マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 



 
(写真)フランス・ストラスブールにある欧州評議会(CE)と欧州議会(EP)の庁舎「欧州会館」(手前の河川はリル川)。一番上の写真の庁舎の隣にある。川の上にかかる橋は、隣の欧州議会ルイーズ・ウェイス(Louise Weiss)庁舎に繋がっている。ルイーズ・ウェイス庁舎が完成するまでは、欧州議会は欧州評議会の庁舎を間借りし、欧州評議会本会議場を欧州議会本会議、欧州評議会議員会合に使用していたが、両者は、思想的にはともかく、法的には全く別の団体(欧州議会は欧州連合(EU)の議決機関、欧州評議会はEUとは別の国際機関)。

 報道によると、仏アルザス州下ライン県ストラスブール(Strasbourg)にある欧州人権裁判所(Cour europeenne des droits de l'homme、CEDH。裁判所で仏語とともに公用語となっている英語ではEuropean Court of Human Rights、ECHR)は12月4日、体育の授業中にスカーフを着用していたことを理由に退学処分を受けたのは欧州人権条約違反として2人のフランス人女子学生(21歳と22歳)が提訴していた事件について、原告の訴えを却下(debouter)する判決を示しました。

(写真)欧州評議会、欧州議会の庁舎「欧州会館」(手前の河川はリル川)。一番上の写真の庁舎の隣にある。

 この事件は、オルヌ(Orne)県フレール(Flers)に住んでいたイスラム教徒である2人の仏人女子学生、ドログ(Belgin DROGU)さんとケルヴァンスィ(Esma-Nur KERVANCI)さんが提訴していたもので、1999年、第6学年(高校)の体育の授業でスカーフを脱ぐことを拒否。2人は代替案として帽子を着用したものの、その後は体育を欠席する等したため、1999年2月、学校はこの2人を退学処分にし(3月、カーン(Caen)の教育管区長もこの処分を追認)、2人は通信教育で学業を続けることとなったというものです。女子学生らは処分を違法としてフランスの行政裁判所に提訴したものの、カーン行政裁判所(1999年10月)、ついで国家評議院(最高行政裁判機関)は2人の訴えを退ける判決を判示。そこで、2人は、こうした処分が欧州人権条約の第9条(思想、信教、宗教の自由)及び第1議定書第2条(教育を受ける権利)に反するとして、欧州人権裁判所に仏を相手取って提訴していました。これに対して、欧州人権裁判所は、退学処分は条約第9条と比較して均衡を失しているとまではいえず、原告は現に通信教育によって学校教育を受けることができたと指摘。フランスでは、トルコやスイスと同様に、政教分離原則(laicite)が憲法上の原則となっており、特に学校においてこの原則が擁護されている。」としつつ、学校当局は原告2人の宗教についても十分考慮した(差別はしていない)と判断し、第1議定書第2条にも違反していない等として、訴えを退けました。

(写真)欧州評議会の庁舎「欧州会館」正面口。公用語である英語と仏語で表札が出ている。

 欧州人権裁判所は、欧州評議会(Council of Europe、CE)加盟46ヶ国が署名する欧州人権条約に基づいて設立されている裁判所で、46ヶ国の個人が加盟国の政府による公権力行使を直接提訴できるという意味で国際的にも珍しい制度になっています。ちなみに、欧州連合(EU)の司法機関である欧州裁判所(所在地:ルクセンブルク)とは違う組織で、CE自体も欧州理事会(European Council、公式EU首脳会議)や欧州連合理事会(Council of the European Union、EUの意思決定機関)と全く別個の組織ですが、名前が紛らわしい上に、公式の旗(CE旗)がEU旗と同じであるため、あたかもEU関係機関であるかのように誤解されがちです(ちなみに、CE加盟46ヶ国にはロシアもトルコもモナコもセルビアもアゼルバイジャンも加盟しており、日、米、カナダ、メキシコ、イスラエルもオブザーバー参加しているのに対して、EU27加盟国にはこれらの諸国は含まれていません。また、CEの公用語は英仏2ヶ国ですが、EUの公用語は21言語あります。)。

(写真)ちなみに欧州議会ルイーズ・ウェイス(Louise Weiss)庁舎はこのような形。1999年12月14日に開館した比較的新しい庁舎ではあるが、2002年には館内の水道がレジオネラ菌で汚染される騒ぎがあったほか、2008年8月7日には本会議場の天井の1割近くが崩落するという事故も発生。幸い、ブリュッセルにも本会議場があるため、その年の9月の会合はブリュッセルで開催された。

 仏の公立学校(ちなみに、仏では私立学校はほとんど無い)におけるスカーフの着用については、「政教分離」の徹底の観点から、これがイスラム教を表象するとして禁止の動きが進んでおり(ちなみに、スカーフ=イスラム教という観念は「政教分離」を国是とするトルコにも存在しており、最近、イスラム主義の色彩が強いトルコ与党・公正発展党(AKP)が、トルコの大学における女子学生のスカーフ着用解禁を推進して議論を呼んでいる。)、古くは教育における政教分離を規定した1882年のフェリー法(時の教育大臣フェリー(Jules FERRY)に因んだ法律)が有名です(この他、一般的な政治面における政教分離原則も憲法上の原則となっていますが、旧ドイツ領土だった経緯もあり、アルザス州とモゼル県については、国家と教会とが協定を結ぶドイツ方式の政教関係が現在でも続いています。また、仏海外領土でも同様に例外があります。)。現在では、これを更に進めて、2004年3月15日法律第228号「公立学校における宗教的表象に関する法律」に基づき、スカーフ等の宗教的ファッションは、公立学校においては一律禁止となっています(なお、他の宗教についても扱いは同様であり、キリスト教を表象する十字架等も不可。)。スカーフはまた、フランスでは単に公立学校における政教分離の問題にとどまらず、イスラム教徒女性の人権を制約する前近代的な女性差別とも観念されており、イスラム教的な観念(処女でないので離婚)自体が忌避される傾向があるのは、既に別記事に記したとおりです。
 今回の欧州人権裁判所判決は、こうした仏国内における観念が欧州全体でも支持されていることを改めて確認するものとなりました。

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