NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#358 ザ・フー「Heat Wave」(Decca)

2024-03-29 08:27:00 | Weblog
2024年3月29日(金)

#358 ザ・フー「Heat Wave」(Decca)







ザ・フー、66年12月リリースのセカンド・アルバム「A Quick One」からの一曲。邦題は「恋はヒートウェーヴ」。エディ&ブライアン・ホーランド、ラモント・ドジャーの作品。キット・ランバートによるプロデュース。

英国のロック・バンド、ザ・フー(以下フー)については「一枚」「一曲」の両方で何度となく取り上げているが、ことこのバンドについては、いくら書いても書き足りないという気がする。だから、まだまだ書いていくつもりだ(笑)。

フーはザ・ディトアーズという前身のバンドが61年に結成され、ハイ・ナンバーズと改名して64年にレコード・デビューしたが不発、バンド名を再度変えて65年についにブレイク、以降解散や活動休止を挟みながら、現在に至るまで活動しているトップ・バンドだ。ビートルズ、ストーンズと並ぶ英国の三大バンドと呼ばれているものの、わが国での人気は昔からパッとしない。

これは全盛期に来日してライブを披露しなかった(出来なかったというべきか)ことが大いに災いしているのだろう。返す返すも残念である。

それはともかく、67年4月にモンタレー・ポップ・フェスティバルに出演、その派手なパフォーマンスから「ギターを壊したり、ドラムスを転がしたりする、ライブが過激でヤバいバンド」という評判が広まる前のフーは、意外と大人しい、それこそアイドル風味さえ感じさせるポップ・バンドであった。そのことがよく分かる一曲が、本日取り上げた「Heat Wave」である。

もともとこの曲は、米国の黒人女性コーラスグループ、マーサ&ザ・ヴァンデラスが63年にシングル・ヒットさせた、いわゆるモータウン・サウンドのナンバー。全米4位の大ヒットとなっている。フーはこれを3年後にカバー、セカンド・アルバムに収録したのだ。

ここで、67年にドイツのテレビ番組「ビートクラブ」に出演した時のフーを観ていただこう。

ボーカルのロジャー・ダルトリーは、まだトレードマークの金髪カーリーにする前で、大人しめな髪型。ドラムスのキース・ムーンも、まだその変人ぶりが広く知られるようになる前で、妙に初々しく、バンドメンバーの中でも一番アイドルっぽい。

メンバー全員によるコーラスが、実にフレッシュ。リードボーカルの実力で聴かせるだけでなく、ハーモニーも売りにしていたフーならではの出来映えである。

シングルでリリースしたわけでもないのにこの曲をテレビで歌ったのは、やはりドイツでも以前にヒットしてよく知られた曲で、視聴者にウケそうだったからということなのだろう。

当時はフーも、他のアーティストのカバーをわりと抵抗なくやっている。いい例が、ストーンズの「The Last Time」のカバーだろう。本来は女性ボーカル用の曲でも、ライバルバンドの曲でもウケるならばやる。いい意味での節操の無さが、なんとも微笑ましい。

アルバム「A Quick One」はそういった普通のポップ・ソング系のラインナップが中心であったものの、最後にタイトル・チューンでもある「A Quick One, While He’s Away」という9分あまりのミニ・オペラ曲を収めている。

フーのある意味出世作であるロック・オペラ・アルバム「Tommy」(69年リリース)の先駆けとなったナンバーだ。すでに彼らは、従来の細切れの、ポップ・ロック・チューンからの脱皮を試み始めていたのだな。

単なるポップ・ヒット・メーカーに終わらず、常に新しいものをクリエートしていったバンド、ザ・フー。

後のハード・ロック・スタイルへのシフトはまだ予感出来ないモッズ時代のザ・フーだが、演奏力、歌唱力の高さはすでにトップ・レベルだったということがよく分かる一曲。たった3分でも、聴くものの耳をとらえて離さない。ぜひ、チェックしてみて。

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