音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

山田太一氏の証言

2010-03-09 06:45:33 | 映画・ドラマ・音楽
読売新聞朝刊には「時代の証言者」という連載があります。手っ取り早くいえば、読売版「私の履歴書」なのですが、日経のそれがいささか高踏的なのに対し、読売の人選はもう少し芸能寄りというか大衆的でしょうか。現在掲載されているのは脚本家の山田太一氏の巻で、一世を風靡したシナリオライターの自伝には面白い話が幾つも出てきます。

たとえば、あの『岸辺のアルバム』では八千草薫が当初オファーを断ってきたんだそうです。「浮気する女性の役はできない」と。ちょっと隔世の感がありますが、山田氏は「いかにもしそうな女優さんでは意味がない(リアリティーが出ない)。貴女しかいない!」と必死にかき口説いて、ようやく出演にこぎつけたんだとか。たしかに、家族の崩壊を描いたこの名作ドラマは、良妻賢母のイメージが強く「お嫁さんにしたい有名人1位」の座を長く守ってきた八千草薫が、竹脇無我と道玄坂のラブホテルに入っていくシーンが衝撃的ですからね。そういえばそれを目撃した息子役が新人の国広富之でした。

昨日と本日(9日)の回は、いよいよ代表作である『ふぞろいの林檎たち』に言及していますが、このドラマへの偏愛は以前のエントリーで書きましたから、ここでは繰り返しません。でも企画コンセプトや取材過程など、どうやってこのドラマが生まれたのかというエピソードは、フリークとしては興味深いものがあります。でも作者本人もPARTⅡまでで止めておけば良かったと述懐しているのですね。やはりⅢ以降は筆がのらなかったんでしょう。

それと面白かったのは、最近ある有名私大の先生が学生にこのドラマを見せたところ、登場人物の中で最も多くの共感を集めたのが、なんと国広富之演じる引きこもりの東大出身者だったというのです。そっちにいくかい(゜д゜)という感じですが・・・。山田氏としては、秀才だけど周囲との摩擦なく育ってきたため社会に出るのが怖いという、一種の例外的な人物として造形したつもりだったのに、今日ではそれがスタンダードになっている・・・。どっちかというとスカした悪役ですよね、彼女を風俗で働かせたりして。もちろん生きづらさを抱える若者は昔もいましたが、放送された当時はこのキャラに共感する人は皆無に等しかったことを山田氏は回想し、ギャップに驚いているのです。。

もう一つ私の好きな80年代ドラマは鎌田敏夫作の『男女七人秋物語』なんですが、これも若い女性曰く「岩崎宏美ほかがアリエナイ」んだそうです。人の家の玄関先で「私はあなたとは別れない!」と喚いたりするのがウザすぎるんだとか(^^; 彼女たち世代のビヘイビアからすると、暑苦しくて見ていられないんでしょうね。同作はトレンディドラマのはしりであり、いわゆる恋愛モノですから、時間が経つとズレてくるのは仕方ないんでしょうが。

でも「ふぞろい」の方は多くの普遍的なテーマを内包しているので、決して古びていないと思い込んでいましたが、やはり最近の若い人(出た!おぢさんの常套句)は違う見方をするんだなあ。しかし、逆に考えれば、あの時点で引きこもりエリートというキャラを創出した山田太一氏は、時代の遥か先を見ていたともいえなくもありません。


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