NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音曲日誌「一日一曲」#339 スモール・フェイセズ「You Need Loving」(Decca)

2024-03-10 08:54:00 | Weblog
2024年3月10日(日)

#339 スモール・フェイセズ「You Need Loving」(Decca)






スモール・フェイセズのファースト・アルバムに収録された一曲。メンバーのスティーヴ・マリオット、ロニー・レーン、およびウイリー・ディクスンの作品。ジョン・パントリー、ドン・アーデンによるプロデュース。

英国のロック・バンド、スモール・フェイセズは「一日一枚」の方で2回取り上げているので、詳細については省かせていただくが、65年にバンド結成してまもなく、デッカレーベルからシングル「Whacha Gonna Do About It」でデビュー、チャート14位となったものの、しばらく人気は出なかった。

同年のセカンド・シングル「I’ve Got Mine」で火はつかず、翌年の3枚目「Sha La La La Lee」のヒットでようやくメジャーな存在となった。

そんな、まだブレイク前の65年5月にリリースしたのが、ファースト・アルバム「Small Faces」である。この中には、当時彼らがライブで毎回のようにオープニングで演奏していたナンバーも収められており、それがこの「You Need Loving」だった。

もともとこの曲は、62年にマディ・ウォーターズがリリースしたシングル曲「You Need Love」で、ウイリー・ディクスンの作品。

バックでは名手アール・フッカーがスライド・ギターを、ジョン・ビッグムース・ウォーカーがオルガンを奏でている。なかなかの佳曲だったが、チャートインには至らなかった。

ワンコードで延々と演奏される、このグルーヴ感あふれる曲に着目したマリオットとレーンのコンビは、歌詞の一部を変えて、バンドのレパートリーとした。

アルバムリリースの当初は、ふたりの名前だけがクレジットされていた。ちなみにディクスンは彼らのアルバム内容を知らなかったので格段のお咎めはなく、後に彼に配慮してか、名前が追加された。

ステージでは一番最初に演奏され、その激しいビートでオーディエンスを揺さぶり引きずり込んだ、そういうナンバーだったようだ。言ってみれぱ「つかみの一曲」。

オリジナルのマディのバリトン・ボイスとはまったく違った、超ハイトーンの声を持つマリオットの、エモーショナルなボーカル、そしてオリジナルとは大きく異なる荒々しいビート、ギター・プレイ。

他のモッズ系バンドとはひと味違った、強烈な個性がこのナンバーには横溢している。もしこの曲がシングル・カットされていたならば、リスナーに相当なショックを与えて結構なヒットになっていた可能性はあるな。

ところで、この「You Need Love」そして「You Need Loving」は、のちにゴジラの如く別の形態へと進化して、とんでもないヒット曲となる。

ロック通の方ならば、すぐにピンと来るだろう。そう、レッド・ツェッペリンの「Whole Lotta Love(胸いっぱいの愛を)」である。

「Whole Lotta Love」はZEPの69年リリースのセカンド・アルバム「Led Zeppelin II」のオープニング・トラックであり、同年に英国以外の世界各国でシングルリリースされ、米国では最初のスマッシュ・ヒット(全米4位)となった。日本でも同様である。

タイトルこそ変えてあるがこの曲、一聴すれば瞭然、間違いなく上記2曲のリメイクにほかならない。

いってみればこの曲がZEPをコアなロックファンだけでなく、ポップス・リスナー全般にまで知らしめたキラー・チューンとなったわけだが、オリジナルバージョン以上にスモール・フェイセズのバージョンが、それに与えた影響の大きさを感じさせる。サウンドにおいても、ボーカルにおいても。

実際、ZEPのメンバー、プラントとペイジはスモール・フェイセズのライブを好んで観に来ていたという。当然、「You Need Loving」も聴いているわけで、イカした曲探しに余念のないプラントたちのアンテナに引っかかるものがあったに違いない。

両者の歌詞の共通点などから、影響について細かく論じていくことも出来るのだが、やたら長ったらしくなってしまうので、そういうのはインターネットの専門サイトに任せておこう。

要は、先人のカッコいい音をいかに上手くパクるかが、ロックのキモ。

ロバート・プラントも、自分と同じぐらいハイトーン・ボイスを誇る先輩スティーヴ・マリオットを観て、大いにインスパイアされるものがあったはずだ。

それが「Whole Lotta Love」に結実した、そういうことだろう。

延々と続く、ワンコードの強力なグルーヴ。即興の歌詞を付け加えて、際限なく広がる言葉の洪水。

レッド・ツェッペリンの大成功へのレールを引いたのは、先輩バンド、スモール・フェイセズであったのだ。

歴史に「もし」を持ち込むのはナンセンスであることを承知で言えば、もし「You Need Loving」がシングルリリースされて大ヒットしていれば、ポップス史、ロック史は今とは違うものに変わっていたという気がする。

「Whole Lotta Love」の前形態、改めてじっくりと聴いてみてくれ。






  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする