Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

トゥモロー・ワールド

2007-12-11 | 外国映画(た行)
★★★★☆ 2006年/イギリス 監督/アルフォンソ・キュアロン

「長回しのカメラワークに度肝を抜かれる」


最初のカフェでの爆発シーン。あれがスイッチとなって、まるで自分も2027年にタイムスリップして、その場にポトンと落とされたような感覚の2時間だった。私はセオの同伴者となって、キーの赤ん坊を守るために戦い、無事に船に送り届けた。そんな充足感が体を満たしたのです。なぜ人類は子供が産まれなくなったの?ヒューマン・プロジェクトって一体何の団体なの?そのような説明は不要です。だって、まさに今私は2027年のその場にいるのですもの。

私がセオの同伴者になれたのは、臨場感あふれるカメラワークの賜。特にセオと共に戦火をくぐり抜けたあの長い長い時間はまるで息もできぬほどの高揚感だった。このシーン、リハーサルはどうしたのだろうか?あれだけの長い時間を1カットで撮影するというのは、製作スタッフの技術力と熱意がないと到底無理でしょう。

そして明暗のコントラストが効いた緑がかった映像は、近未来が示す「ハイテク」なイメージを一掃している。コンピュータの発達がもたらすハイテク設備などのメタリックな描写は、目の前の出来事を「他人事」のように感じさせてしまう欠点がある。しかし本作では、隔離された移民たちの泣き叫ぶ様子や収容所の無秩序な描写が繰り返され、キーのお腹に芽生えた命の「神性」がクローズアップされる。ラスト、静かな戦場に響く赤ん坊の泣き声がなんと厳かに聞こえたことか。

管理社会になっている、ロボットに支配されている、宇宙に住んでいる…etc。どんな未来予測よりも「子供が産まれない」というのは絶望的であり、かつ生々しい。そして、本作で私が何より評価したいのは、子供が産まれることの神秘性を宗教の手を借りずに見せきったこと。赤ん坊を抱えたキーが兵士の間を通り抜けるシーンは背筋がぞくぞくした。

それにしても、アレハンドロといいメキシコ出身の監督は、濃淡を効かせた映像づくりが実にうまい。かの地の照りつける暑い日差しと何か関係でもあるのだろうか。それとも彼らにくすぶる熱情のせいか。ジョン・レノンを思わせる平和主義者のマイケル・ケインやジュリアン・ムーアも好演。ビートルズやキング・クリムゾンなどを思わせるブリティッシュロックテイスト満載の音楽もカッコイイ。映像、音楽、語り口全てにおいてぴしっと世界観ができあがってるのがすばらしい。
映画館に見に行きたかったなあ!

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