マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)署名が行われた修道院

 欧州連合(EU)加盟各国(27ヶ国)の首脳は13日、ポルトガルEU議長国の首都・リスボンのジェロニモス修道院に特設された会場で、EUの新しい基本条約となる「リスボン条約」に署名しました。リスボン市内で昼前から行われた署名式では、議長国・ポルトガルのソクラテス首相やバローゾ欧州委員長、ポッタリング欧州議会議長らが演説した後(ちなみに、ソクラテス首相はポルトガル語、ポッタリング議長はドイツ語での演説でしたが、バローゾ欧州委員長はスペイン語、フランス語、英語を演説の途中で切り替えていました)、国名順に各国首脳が条約案の原本に署名(但し、ブラウン英首相だけは議会審議の関係で式典に遅れて署名したため、式典にはミリバント外相が代理出席)。その後首脳らは、特別の新型路面電車に乗って記念の昼食会場へ移動して行きました。

(写真)式典の模様。奥のポルトガル国旗は大型スクリーンの映像。

 現在のEUの法的基盤は「欧州連合条約」(EU条約、マーストリヒト条約)と「欧州共同体を設立する条約」(EC条約)、それに各種議定書宣言からなっています。しかし、東欧諸国がEUに参加し、更に西バルカン諸国やトルコの新規加盟が見込まれる中、加盟国数の増加に応じて意思決定制度を効率化する必要が生じたため、2004年、「欧州憲法条約」(欧州憲法を定立する条約)に調印。ところが、2005年5月と6月にフランスとオランダで実施された条約批准のための国民投票において、両国とも「欧州憲法条約」を否決。その後、2007年6月までに27加盟国中18加盟国(3分の2)が批准をした欧州憲法条約ですが、結局、ドイツEU議長国(2007年前半)がローマ条約署名50周年記念式典(3月25日)その他の機会を利用して新条約への機運を高め、2007年6月、欧州理事会(EU公式首脳会合)で「改革条約」と称される新条約に盛り込むべき要素が政治合意されました。この際、特にポーランドやイギリスなどが自国の主張を強く打ち出したため新条約の起草作業は難航が予想されましたが、結局、今年10月18日~19日のリスボンEU非公式首脳会合で草案に合意。今日の署名にこぎつけました。署名地の名前から「リスボン条約」と称されていますが、こういう名前の条約が1本存在するのではなく、現行のEU条約とEC条約の改正条約と、新しい各種議定書及び宣言から構成され、EU条約及びEC条約は引き続き存続します(但し、EC条約は「欧州連合の機能に関する条約」と改題され、欧州共同体は廃止)。

(写真)署名式の際の集合写真(ファミリー・フォト)

 このように、リスボン条約とは、ニース条約やアムステルダム条約がそうであったように、基本的には既存条約の改正条約です。しかし、その内容については9割がた「欧州憲法条約」の内容を反映しているとされます。具体的には、以下のとおりです。

EUに明文で法人格を付与
 それまで、EUとは、明確に一つの法人なのか、それともEC(欧州共同体)に共通外交・安全保障政策(CFSP)、司法・内務協力を加えた集合体なのかが、法律上不明確なままでした。今回、これが新条約で明確化され、晴れてEUは加盟国とは別個の独自の主体であることが確定しました。

「三本柱」構造の廃止
 これまでEUは、超国家的主体としてのEC(第一の柱)、加盟国間の協力であるCFSP(第二の柱)及び司法・内務協力(第三の柱)のいわゆる「三本柱」構造をとってきました。つまり、同じ「EU」という枠組みの中に、3つの異なる国際的制度が混在していた(更に言えば、「EC」の中には、欧州経済共同体と欧州原子力共同体が存在)訳ですが、新条約ではこの区分を廃止し、単一の「EU」という制度に置き換えられました。
 ちなみに、日本ではよく「ECがマーストリヒト条約でEUになった」等と説明されますが、正しくは「ECに別の2つの要素が追加されて、新たに全体を包括するEUが発足した」と説明すべきところで、ECがEUになってもECが廃止された訳ではありません。

EUと加盟国との権限関係の明確化
 EUのみが法的拘束力を有する措置を採択することができる分野(排他的権限)、EUと加盟国が法的拘束力を有する措置を採択することができる権限を共有している分野(共有権限)が明確化されました。

