音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

賃貸住宅の可能性

2008-06-29 17:04:35 | レオパレス、賃貸住宅
前のエントリーが長くなりすぎたので、その続きを対話調で。

「官から民へ」の時と同じく、後輩の俊ちゃんが聞き役です。

音次郎: 今日は賃貸住宅の可能性について語ってみます。私は某アパート会社の商法には批判的ですが、賃貸経営には可能性があると思っています。

俊輔: 音次郎さんも「賃貸派」でしたよね。

音次郎: うん、事情があって家を買わざるをえなかっただけで、決して宗旨替えしたわけじゃない。ずーっと賃貸に住めばいいと思ってたよ。

俊輔: でも、かねてからこの国の賃貸市場が貧しいと嘆いてましたよね。

音次郎: そうだよ、そのプアーな賃貸住宅しかないことがマイホーム志向を誘発しているともいえる。良質で快適な賃貸がたくさんあればそれを選択したい人がいても、ないから買うしかない。

俊輔: 主に広さのことを指摘してますが、具体的にはどういうことですか?

音次郎: ファミリータイプでも、3LDKで65㎡は必要だと思うんだけど、首都圏の賃貸で60㎡の物件を探そうとしたら、極端に数が少なくなることに気付くだろうね。高いとか安いという問題じゃなくて、物件自体がないんだよ。そういう現実がある。

俊輔: 単身者用についてはどうですか?

音次郎: みんな同じじゃん。なるべく戸数を稼ごうと思って計画してるから、判で押したように同じプランだし、第一狭いよね。ワンルームなんて、どうせ学生や社会人が寝に帰ってくるだけだからいいだろうという作り手の発想が透けてみえるようで吐き気がする。昔は一人暮らしができるだけで御の字だったかもしれないけど、今の子は少子化で早くから広い個室を与えられて育ってるでしょ。今後のワンルームユーザーは、安いビジネスホテルのシングルみたいな部屋はノーサンキューじゃないかな。

俊輔: でも、ちょっと変わった外観や間取りにすると建設費が高くつくし、一戸あたりの面積を広くしたら、その分戸数が減って収支が悪くなるんじゃないですか?

音次郎: いや、20~30年のスパンで考えたらそうともいえない。ありふれたワンルームはすでに市場で滞留しているから、競争力を持つには差別化していく必要があるし、建物は年数が経てば老朽化は避けられないけど、「広さ」というのは不変だからね。それに人間というのは元来怠惰で、基本的には動きたくない生き物なんですよ。転勤とかやむをえない事情がある場合を除いてね。積極的に快適さを意識していなくても、住み続けているというのは居心地がいい証拠で、どうしても我慢できないから引越しを考えるわけでしょ。つまり、ユーザーフレンドリーな物件は必然的に入居期間が長くなるので、トータルの入居率を上げるんだよ。

俊輔: たしかに気付いたら1箇所に5~6年住んでたという経験は私にもありますね。じゃあ具体的にはどんな差別化要素が考えられるでしょう?

音次郎: 専門家じゃないから素人考えだけど、これからは一層「自分」と「自分のもの」を大切にするライフスタイルをとる人たちが増えてくると思う。わかりやすいものでいえばペットなんて最たるもので、ペット用の住宅は既に注目されているよね。同様に自転車愛好家にとっては、高額のロードバイクやMTBは盗難が常に心配の種なわけで、室内に汚れを気にしない土間のスペースとかあると嬉しいよね。2Fへの外部階段も登りやすくしたりしてね。さらにエスカレートして考えると、愛車を建物の中に入れたいと思っているカーキチやバイク狂って少なくないんですよ。

俊輔: あ、それ私も夢ですね。

音次郎: 1Fビルトインカーポートで2F住居のメゾネットタイプとかね。好きな人にはこれ以上ないセールスポイントでしょう。他にも絵を描く人が大きなキャンバスを立てかけられるような高天井やスロープシーリング、音楽ができる完全防音仕様のアパートなど、色々あると思うんだけどね。

俊輔: 結構奇抜じゃないですか?

