持続皮下インスリン(CSII)療法はインスリンの投与量を細かく設定できるため、良好な血糖コントロールの実現など数多くのメリットを持つ。測定された血糖値の表示がリアルタイムで可能なインスリンポンプの登場により、さらなる血糖コントロールの改善やQOLの向上が期待されている。


 

 「頻回インスリン注射(MDI)療法を行っている糖尿病患者などでは、CSII療法を導入するメリットは大きい。リアルタイムで測定値が分かる持続血糖測定(CGM)と連動するインスリンポンプが日本でも発売されれば、血糖値を見ながら操作できるので利便性はより高まる」と大阪市立大学発達小児医学分野講師の川村智行氏は語る。

 CSII療法とは、腹部や臀部などに携帯型の小型ポンプ(図1)を装着し、皮下に留置した針を通じて超速効型インスリンを持続的に注入する治療法だ。少しずつ注入することで基礎インスリンの役割を、食事前には注入速度を速めることで追加インスリンの役割を担わせ、より生理的な状態に近いインスリン分泌を実現している。現状、同療法は主に1型糖尿病患者が受けている。

図1●日本で使用可能な主なインスリンポンプ

質の高い血糖コントロールが可能
 CSII療法が有用な理由としてまず、血糖値やHbA1c値が改善するだけでなく、血糖値の変動幅を小さく抑えられることが挙げられる(図2)。これにより質の高い血糖コントロールが実現でき、ひいては糖尿病合併症の抑制が期待できる。また、食事や運動、睡眠の自由度が高まり、患者だけでなく保護者のQOLも改善される。

図2●小児におけるCSII療法の主なメリット・デメリット

 同療法に積極的に取り組んでいる大阪市立大学附属病院小児科における新規導入患者数を見ると、最近は年間30人前後となっている(図3)。これまでの累積患者数は300人を超えているが、現在も引き続き実施しているのは約200人で、通院患者のおおよそ半分がCSII療法を行っている。

図3●CSII療法導入患者数の推移
(大阪市立大学医学部附属病院小児科における2013年5月時点の実績)

 

2002年以降に増加してきた理由として、「注入回路の穿刺後に金属の針が抜けて、柔らかいチューブだけが皮下に留置される留置針タイプが登場したことが大きい」(川村氏)。以前の翼状針タイプは金属の針が刺さったまま生活する必要があるだけでなく、毎日交換しなければならなかったが、留置針タイプだと基本的に3日に1回の交換で済むようになった。その他、超速効型インスリンの登場、インスリンポンプの機能の大幅な向上なども寄与している。

 CSII療法では食事や運動の状況に応じてボタン操作が求められるが、「ペン型注射と同じように、5歳くらいから自分で操作できる」と川村氏は説明する。同科における年齢層別のCSII療法の実施率を見ると、年少児ほど普及している(図4)。6歳以下では、ほとんどがCSII療法だ。

図4●年齢層別に見たインスリン注射回数
(大阪市立大学医学部附属病院小児科における2013年5月時点の実績)

 追加インスリン投与量の調整幅は、ペン型注射だと0.5単位刻みだが、ポンプだと0.1単位刻みで微細に調整できるので、体の小さい小児ではインスリンポンプの方が使いやすいといえる。

 このように数多くのメリットを持つが、デメリットとしては、刺入部での感染リスクがある、閉塞が発生するとインスリンの吸収障害を起こしケトアシドーシスに至る可能性がある、成人だとMDI療法に比べ自己負担額が高い─ことなどが挙げられる。