音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

昇級審査Ⅲ

2010-06-27 12:26:32 | 身辺雑記
先週日曜に行われた空手の昇級審査は、我が家にとって入門から3回目となりましたが、昨日の稽古の時間に結果が発表されました。

コレコレにも書きましたが、これまでの軌跡を振り返ると

2009.11
音次郎:無級→8級
長男:無級→仮8級
長女:無級→仮8級
*長男は地団太を踏み、1項目も○がなかった長女は帰宅後に1時間大泣き。父親は辛うじて面目を保つ。

2010.3
音次郎:8級→7級
長男:仮8級→7級
長女:仮8級→仮7級
*長男が異例の1.5級昇級で躍進。他2人も1級上がってホッとする。

今回は3人が6級へのチャレンジということになります。この昇級のシステムを補足すると、「移動基本」「型」「組み手」の3科目のうち2科目以上○がつけば1級昇級ですが、それ以下ですと半級しか上がりません。ただ半級というのは、4千円の審査料をとる手前、お情けで賞状をくれるというものですから、事実上の不合格なんですね。だから先生が「1級上がれるようにしてください」と毎回口酸っぱく仰るわけです。さらに前回から審査が厳しくなって、あまりに出来が悪いと原級据え置きと、半歩前進も許されないというのですから、金を出す身としては戦々恐々です。

他の道場では8級、7級というエントリーレベルでも、黄色やオレンジなど、小刻みに帯の色を変えて励みにさせるという所もあるようですが、うちの支部では6級(仮6級含む)からようやく白帯を卒業となるため、今回の我が家の目標は全員が色帯(緑)をゲットしようというものでした。

私は自分が決して巧くないという自覚がありましたから、家や出張先のホテルでも蹴りや摺り足の練習をして、暇さえあれば教本の付録のDVDを眺めてました。また頭がボケて記憶力が減退していますから、しつこいくらい審査本番の順番や段取りを、通勤電車の中で反芻していました。石に齧りついても着実に1級昇級したい理由は、親父の面子もさることながら、我が家の財務大臣が私の分の試験料については予算化を認めず、家計からではなく、自分の乏しい小遣いから捻り出しているからです。ゆえに私には停滞が許されないのです。

長男は前回1.5級上がって相当嬉しかったようですが、稽古でも先生に見本として指名されることも増えたためか、少々天狗になっているのが気になりました。たしかに上手いのですが、空手を舐めたような言動が出ていたのです。

私に次いで危機感があったのは長女の方です。もともと負けず嫌いの性格ではありますが、今回もし自分が半級しか上がらなかったら、父・兄と帯の色や次回の試験の時間帯も違ってくるため、「アタシだけ置いてけぼりは嫌」とばかりに、兄の行かない日も日曜日に行われるエクストラの合同練習にも連れていってくれとせがんできたりしていました。彼女は体が柔軟なので、課題は、「踊り」にならぬよう、一つ一つの技の力強さを出すことでした。

そして審査当日、長女はウエーティングサークルから観ている親の私の贔屓目抜きにしても、このレベルの受検者の中では最も美しい横蹴りを披露し、その他の演目も着実にこなしおり、気合の声もよく出ていました。

私の出番の直前に出て行った長男は、「移動基本」が終わると審査員の先生に呼び止められました。どうやら1級上のクラスでもう1回やりなさいということのようで、すわ飛び級か!と色めき立ちました。

私は出来はともかくとして、気合だけは会場で最も大きな声を出してやろうと決めていて、それを実行しました。事実、上から観ていた妻曰く「音ちゃんの隣のデンマーク人(?)の受検者や、正面に座っていた付き添いの父母が一瞬ぎょっとしていた」と評するほど、声が体育館中に響き渡り、それは気合というよりも咆哮というか、「1級上げてくれっ!」という雄たけび、また魂の叫びでもあったかもしれません。これで受かっていたら、執念のなせる業としか云いようがない。

汗びっしょり息ぜいぜいの私は組み手もなんとか乗り切り、型の待ち場に座っていると、上の級と2回分を終えた長男が戻ってきました。何か組み手も右左順番を間違えたりして、いつになくもたもたした印象がありましたが、予期していなかった飛び級へのチャレンジでリズムが狂ったのか、「疲れた疲れた」を連発していました。うーん・・・、体力不足だなあ、こいつはと思い、「夏に向けてお父さんと一緒に走るか」と言いかけたときに、私の型の出番が来ました。

型を無難に終えた私は、至近距離で長男の演武を見守っていましたが、平安三段の重要ポイントである、足を前に抱えこんでから力強く踏み込む(仮想の相手の足を踏みつける)場面で、私は思わず「あっ」と声を上げそうになりました。足を振り上げた長男がその途端後ろによろめいてしまったのです。すぐに持ち直しましたが、これが致命傷にならないことを祈りました。でも、疲労からか、いつもの力強さがなく、どこか精彩を欠いているようにも見えました。

