Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

羊たちの沈黙

2006-08-07 | 外国映画(は行)
★★★★★ 1990年/アメリカ 監督/ジョナサン・デミ

「サイコスリラーの潮流を作り出した原点であり名作」


サイコものの歴史は「羊たちの沈黙以前、以後」と分類されるほどの記念碑的作品だと思う。例えば、少し視野を広げてオカルトやホラーというジャンルにすると「エクソシスト」とか「オーメン」などの名作あるわけだが、私はこれらの作品を観ていない。それは、ひとえに怖い映画が苦手だからだ。首が回るのも嫌だし、たくさん血が出るのも嫌だ。(最近かなりホラーが見れるようになってきたので、これらの古典物は一度じっくり見直そうとは思っている)

で、戻って「羊たちの沈黙」だが、この作品はこれらのホラーやオカルトといったジャンルが苦手であった私のような人間に対して「怖い映画って面白いんだ」という目を開かせてくれた。私が今「リング」や「CUBE」や「SAW」が見れるのは「羊たちの沈黙」が面白かったからに他ならない。そして、「猟奇殺人物」というアンダーグラウンドな世界が一気にメジャーなエンターテイメントとして確立されたのも今作品が興行的にも大成功を収めたからだろう。

おどろおどろしい殺人劇が中心でありながら、アカデミックな雰囲気が全編に漂う。このあたりのニュアンスが多くの人々を引きつけたのは間違いなく、それはひとえにFBI捜査官クラリスを演じるジョディ・フォスターとハンニバル・レクターを演じるアンソニー・ホプキンスの演技力の賜物である。殺人がおぞましければおぞましいほど、2人の冷静で落ち着いた演技がいっそう際だつ。また、「犯人は誰なのか」というスリラー物の主軸よりも、犯人逮捕の協力を要請するクラリスとそれを受けるレクター博士、2人の心理劇をしっかりと描ききっているのがいっそうこの映画をすばらしくした。

クラリスとレクター博士との駆け引きは、原作でも非常に重要な部分を占めているのは間違いない。だが、それを映像化すると考えた時に、物語を引っ張る猟奇殺人事件とのバランスをどう取るかというのは、一つの大きなポイントだったろうと思う。場面は常に拘置所の中。2人には大きなアクションもなく、セリフのみの心理戦が繰り広げられる。だが、この心理戦の場面が非常にスリリングで面白いのだ。ふたりの立場は、殺人犯と警官でありながら、時に父と娘、または医師と患者、または恋人といった関係性をさらけ出す。この複雑な心理状況をジョディ・フォスターとアンソニー・ホプキンスは見事に演じている。

原作も何度も読んだし、映画は何回見たかな。たぶん10回以上は見ていると思う。私の中でこの作品は、俗に言う「エデンの東」とか「七人の侍」のような名作の域に入っている。

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