村内まごころ商法 & 剛毅の経営

昭和53年に出版された本と、ホームリビングに掲載された記事でたどる、村内道昌一代記

自身と社員を磨く(17)

2006年12月31日 | Weblog
佐藤のアトリエを訪れた道昌に対し、佐藤は誠意の応対をする。「日本の具象彫刻家として評価の高い先生であるにもかかわらず、なんと清々しい物腰であることか」--道昌は驚嘆の思いを禁じえなかった。

村内美術館オープン記念の一環として、正面玄関に佐藤の作品<若い女の像>を設置する時には、佐藤自らが指揮をとる姿をみて、道昌はますます佐藤に傾倒していく。

以来、道昌は佐藤の展覧会や講演会は必ず視聴し、宮崎県美術館に佐藤忠良記念館がオープンした時には、イの一番に飛んでいく。

佐藤はよく人に対して「もの造りが自分の作についておしゃべりすると、カメラのシャッターより速く、その言葉が作品にはね返りひけらかしや申し訳になりかねない」という意味のことを話す。だから「自分の想いのすべてを語っている作品に対峙してもらうのが一番」と佐藤はいうのだが、道昌は最近の日本人がすっかり失いつつあるシャイな精神を、今なお持ち続けるそうした佐藤に、作家というよりも、一人の人間としていわくいいがたしの魅力を感じるのだ。

村内美術館開館十五周年の記念催事をどうするか、道昌の胸にはアレコレの計画が去来したが、学芸員が提案してきた「佐藤忠良展」の企画に、即ヒザを叩いてOKを出したのも、佐藤を長い間見つづけてきた道昌の想いがあったからこそだ。

自身と社員を磨く(18)

2006年12月30日 | Weblog
人というのは不思議なものだ、と道昌は思う。苦労が人を造るという。若い時の苦労は買ってでも経験しろといわれる。

しかし、艱難辛苦がすべての人をよい方向に導くとは限らない。同じような艱難辛苦が、人によってはゆがんだ性根形成の因ともなり、あるいは人格豊かな人造りの基にもなる。

道昌が傾倒する佐藤忠良は、まさに人生の苦労を肥しとして魅力的な人格を築きあげてきた人、と道昌は見る。

忠良六歳の時父を亡くし、十三歳で札幌第二中学校入学のために母と別居。十九歳の時歯科医の書生に。二十八歳で結婚、三十二歳の時に兵役に召集され満洲へ。敗戦後シベリアで抑留生活、日本に帰還したのは三十六歳の時であった。

決して恵まれた人生を歩んできたとはいえない忠良ではあったが、道昌と会う時の忠良は大家のおごり、苦労のカゲを決して見せることのない、時には少年のようなはにかみをもって接する清温の人であった。

その佐藤忠良のみならず、道昌は村内美術館の運営を通じて多くの美術関係者と接し、国内外でその道にすぐれた人々の交流関係をつくりあげてきた。

そうした道昌を知る人であればあるほど、村内ファニチャーアクセス後継体制は万全と見ても、村内美術館は道昌あってのもの、と見る。

作品を審美する眼、作品を創る人との心の交流、よい作品を一人でも多くの人に見てもらいたいという社会奉仕にも似た事業への打ち込み姿勢--それらのいずれもが、経営のマニュアルやソフトでは括ることができない別種の世界にあるからだ。

自身と社員を磨く(19)

2006年12月29日 | Weblog
村内ファニチャーアクセスは、今年三月で五十周年を迎えた。昭和二十三年三月、父である万助とともに道昌が製材木工業としてスタートさせた村内木工所以来である。

