井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

吉原遊廓と玉子丼

2018年07月14日 | 食べ物

格の高い老舗蕎麦屋の、おつに澄ました玉子丼が気に入らず、
「しょせん女郎が、花魁のふりするんじゃねいやい」
と毒づいたのでしたが、玉子丼を下級女郎扱いするのも
玉子丼にしたら、セクハラっぽい迷惑な話。

本日は、老舗ではない普通の蕎麦屋でまた、玉子丼を頼んだのでした。
見た途端、ダダ黒く下品のさまに期待して、一口食べたらまずは
合格。とはいえ、要らざるちくわの切れっ端やら、水菜。

とりあえず80点で満足。あと数年、玉子丼は口にしないでしょう。

玉子丼で、はしなくも思い出したのが昔、電通に頼まれて
書いたのがネット配信用の何かの素材に使うとかで、郭を舞台の小説。
書いたことのない時代小説を書けるかな、と危ぶんだのですが、
郭の専門研究家の女性をつけてくれたので、思ったより
なだらかな執筆でした。
刀の白刃に、桜の花びらを散らせたりしながら楽しみました。

主人公が、行ったことのない吉原に焦がれる若い錺職人(かざりしょくにん)だったと
思います。

その男とだったか、別の人物とだったか郭を抜け出させたい
腹案で、しかし考証についてくださった方が、それは不可能です、と。
いえ、そこを何とか。不可能を可能にした時、小説的快楽が
生じるので。と頼み込み、あの手この手の郭脱出の
描写に、わくわくとしたのでした。

遊郭の中に、お歯黒溝の辺りに住む下級女郎も小説には登場するのですが、
年増になって表舞台では売り物にならなくなった女や、不祥事を
引き起こした女がお商売をするエリアが
吉原のぐるりをめぐって流れるお歯黒溝の界隈なのでした。

花魁言葉も教わりながら書いたのですが、今読み返したいと
思っても、管理にずさんな私はどこかにやってしまいました。
高倉健さんに激賞された歌の歌詞も、どこかに置き忘れたまま
消失。
結局高倉さんは歌われなかった、というのはついてきた曲が
お気に召さず、それは大御所の手になるものでしたが、
聞いた途端、私も絶句。
パセティックに謳い上げる語句で編んである歌詞に、鼻歌交じりの
のんきな曲がついて来たのです。明らかに歌詞の世界観の
読み違え。

プルーストのマドレーヌのみならず玉子丼からも、過去の断片が蘇って来ます。

 *はしなくも=図らずも ・ 思いもよらず ・ 偶然 ・ ゆくりなくも

 *錺職人=かざりしょくにん=かんざしなど錺(飾り)を作る職人。金属加工技術の居職(いじょく)

*居職= 自宅で仕事をする職業。また、その人。⇔出職(でしょく)。

誤変換他、後ほど。