欧州理事会の明確化
 元来、単なる慣行に過ぎなかった欧州理事会(EU公式首脳会合。いわば、合議制のEU大統領)をEUの主要機関(但し、立法権限はなし)として位置づけた他、現在は加盟国の半年毎の持ち回り(輪番制議長国)である議長職を、任期2年半(1回のみ再任可能)な単一人の欧州理事会(常任)議長が行うこととしました。但し、輪番制議長国制度そのものは廃止された訳ではなく、引き続き欧州連合理事会の議長職は(対外関係を除き)加盟国が行います。
 なお、この(常任)議長は、日本の報道では「EU大統領」と表現されていますが、EUの組織・機関を見れば、国家における「大統領」の役職を担っているのはこの合議体としての「欧州理事会」そのものであって、常任議長はその議事進行役に過ぎないのですから、「EU大統領」との表現は明らかな誤用です(「President」は「大統領」だけでなく「総裁」「総理」という意味もあり、強いて言えば「欧州理事会総理」はまだ適切)。

特定多数決制度の改正
 欧州連合理事会の主要な意思決定方式である「特定多数決方式」を、これまでのやや人為的な票配分(英仏独伊の4大国が同じ数の票を持っていた)から、加盟国数の55%以上及びEU人口の65%以上(但し最低15ヶ国の賛成が必要)と改めました(2014年11月1日から)。

「EU外務・安全保障政策上級代表」の新設
 現行のCFSP上級代表(ハヴィエル・ソラナ氏が就任)と対外関係担当欧州委員(ベニタ・フェレーロ=ヴァルトナー氏が就任)の2つの役職を統合し、欧州副委員長を兼務する「EU外務・安全保障政策上級代表」が新設されました。この役職は、欧州憲法条約では「EU外務大臣」と名づけられていましたが、一部加盟国の反対を受けて名前が変わった経緯があります(故に、日本の報道で「EU外相」となっているのは、経緯からしても明らかな誤用)。
 もっともこの「上級代表」、欧州委員長や欧州理事会議長との関係をどう整理するのかといった点についてはまだ不透明で、今後の課題として残されています。更に、「上級代表」の補佐機関として、「欧州対外活動省」(欧州の「外務省」に相当するもの)が設置されますが、具体的な組織がどうなるのか等についてはまだ決まっていないようです。

欧州委員会の定員削減
 現在、欧州委員会(合議制の執行機関であり、内閣に類似。正式には「欧州諸共同体委員会」)は、加盟国数と同じ数の欧州委員=閣僚を抱えていますが、これだと加盟国数が増えれば増えるほど閣僚数が増え、意思決定が非効率的になります。そこで、リスボン条約では、2014年11月1日から、欧州委員の定数は加盟国の数の3分の2に削減することを定め、意思決定制度のスリム化を図っています。もっとも、そうなると、どの国が欧州委員を任命できてどの国ができないのか、といった点で今後加盟国間の争いが表面化する虞もありますが。

欧州議会の立法過程における関与強化
 具体的には、欧州連合理事会と欧州議会が対等の立法権限を行使する「共同決定手続」が、通常の立法手続とされました。これで、欧州連合理事会はいわば「上院」に、欧州議会はいわば「下院」になった格好です。

欧州基本権憲章に法的拘束力を付与
 但し、欧州基本権憲章の内容自体は、リスボン条約には盛り込まれず、リスボン条約署名の前日にストラスブールで別途、宣布式が行われました。

 なおこの他、国境検問の廃止に関するシェンゲン協定の実施国が2007年12月21日から東欧9ヶ国(キプロスを除く東欧新規加盟10ヶ国)に拡大され、域内の旅行がより便利になります(但し、右は陸路のみで、空路は2008年に入ってから)。

(写真)署名するサルコジ仏大統領。2008年後半はフランスがEU議長国となる。

 このリスボン条約、加盟国による批准が順調に進めば、2009年1月1日に発効する予定。しかし、問題はこれからで、果たして各国が前回の反省を踏まえてきちんと批准できるのか(特に仏、蘭、英)、必ずしもまだ確定したとは言えない状況です。



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