昭和二十七年、売り場面積二百八十平方メートル(約八十坪)の店をオープン、家具専門店としての道を歩みはじめ、昭和二十八年六月村内家具店に改称。

昭和三十年、タヌキが住む八王子郊外の小さな家具店でありながら、業界に先駆けて新聞広告や電柱広告に取り組む。

昭和三十四年、店を移転新築、六百平方㍍(約百八十坪)に拡張、昭和三十五年には全国で初めて女性ドライバーによる乗用車の送迎サービスに着手。」

昭和三十六年、店舗を一千百八十八平方メートル(約三百六十坪)に再拡張、関東の大型店で結成された八展会にも加盟。

「八王子郊外の小さな店にもかかわらず、客がひっきりなしに押し寄せる珍しい家具店がある」というウワサが、仕入れ先を通じて全国に流れはじめたのも、この頃からだ。

百姓商法に徹した誠実な商法の一方で、人がアッと驚く様な宣伝に取り組むなど、いってみれば地道と意表、本道とバイパスをないまぜた展開が、着実に成果をあげはじめていたのだ。

しかし、道昌は繰り出す企画が面白いように当たり、話題を呼んでもそこにおぽれることはなかった。″まごころ″商人道を歩むことを、なによりも心がけていたからだ。

水流創出で活性化(1)

2006年12月28日 | Weblog
社内の組織改革、社員意識の再構築、新店計画の推進、新物流センターの開設--などなど、多方向での動きがこのところ活発化している。

道昌の経営のやり方をみていると、いつでもその基本にあるのが水を淀ませることなく、その流れの道筋を常につけることにあるようだ。その端的な例が売り場の改革であり、とりわけ本店などは常にリフレッシュされていることで有名だ。

そうした売り場の水に淀みがないことは目で見れば分かる。しかし組織や社員意識の流れについては部外者には不明なことが多い。

道昌は目に見える部分、目に見えない部分を合わせて創業以来、組織内の水の流れに気を配ってきた。

この七月、横浜物流センターを開設したが文字通り″物の流れ″に新たな水脈をつくることが目的である。鉄筋コンクリート四階建て、延べ床面積七千四百三十七平方メートル(約二千二百五十三坪)の同物流センターは、神奈川県内に立地する相模原店、厚木店、横浜港北店、そして現在計画進行中の横浜磯子店(仮称)などの物流拠点としての役割を担う。

神奈川県内に立地する店舗は、つい数年前まで相模原店のみであった。しかし、健一郎(常務)を中心としたプロジェクト推進により、厚木店、横浜港北店と店舗数が増加。今後さらに店舗網の拡大が計画される中、横浜物流センターは、それら県内店舗の物の流れを淀ませないためのキーポイントになる。

水流創出で活性化(2)

2006年12月27日 | Weblog
企業組織は動植物と同じように、幾筋もの血流で支えられている。太い血流もあれば、細かい血流もある。そのいずれの流れも大切であり、細流といえども詰まれば、組織全体に障害を生ずるのは人と同じである。

道昌の組織血流に対する目配り、気配りは細心でさえある。たとえば七月に完成した横浜物流センターには、シャワー室が設備されている。配送担当者がお客さまの家に商品を配送する際、汗にまみれていたのでは失礼、という考え方がその基底にある。

近年、CS(カスタマーサティスファクション=顧客満足)を唱える家具販売店トップが増えている。確かに、商品そのもののCS追求に目を配るトップは多いが、配送スタッフの汗臭さまで気配りする経営者がいったい何人いるだろうか。

本来のCSとは単項目でなしとげられるものではなく、トータル性の強いものであり、物流センター内におけるシャワー室完備は、お客さまとの最終接点、いわば仕上げの部分でのCSといえる。

余談になるが、あるメーカーのトップが村内についてこんなことを語っていたことがある。

「村内の商談室のイスにはハーマンミラー社のものが使われている。他の販売店の場合、ごく安物を置いているのが一般的なのに」と。

接客部分におけるCSの追求といえる。それら一つ一つの細流が集まって太いCSという流れができ、大切なお客さまの心を包み込んでいくのだ。

細流を軽視すれば、太い流れの横築が不可能であることを、道昌はよく知るのだ。

水流創出で活性化(3)

