゆる「事勿れ主義」ですね。何か新しいことや旧弊の「改革」などには間違っても手を出さないでしょう。リスクはあれど何のメリットもないからです。事務次官は事実上の決定権者であり、大臣より偉いのですから、まさに代表取締役社長です。マジで次官になれそうだったら、政界転身なんて誘われても絶対に応じません。

かように人事ひとつとってみても、官僚の世界のメンタリティーがよくわかるので、この「官治主義」の日本の行く末を考えると暗澹としてきますが、最近の東大法学部の学生は高級官僚には目もくれず、外資系金融機関などに流れているようですね。トップ層が減ったとしても、人事システムが変わらない限りは、官僚王国は崩壊しないような気がします。



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2 コメント

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おはようございます (まっつん)
2008-07-04 07:37:41
同感です。

>20年前からトップになると目されている人たちが、予定通りに次々と頂点に立つのが官庁という世界です。これ民間企業では、およそ考えられないでしょう。
>人事システムが変わらない限りは、官僚王国は崩壊しないような気がします。

私もそう思います。
官をどうかしない限り、政は変わらないと思います。
たしかに (音次郎)
2008-07-06 11:26:12
>まっつんさん、コメントありがとうございます。
官僚のビヘイビアは自身の経済合理性に叶っているだけに厄介なのですね。

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