帰りの道中では、飛び級はならなかったものの、1級はまず間違いないということで、長男は意気軒昂で鼻息荒らし。長女は瑕疵がなかったようですが、結果が出るまではわからない。私といえば、組み手の審査の途中で合同練習の主宰者である偉い先生に「引き手が甘い」と説教されたのと、移動基本では後半バテてしまい、体が起き上がってしまったことを気に病み、「これはもうダメかもしれんね」と一人塞ぎ込んでいました。

そして、昨日の発表では意外な結末が待っていました。

「ダメだ自信ない」を連発していた私がペケなしのオール○で1級上がり、娘はなんと1.5級の昇級で6級となる大躍進をとげる一方で、長男が基本は飛び級の5級の評価だったのに、残りの組み手と型でペケ印がつき、まさかの半級で仮6級に留まるという大番狂わせ。2位以下に大差をつけて独走優勝かと思いきや、OBやダボ連発で失速、大きくスコアを落として逆転負けしたプロゴルファーのようです。やはり空手の型は、見えない仮想の相手との戦いなのですから、途中でよろけていては話になりません。先生も「それが原因だろう」と仰ってました。

自分が不合格というだけならまだしも、歯牙にもかけていなかった妹に逆転され、格下になってしまうという思いがけない展開に、さすがの長男も蒼い顔で動揺を隠せませんでした。前回の稽古まではお手本として先生から名前の挙がっていた長男でしたが、武道の世界もシビアなもので、今回から早速お気に入りも長女の方に移り、本田圭祐に主役の座を奪われた中村俊輔の悲哀を思わせるものがありました。

ショックの裏返しからか、やたら饒舌ハイになった長男は、帰りの車を降りるときに妹のサンダルを隠したりしたので、「自分の不出来で落ちたからといって、妹に八つ当たりするんじゃない!」と妻に引っ叩かれて、一層憐れを誘っていました。

小泉純一郎の「人生には3つの坂がある。上り坂と下り坂、そしてまさかだ」という名セリフがありますが、私は子どもたちよりも人生をだいぶ長く生きていますから、試験というものの怖さ、一発勝負では何が起こるかわからないことを、身に沁みて知っています。


息子よ
なぜお父さんが、昇級審査の始まる前も終わった後も、ヤバイヤバイと騒いでいたかわかるか? あるトップセールスマンの先輩は、「クロージングの前に緊張しない奴はおかしい」といって、出発直前まで資料を見直したり、展開のシミュレーションを繰り返していたものだよ。反対にダメ営業マンは緊張感がないから、のほほんとしているんだ。真剣味が足りない人にはプレッシャーがかからないんだね。また優秀な人ほど、プレゼン後や入札後も受注できるか不安でアレコレ悩んでいたよ。

お前が余裕をかましてゲームやっている間、直前まで会場の隅で基本動作を繰り返していたお父さんの悪あがきぶりを、空手に限らずこれからの試験の時に思い出してほしい。一発勝負は本当に蓋を開けてみなければわからない。特に目の前で勝ち負けがわかるスポーツと違って、採点競技や面接、筆記試験は難しい。自分では出来たと思っても結果が芳しくなかったり、手応えがなく落胆していたのに吉報が来るなんてことはザラにある。でも、だからこそ最後の最後まで粘った者に勝利の女神が微笑むんだということを、頭の片隅に置いてほしい。

今回の結果は残念だった。少なくとも次の審査までは妹の後塵を拝すのは屈辱かもしれないが、お父さんの友だちには、2年も浪人したので年子の妹に追い越され、大学の下級生になってしまったケースだってあるよ。腐らずに真摯に取り組んでいれば、きっといいことがある。現にお前は一度、1.5級昇級した成功体験があるじゃないか。足りなかったところを強化できるよう、これからも一緒に練習していこう。昨日の稽古でも、気落ちしていただろうに、気合はいつもより大声が出ていたな。お父さんみたいに、それだけでもなんとかなると、少しわかってくれたのだとすれば嬉しい。




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2 コメント

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長男君、逞しくなれ! (オーロックスうしこ)
2010-06-28 22:06:01
いや~厳しい世界ですね。
長男君、きっとこの悔しい思いを胸に奮起してくれることだろう思います。頑張れ!!
武道はやはり精神力。今回も何か得体の知れないものに精神を見透かされた感がありますね。
愚息にも空手をやらせたかったなぁ~
見学は行ったんだけど…
パパも引き続き頑張ってください!!
絶対、息子さんは父の背中を見てるはずです!!
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ありがとうございます (音次郎)
2010-07-01 06:13:41
うしこさん、励ましのお言葉ありがとうございます。

>何か得体の知れないものに精神を見透かされた感

仰る通りかもしれません。1イーグル2ボギーのイーブンなんだから、上げてくれてもいいのになあと親バカなことを一瞬考えてしまいましたが、厳しいからこそ価値があるのでしょう。
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