そのひとこと

結婚式シーズンをひかえ、お祝いの言葉を言う機会が増えるかもしれない。
個人的にはありきたりの「おめでとう」で済むんだろうけど、大勢の前での
祝辞を依頼されたらどうだろう。
友人ならエピソードを交え、ユーモアを含める。
目下なら今後の教訓を交えるのが常識だろう。

古い映画だけど、財津一郎主演の「祝辞」というのがあった。
ネタバレだけど、
専務のご子息の結婚式で祝辞を依頼された万年課長。
失敗は許されず、何を言っていいのか悩み抜いて贈る言葉を決めた。
何度も繰り返し練習してようやく自信もついたが、いざその披露宴の席で、
同じことを先に上司に言われてしまう。
頭の中が真っ白になった課長は
「結婚というものは」
と言っただけで固まってしまった。
長い長い空白。
ゆがんだ顔、思い出したように笑顔、なさけなくて泣きそうな顔。
結局なにも言葉が出ず、「おめでとう」とひとこと。
これで会社には居られないという思いとは裏腹に、拍手喝采と専務からの賛辞。
あの空白と表情に人生の全てが隠されていたと誰もが感じた。

というような話だ。
実際の結婚式では無理なことだろうけど、多くを語るには言葉はいらないって
いう見本のような話だな。

たとえば初めて行った異国の地。
言葉が通じないと人との接触も拒むのが大人の悪いところ。
子供同士は言葉の壁などなく遊び始めると言う。
相手を自分の世界に引き入れ、進んで相手の世界に飛び込めるからだと思う。
大人がそれをできないのはなぜだ。
世間体やプライドを気にするからだろう。
無知を恥ずかしいと思うからだろう。

言葉が通じなくても、身振りのサインがわからなくても、相手の言いたいことを
理解する努力があればなんとなくわかるもので。
表情や仕草に表れるものを読み取る。
それで会話は成立するんだね。

逆に、そばにいない人、遠く離れている人、直接会話できなくても１行の
文章から読み取れる心の動きがわかれば、ずっと応援していれるんだし、
あこがれていれるんだ。

好きな人と寄り添って交わす言葉。
言葉はいらないというのは心が通じ合って初めて言えることで、言葉巧みなのは
不安がある証拠。
なにも言わず笑顔で見守ってることができればそれがベストだと思うし。
でも言葉に出してもらわないとわからないと言う人もいる。
それはなんか外国的で。
常に「愛してる」と言ってほしいという
「欧米か！?」と突っ込みたくなるようなこと。

言葉はなくても、対面会話じゃなくても、心が通じる仲でありたいと思う。