2006年12月26日 | Weblog
これまでの道昌の事業展開をみてくると、変わることのない企業原則と、時代に応じての柔軟な戦略・戦術の組み立てが、驚くほどにうまくミキシングされていることが分かる。結果論というにしては、あまりにそのミキシング内容は匠的である。

モノづくりに匠の技術があるとすれば、企業経営にも匠の技術があっていい。匠の本質を追求していくと、それは結局、ハードではなくソフトに行きつくからだ。

モノづくりの匠と呼ばれる人は①良い材料を見抜く力②素材を生かす力③手際よく物事を進める力④ムダを省く合理約手法--などの点において、他人に抜きんでている。そして、その基本にモノづくりの姿勢という原則論が確立している。

道昌にとっての企業原則とは″百姓商法″である。その″百姓商法″を原点に、道昌は時代に応じた経営の戦略と戦術を立てていく。

たとえば現在、創業五十年のアカを落とす大作業に着手している。船は大きくなればなるほど吃水線下の貝類をはじめとする付着物の大掃除が必要となってくる。同じエネルギーでも、スピードは付着物の多少で大きく異なってくるからだ。

「企業を取り巻く環境与件はガラリと変わった。従来の常識、価値観では新しい時代に対応できなくなりつつある。まさにコペルニクス的(百八十度)転換期に突入している。ところが、村内丸の吃水線下にはスピードを鈍らせる諸々の付着物がたくさん着いてしまった。とくに人為的付着物をこのままにしておくと、村内丸そのものを沈没させかねない」という危機感が、道昌をして五十一年日の大改革に取り組まさせているのだ。新しい水流を創る、泥につまりつつある既水流の掃除をする--様々な視点からの大改革である。

水流創出で活性化(4)

2006年12月25日 | Weblog
道昌は折にふれて水流を新たに創り、あるいは既水流の掃除に力を入れることで、企業の活性化を図ってきた。

その道昌が創業五十一年日の大改革に今、取り組む。

組織的には店舗単位での経営責任の明確化。平たくいえば、店舗ごとの独立採算性を推進する。たとえば、人件費を含む経費は、売り上げの○○%というガイドラインに沿って、店長が店を経営する。売り上げを追求するだけでもダメ、もとより経費を削減するだけでもダメ、そのバランスをにらみつつ店を運営する。

社員個々の意識革命も同時進行だ。販売員や営業マンは、売り上げ対人件費比率を徹底追求していく。「オレはやっている」、「オレ一人が頑張ったところで・・・」--などなど長い間に社員一人一人の意識に格差ができ、結果として一人よがりの評価が社内にはびこっていく。パートよりも何十倍の給料をとりながら、そのパートの売り上げに及ばない正社員もいる。

常日頃、社内の水脈の正常な流れに留意してきた道昌ではあったが、やはり目の届かない部分もあった。その点、″五十一年目″は道昌にとってまさに社員への絶好の改革アピールチャンスでもある。

「人、物、金の三要素で経営資源は成り立つ。このうち、企業内で思うままにできるのは人のみ。物と金は仕入れ先や金融関係とのカラミがある。逆にいえば、人を改革できない企業は、モノやカネも動かせるはずがない」--創業五十一年日の大改革は、人があくまでもターゲットである。

日々新たなり(1)

2006年12月24日 | Weblog
村内ファニチャーアクセスの企業特性を一言でいえば″日々新たなり″だ。

売り場がいつも生き生きとしていることは誰にでも分かることだが、企業体質、企業組織といった表面にはなかなか出てこない分野においても、常に清水が流れるかのように、改革が必要に応じて行われている。

改革を行うには、まず問題意識をもっことが不可欠である。矛盾を肌身で感じる感性がなければ、改革の″カ″の字も出てこない。また、改革には様々な分野において、古い体質とのあつれきが生じるために、膨大なエネルギーが要求されてくる。改革実行に勇気が必要とされる所以がそこにある。