音次郎: 今のはワンルームの差別化例として出したんだけど、ファミリータイプだったら、ちょっとしたことでもいいんだよ。例えば子どもが室内で追いかけっこできるように、どんつきプランでなく回れる動線を作ってあげたり、近隣上下のストレスを軽減する遮音仕様を徹底して施したり。そうしたら長く住むようになりますよ。

俊輔: R社のような転貸業者は、自社の利益とオーナーへ出す見せかけの収支の極大化を図るから、どうしても画一的なプランになってしまうわけですね。

音次郎: 僕が賃貸について、こんなにもしつこく書くのは、アパート経営を検討している地主さんに是非とも考えてほしいからなんだ。それは、「あなた方は恵まれている」ということ。だって、世の中で自分の土地を持っている人って少数派だよ。さらにいうと、自分の住んでいる場所以外に所有地を持つ人の割合といえば、全人口のうち一握りもいいとこでしょ、これはもうselected peopleといっていい。かように平地の所有権は大いに偏在しているわけで、まあ、持っているといったって、ただ先祖が農地解放によってマッカーサーから貰っただけかもしれないし、多くが運によるものだろうけど、この狭い国土で土地を持つからには、真に有効利用する義務と社会的責任があると思うんだ。

俊輔: でも地主さんとしては、我々は税金で貢献しているというんじゃないでしょうか?

音次郎: たしかにそうです。それに我々は持てる者が抱える様々な悩みはわからない。でも前にも書いたように、貸家建付け地の評価減など税制上の様々な特例の立法趣旨は、良質な賃貸住宅を世に行き渡らせるためだからね。そのインセンティブを利用するのはいいんだけど、もっと考えてやってくれと強く言いたい。ロクに吟味せずに業者に騙されて契約して、粗製濫造でペラペラのアパートが世に溢れる状況は地主にも大いに責任があるよ。

俊輔: 経営の丸投げは「所有と経営の分離」と、R社など転貸業者からは奨励されていますけど、どこが問題なんでしょうか?

音次郎: 建物もお仕着せだし、一括借り上げで募集・管理に一切タッチしないから何年経ってもオーナーには少しもノウハウが蓄積しない。だから10年目以降に条件下げられたって、結局依存せざるをえなくなるわけだよ。

俊輔: でも、専業でアパート管理できる人は少ないんじゃないですか? サラリーマン地主も多いし、オーナーも本業の農業とかあって忙しいわけですから。

音次郎: いや、募集や管理までやれっていうわけじゃない。そういう日常的な業務はオーナーがやらない方がいいことも多いから委託するのは間違ってないよ。でも計画段階で、考えていない人があまりにも多すぎる。自分の家以外で注文住宅を発注できるというチャンスに恵まれたなら、僕だったら丸投げせずにまず自分でとことん研究すると思うよ。ワンルームだったら、顧客になりうるであろう沿線の大学のキャンパスに足を運び、学生に謝礼を払ってでもマーケティングリサーチするね。どんなニーズがあるか、どこまで家賃耐性があるか、近隣競合状況などなど、出来うる限り調べて吟味すると思う。それも建築業者に接触する前にそれをやっておく。業者はどうしても契約を急ぐし、バイアスがかかるから。自分なりの見解を持つことは、言いなりにならないための自衛でもあるわけだよ。

俊輔: たしかに自分でやってられないと思えば、そこで初めてここからここまでは任せようとか考えるわけで、外注って本来そういうもんですよね。

音次郎: そうだよ、街の不動産屋さんで志を理解してくれる人を探して頼んでもいい。彼らはずっとそこで商売していて、これからもやっていこうという人たちだからね。設計士を含めたマーケティングPJチームを作ってディスカッションするとかね。レオなんてこういう基本的なリサーチでさえやっているか疑わしいわけで、それでいて離職率が高いから、アパートが建った時には営業担当はもういないなんて日常茶飯事でしょう。そんな無責任な会社に利益をしゃぶりつくされるのだとすれば、リサーチのためだけに独立したプロフェッショナルを雇って、その分ギャラを払ったとしても安いもんだよ。

俊輔: 1億とか2億の一大事業ですからね。

音次郎:ベルトコンベアに乗せられて、「はーい、30年家賃保証でございますよ。融資も下りますし、こちらで全部やりますからご安心を」といわれて、ああそうですかと契約してる人たちが信じられないね。数千万から数億という事業の話でしょう。目を醒ませといいたい。

俊輔: でも考えてみると、丸投げの弊害は不動産や建築だけじゃありませんね。ちょっと前に、自己責任とかマネーリテラシーという言葉が流行りましたけど、保険や投信なんかもそうですよね。

音次郎: まったくその通り。何事も労を惜しんじゃいかんということだよ。たとえ結果がうまく行かなかったとしても、自分でベストを尽くしていれば失敗したり騙されたとしても、後悔が小さくて済むでしょ。

