マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)再任されたヴェルホフシュタット現首相。暫定事務処理内閣の代表としてリスボン条約の署名式にも出席していた。

 報道によると、レテルメ(Yves LETERME)次期首相(組閣担当者、本名Yves Camille Desire LETERME)の2度目の辞職(12月1日)を受けてアルベールⅡ世国王が新組閣担当者に任命(3日)していたヴェルホフシュタット(Guy VERHOFSTADT)現首相(フランダース自由民主主義(VLD)所属。本名Guy Maurice Marie Louise Verhofstadt)は12月21日、第3次ヴェルホスシュタット内閣の組閣を完了し、国王に対して宣誓することで新内閣を発足させ、6月の総選挙から194日ぶりにベルギーの組閣作業が終了しました。新政権は首相と13人の閣僚からなり、うち蘭語系は7名(首相を含む)、仏語系は7名と同数になっています(ちなみに第2次内閣では蘭語系8人、仏語系7人。なお国事長官の任命はなし)。

 新内閣は、レテルメ前組閣担当者が連立工作を進めてきたキリスト教保守系2党(蘭語系:フランダース・キリスト教民主主義(CD&V)、仏語系:中道民主・人道主義(CDH))及び自由党系2党(蘭語系:フランダース自由民主主義(VLD)、仏語系:改革者運動(MR))に加えて、社会党系仏語政党「社会党」(PS)が参加する5党連立政権(閣僚配分は、CD&Vが4人、CDHが1人、VLDが3人、MRが3人、PSが3人)ですが、蘭語系の社会党「異なる社会党・スピリット」(SP.A)は総選挙での敗北を理由に連立参加を辞退。1960年代~70年代に各政党が仏語系・蘭語系に分裂して以来、初めて2言語に分かれた姉妹政党が与野党に分裂することとなりました。総選挙敗北の責任をとって下野したはずの現首相が新内閣を首班として組閣するというのも奇妙と言えば奇妙ですが、そもそも総選挙で敗北した旧自由党系・社会党系連立政権の一部である自由党系2政党が当初から連立に入っており、蘭語系自由党所属である現首相が「復活」するのもあながち不可能ではないようです。もっとも、ヴェルホフシュタット現首相自身、この新内閣を2008年3月の復活祭前までの暫定的短期内閣と位置づけており、これは、内閣不在が長引くことによりベルギーのイメージが低下することを回避するための苦肉の策とも言えそうです(現在でもヴェルホフシュタット首相は暫定事務処理内閣を運営しているので、実態はあまり変わらない。他方、これ以上組閣を遅らせれば、クリスマス休暇に入ってしまうため組閣実務を再開できるのは来年明けになってしまう)。ちなみに、その後はやはり実力者・レテルメ前組閣担当者による本格内閣の発足が本命視されており、レテルメ氏自身、副首相兼予算・運輸・国家制度改革担当大臣として新内閣に入閣しています。なお、一時には挙国一致内閣として連立参加の話もあった環境系政党(蘭語系:「緑!」(Groen!)、仏語系:エコロ(Ecolo))は、政権に加わりませんでした。

(写真)2度も組閣に失敗したレテルメ副首相

 ベルギー内政を巡っては、6月に実施された総選挙後、組閣を担当したレテルメ次期首相が、自らの失言に加えて、国家制度改革(仏語系と蘭語系の自治のあり方を見直すもの)を巡って両言語間の対立を調整できずに、組閣担当者を辞任(8月23日)。ファン=ロンパウ(Herman VAN ROMPUY)調整役(explorateur)(国民議院(下院)議長、8月29日任命)による調整を進めた結果、9月29日にレテルメ氏が再度組閣担当者に指名されたものの、10月9日には組閣のメドが絶たないまま議会が開会。しかも、国家制度改革を巡って11月7日に連邦議会代議院(下院)内務委員会がブリュッセル・ハル・ヴィルヴォールド(Bruxelles-Halle-Vilvoorde)選挙区分割法案を仏語系の反対を押し切って可決したり(ちなみに、この時強行採決を実施したデ・クレム(Pieter DE CREM)内務委員長が、新内閣では国防相として入閣)、連邦制維持を求めるブリュッセル市民らの大規模デモが実施される(11月19日)中、結局、自ら2度目の辞職を申し出るハメになりました。この政治的ダメージは大きかったようで、12月8日付「デ・スタンダールト」紙(蘭語系)の蘭語系有権者を対象とした世論調査によれば、「連邦首相にふさわしい人」として、レテルメ氏を挙げた人(40%)がヴェルホフシュタット首相を挙げた人(41%)を下回り、選挙で敗北したはずの現首相が人気を回復しています。この傾向は南のワロニア(ワロン)地方、仏語圏では一層強く(仏語圏ではレテルメ氏は反仏語的として人気が無い)、12月6日付「ル・ソワール」紙(仏語紙)のブリュッセル首都地方圏及びワロン地方圏での全国世論調査では、(蘭語圏出身者であるにもかかわらず)ヴェルホフスタット現首相が圧倒的な第1位になり、仏語系のレンデルス「改革者運動」党首が2位、レテルメ前次期首相が3位でした。

(地図)フラームス・ブラバント県の地図。青線が地方圏境、緑線が県境。東側がルーバン郡、西側がハル・ヴィルヴォード郡で、同郡とブリュッセル首都圏を併せたのがブリュッセル・ハル・ヴィルヴォールド選挙区(赤色及び桃色部分)。桃色部分は、蘭語共同体にありながら仏語住民が多いため、便宜措置(仏語の公的使用が可能)が認められた6自治体。一般に、蘭語系住民はこの「便宜措置」をあくまで時限的な移行措置(将来的には解消されるべきもの)と考えているのに対して、仏語系住民は、仏語系の基本的権利と考えている。

 新内閣は、懸案の国家制度改革と当面の予算編成に重点を絞って取り組むこととなりますが、建国以来社会的な優位を維持してきた仏語系が徐々に蘭語系に押される(かつては知識階級の言語は南北ともに仏語で、蘭語は北部庶民の方言という位置づけだった)という歴史的大状況の中で、蘭語側の更なる自治要求に仏語側が「ベルギーが消滅する」と過剰反応している側面もあるだけに、今後スンナリと国家制度改革ができるのか、レテルメ本格政権に橋渡しができるのか、引き続き全く予断を許さない状況です。



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 8ヶ月半の祐... 謹賀新年 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。