道昌は創業五十周年を迎えた平成九年度に、思い切った組織改革に取り組み、引き続いて平成十年度にも社内の構造改革、意識改革に力を入れた。

現状改革だけではなく、将来起こりうる問題をも想定、そのリスク回避策にも手を打つなど、今日ばかりか、明日をもにらんだ改革布石を矢継ぎばやに打ってきた。

その原動力は、第一に今がまさしく回天、つまり世の中が大きく変わりつつある時だ、という時流認識。第二に環境の厳しさに真っ正面から立ち向かう道昌の本来的な性格--などにある。「不況は天下から与えられたものであり、天がこの不況をどう自分が乗り切るかを試している」と道昌はとらえ、むしろ、不況を天の恵みと考える。

豪胆といえば豪胆だが、創業五十周年と同時に着手した様々な改革手法は、まさにその豪胆に細心が同居していることを示している。

日々新たなり(2)

2006年12月23日 | Weblog
道昌は平成十一年の新年を迎えるにあたり五つのキーワードを社内に提唱した。

第一にスケールアップ。組織の体質や組織を構成する一人一人のスケールアップを訴えるものだ。スケールアップは組織であれ、人であれ、古いものを引きずっていたのでは実現不可能だ。改革への勇気、旧習からの脱皮意欲がなければ、できるものではない。過去の実績、既成の枠組みに安住するものは置いていくしかない、という道昌のシグナルでもある。

第二にパワフル。順調な時には誰しも、どの企業も、前向きなエネルギーをもつことはできる。しかし、環境が悪化した時が問題である。道昌は市場低迷のまっただ中にある今こそ、社員一人一人が元気を出して事に当たることを提唱する。そこから自ずと環境打破のエネルギーが出てくるはずだ、と考える。

実はこのパワフルのキーワードは、横浜・みなとみらい21地区のFAZ施設「ワールドポーターズ」に今年出店するにあたって業務提携したベルギーのヴァーパークモウズという家具専門店に教えられたものだ。

このヴァーパークモウズ社は、日本でいえば典型的なファミリー経営企業だが、経営陣の一人一人が実に明るく、すべてをプラス志向でとらえ、着実な経営基盤を築く。単独店ながら、同業二社と共同してオリジナル商品の共同開発にも力を入れ、村内との業務提携にあたっても、次から次へとアイデアをぶつけてくる。実に陽性でエネルギッシュなのだ。

日々新たなり(3)

2006年12月22日 | Weblog
道昌が新年を迎えるにあたり、社内に提唱したキーワード五つのうちの第三は、よりよいものをより安く、だ。

村内といえば創業から現八王子本店開設にいたるまでの加住町時代、「あんなタヌキの出るような片田舎の店で、よくあれだけのお客さんを集められるものだ」と、家具業界七不思議の一つに数えられるほどの超繁盛店であった。

もとより、その背景には、万助・道昌親子の″百姓商法″、″まごころ商法″が口から口ヘ伝えられる中で、多くのファンを魅きつけたことは間違いないが、それよりもなによりも「村内へ行けば、よりよいものがより安く買える」という単純明快な販売方法が、「いいものを値打ちで買いたい」という古今東西変わることのない消費者の心を、しつかりとつかんでいたためだ。

道昌はその商売の原点を、五十一年目の創業にあたって、改めて基本方針として社内に打ち出したものである。

キーワードの第四はサービスの徹底化である。道昌の唱えるサービスとは生半可なものではなく、ノードストロームのように「お客さまに最上のサービスをしていく」ことにあり、結局、そのために村内商法の原点、「まごころ商法」に立ち返っていく。

見るだけのお客さま大歓迎、何回来店されても心からお迎えする、アフターサービスは半永久的に行う、駐車場もフリーで自由に利用していただく--そうした基本の基本からお客さまを大切にすることで、すべてのサービスを向上させていこうというのだ。