俊輔: 賃貸って儲かるもんじゃないし、長期に渡るから難しいですよね。

音次郎: シビアな話ばかりしたので、ここでちょっとエモーショナルな思い出話をしようか。僕は実家を出てから、東京・神奈川・大阪・千葉・埼玉のエリアで、数えたら今まで10ヶ所の賃貸に住んだ経験があるんだけど、初めて部屋を借りたのは世田谷にある羽根木公園近くの1Kだった。

俊輔: ユーミンも昔、東松原に住んでたことがあるらしいですね。

音次郎: らしいね。東大元総長の蓮見重彦とか、よく井の頭線で見かけたよ。やたらデカかったけどね。それはいいとして、もう7年以上前になるんだけど、たまたま仕事で近くまで行く用事があって、そのアパートが残っているか興味があって寄ってみたんだよ。

俊輔: まだあったんですか?

音次郎: あったのよ。それで懐かしくなって外から覗いていたらさ、大家さんとバッタリ逢ったんだよ。同じ敷地内に自宅があるんだよね。

俊輔: 大家さんの方は覚えてたんですか?

音次郎: 退去してから10年以上経つから、てっきり忘れてると思いきや、名刺を渡したらその奥さんは僕の顔をまじまじと見てから、にっこり笑って「立派になったんだねえ」と目を瞠っていたよ。当時は家賃も手渡しだったし、留守中に宅配便の受け取りなんかもしてくれてたから交流は密だったんだよ。それにピンチの時は図々しくも大家さんに金を借りたこともあった。

俊輔: え、よく貸してくれましたねえ。でも丸井のキャッシュディスペンサーでつまむよりも、よほど健全かもしれません。

音次郎: そうだよ。身元がしっかりしていて、家賃はちゃんと払っているんだから優良債務者だよ。

俊輔: 自慢することじゃないと思いますが・・・・。

音次郎: 僕の部屋の上の階の人が長老でね、司法試験浪人だったんだけど、10年くらい住んでたんだよ。

俊輔: 「がんばれ元気」の北さんみたいですね。

音次郎: ははは、懐かしいの知ってるな。まあ近いものがあるね。その人の話題になってさ、なんでも無事に受かって、広島で弁護士事務所を開業しているそうなんだけど、律儀なことに、今でも毎年大家さんにみかんとか送ってくるらしいんだよね。

俊輔: いい話だなあ。昔は貸し手と借り手の間に心の交流があったんですね。

音次郎: 人が人に住まいを貸すというのは物語を生むんだよ。嬉しいじゃない、自分の建てた家で他人が成長していくっていうのは。でもこういう牧歌的な話だけじゃなく、現に阪神・淡路大震災では、アパートの下敷きになって亡くなった住人もいるわけだしね。

俊輔: 入居者は自分の命をアパートに託すという側面もあるということですね。

音次郎: それから、うちの弟の話をすると、彼が結婚してすぐに重度の椎間板ヘルニアを患ってね。身重の奥さんと、お腹の子どもと三人で途方に暮れた時期があったんだよ。今までの仕事を続けられないし、当面は保険でなんとかなるにしても、その先が全く見えなかった。

俊輔: 家賃も払えませんわね。

音次郎: 母親がじいちゃんから相続して、姉妹共有で経営していた築40年のおんぼろアパートがあったんだけど、伯母さん達とで協議して、空いている一室を無償提供してくれることになったんだ。弟は腰痛も癒えてから、その土地の有望な企業に何とか潜り込んで、そこからは社長に見込まれてスピード出世、今では高級分譲マンションを購入して、家族4人で仲良く暮らしているよ。

俊輔: つまり賃貸は人をも救うということですね。弟さんの再生に古いアパートが手を貸したんですから。

音次郎: そうなんだ。こういうのは本当に賃貸オーナーだからなせる業であって、持っていない人には出来ないから羨ましいんだけどね。本来アパートは人に貸して賃料を稼ぐものだけど、時として身内のピンチを救うセーフティネットたりうるんだよ。例えば、嫁に出した娘が旦那とうまくいかなくて別居してしばらく冷却期間を置いたりする場合とかね。

だから、オーナーもパートナーも入居者も皆がハッピーになるような賃貸住宅を目指してほしいもんだよ。主導権は地主にあるはずなんだから、その責任を自覚して、検討を進めていただきたい。(終わり)



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