Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

天然コケッコー

2008-05-03 | 日本映画(た行)
★★★★★ 2006年/日本 監督/山下敦弘
「スタンダードにしてスタンダードに非ず」


「ジョゼ」や「メゾン・ド・ヒミコ」を書いた脚本家渡辺あやとのコラボレーション。胸一杯に膨らんだ期待を見事に満足させてもらった1本でした。山下作品と言えば軽妙な「間」のセンスを活かした作風ですが、狙い澄ましたような「間」は本作では多用していません。バカの一つ覚えみたいで恐縮ですが、やはり構図ですね。とても美しいカットの連続です。エピソードとエピソードの間にインサートされる花やトマト、稲穂などのカットは田舎を表現するにはあまりのも凡庸なアイテムでありながら、実に清々しくスクリーンを満たします。草花の位置から青空を取り込んだ「あおり」のショットなど、本来ありきたりで見飽きた構図のはずなのに、その美しさに見とれてしまう。また、浜辺や田園風景を捉えたロングショットもきれいです。

そして、「間」の代わりに本作では「ゆるやかな時の流れ」を捉えようとしたかにも思えます。スクリーンの右から子供たちが現れ、左へと消えていく。そんななんでもないシーンでも、田舎ののどかさを存分に味わえます。子供たちの歩く速さがとにかく遅いのです。しかも、これだけ田舎の子供たちならおそらく自転車に乗るはずです。でも出てきません。バスが走る絵もありません。山下監督は「速度」を感じさせるものを極力スクリーンから排除したのではないでしょうか。それでも、パシッと決まって見えるのは、構図とトリミングの巧さだろうと思います。これがしっかりしていれば、コメディだろうが青春物語だろうが何でも撮れるんですね。

自分のことを「わし」と呼ぶ主演の夏帆ちゃんがとってもキュートです。原作を読んでいないのですが、天然コケッコーとは天然ボケの天然なんでしょうか?ふわふわして人のいい中学生を実に魅力的に演じています。中坊の恋愛なのに、後半だんだん切ないムードまっしぐらでオバサンは胸がキュンキュンしてしまいました。また、大沢くんという転校生を演じる岡田将生もいいですね。デビューした頃の市川隼人を思い出させます。最初は東京から来た嫌な奴かと思いましたがすぐにそよに恋してしまうなんて。まあ、まずはチューありきなんですが、それもまた、甘酸っぱいですね。

さて、「リアリズムの宿」でオシャレ過ぎると感じたくるりの音楽ですが、本作では見事にハマりました。また、佐藤浩市という有名俳優が出演していますが、後ろ姿だけ、ステテコの足元だけみたいなショットがあったりして、全く気負いを感じさせません。山下監督らしいゆるい一定のペースは常に保たれています。そして、ブラックテイストに満ち満ちた「松ヶ根乱射事件」の後がこの作品というその落差が何より愉快でたまりません。次はどんな1本になることやら、その予測の付かなさを大いに楽しみにしたいと思います。

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