村内まごころ商法 & 剛毅の経営

昭和53年に出版された本と、ホームリビングに掲載された記事でたどる、村内道昌一代記

接客態度改善のノウハウ

2007年05月03日 | Weblog
ここで、少しばかり、商人の心構えの原点である「迎賓館運動」のノウハウを詳しく説明しておこう。

まず第一番目の掃除だが、商売をしていながらこの大切さを見逃している人が多いようである。持除の大切さを忘れていると、見えるところだけ大ザッパに……という姿勢になりがちである。だが、人は見えないところまで見ているものなのだ。螢光灯の上についている虫の死がい一匹も採点規準に含まれている。壁のわずかな汚れもけっして見逃してはいない。備品についた手の汚れ、天井のわずか一本のクモの糸も採点した上で結論が出るのである。

掃除の大切さを忘れていると、細部を手抜きしてしまう。やがて自分でも、相手に不快感を与える汚れに気づかなくなる。これが重なると、店は薄汚れた感じになり、第一印象はひどく悪くなる。注意深く掃除し、店を常に明るく清潔に保つのも商売の基本なのである。この基本があってこそ次の、見やすく、選びやすいディスプレイという段階に移れるのだ。

掃除と陳列は空間づくりの問題である。よい空間ができたら次はそこにいる人間の問題になってくる。

販売員の基本は、①清潔な服装 ②笑顔 ③元気のよい挨拶、の三つである。言葉にしてしまうと特別に新鮮味もないが、考え方としては、これを基本にして、さらに細かいことにあれこれ気を配らなければならないというのではなく、この三つさえ守れば九十パーセントは合格ということである。この中で、一番実行しにくいのは挨拶であり、若い頃の私もそうだったが、気が弱いとつい口の中でブツブツいう結果になる。しかしそれでは挨拶にならない。相手は歓迎されているという実感が持てないめだ。

商売では、挨拶の次は商談である、だが商談とはいっても、現代の商談は「これはいかがですか」といった押し売り風のアプローチはとらない。まず相手の希望を納得できるまで聞いてから、助言するという形をとるのが普通である。高度の商品知識が必要とされるのはそのためである。

次に販売方法だが、村内ではクレジットでなるべく高級品をすすめることにしている。これは伝統的な村内商法の延長である。

やはり商品は高級品ほど満足できる場合が多い。現金で安いものを買ってもらうより、積極的にクレジットをすすめて高級品を買っていただいたほうが、店としても売上げが上るし、相手の人も「よかった」といってくれるに違いないという確信があるのである。

さて、その他の細かい心遣いについては、いずれも接客態度の見本である。手荷物は車のところまで店員が持つ、車が見えなくなるまで最敬礼をしている、といったいろいろな規則をつくって実行に移した。しかし、全店的にこの運動はすぐに成功するということはなかった。過去に戻るというのは大変むずかしいものである。とくに最後のお見送りで、車が見えなくなるまで頭を下げているということは、なかなか徹底できなかった。

しかし、荒くなった接客態度を放置しておくことはできない。とり返しのつかないことになるのは目に見えているからである。そこですぐ徹底できなければどうするか。時間をかけて少しずつ変えていくより方法はない。はじめにもいった通り、社長以下幹部社員が実行してみせ、一般社員に見習わさせるという方法である。

さて、接客態度の改善はキャンペーンとしては一定期間で終わりになる。しかし、現実問題として、商業活動では常に心がけておかなければならないことであり、少し気を許すとすぐに崩れてしまうものだ。「百姓商法」「真心商法」などといくら私が主張し、そのためのシステムを組んでも、社員の接客態度が次第に悪くなっていけば、誰も信用してくれなくなる。

商売はまず態度からということである。まず心からというのが正論ではあるが、企業がだんだん大きくなっていくと、全社員の心まで一本化することはなかなかできない。全面崩壊を防ぐには、せめて態度だけでもしっかりさせるよう教育するのが経営者の重大な貴任なのである。 次へ