昨年NHKBSで放送された『域外派兵で何がおきたのか ~ドイツ連邦軍・アフガニスタンでの13年~』につづいて、今年7月20日報道ステーションが『憲法解釈変えて後方支援 ドイツがアフガンで見た惨劇』の特集を組んだ。ドイツ政府が「後方支援」「安全」「戦闘に行くのではない」などと喧伝して強行した戦後はじめての域外派兵ISAFへの参加が、55人もの戦死者と、帰還兵の深刻なPTSDなどの後遺症を生み出していることを生々しく伝えている。
まず安倍首相が、戦争法案の内容について、アフガニスタンのISAF型治安維持部隊への参加を否定していないということを見ておかなければならない
安倍首相は5月末の国会審議で、“戦争法案でISAFへの参加は可能か”と問われて、「ISAFはすでに活動を終了しており、再評価を行うことは困難」「アフガンのような治安状況を前提としていない」と「治安状況の問題」にすり替え、答えをはぐらかした。
治安状況などを総合的に判断して自衛隊の派遣を決めると言うことだ。「アフガンのような治安状況」とはいったい何なのかも一切語っていない。「アフガンのような治安状況でない」と強弁すれば、参加できるのである。一切の条文上の制約などない。
番組によれば、日本同様湾岸戦争の時には経済支援にとどめていたドイツは、米国等から小切手外交と厳しい批判にさらされた。そして2001年に米国がアフガニスタンに対する戦争を始めたときに、NATO域外にも海外派兵をすると憲法の解釈を変えてISAFに参加したのである。
※ISAF(アイザフ)(International Security Assistance Force)
2001年12月に国連の安全保障理事会で採択された決議1386号に基づいて、アフガニスタンの治安維持・非合法武装集団の解体などを支援するために設立された軍隊。NATO(北大西洋条約機構)指揮下。2014年末に終了し、アフガニスタン政府へ治安権限を委譲している。
ドイツは2002年にアフガニスタンで「後方支援」をするとした。当時ドイツ政府は“直接戦闘とは関係ない、米軍などへの補給や輸送などの後方支援、現地の治安維持、学校建設・医療支援”などと説明していたのである。
しかし、実際は戦闘行為そのものであった。
派兵された兵士や遺族たちが次々と生々しい戦場の実態を証言する。いずれも当時20代前半の若者だ。
トワストンガートナー准尉 アフガン活動で4人の仲間を失った、1年間で31本のロケット弾を受けた。
ヨハネスクレア証言 任務のさなか 突然タリバンから攻撃をうけた、首の横を銃弾が横切った、弾薬の輸送や地雷の撤去という後方支援だったが歩くたびに空爆をうけ、だれでもが危機にさらされ戦闘に巻き込まるのではという恐怖感があった。後方支援だったのに20回もの戦闘に巻き込まれた。
息子のコンスタンティン氏を失ったお母さんのことば 政府は当初、後方支援、井戸の建設、子どもの学校の送り迎えをする危険が少ないところとだといって息子は派兵された。実際は危険なところだった。未だに海外派兵が何の役に立ったのか。家族にとっては息子がヒーローになっても何の意味もない。
ドイツ政府も「後方支援」「子どもの学校の送り迎え」「戦場ではない」などと、いわば若者をだまして兵士を募集しアフガニスタンへ送り込んでいたことがわかる。
さらに今、ドイツではアフガンからの帰還兵のPTSD(心的外傷後ストレス障害)発症者が多発していることが社会問題になっている。
帰還兵クリスチャン PTSDを発症して、記憶力が衰え、一瞬でかっとなり攻撃的になって突然恋人をみさかえもなく殴り続けた。4年経った今も、病院に通う毎日である。政府が安全といっていたがそこは戦場だったと証言。
アフガニスタンの活動で、若者が自殺者も含め55人が戦死していたことがわかった。
ところが、アフガニスタンでドイツ軍が戦争をしていることを政府もメディアも国民に隠していた。そしてこのことは、2009年9月にドイツ軍が運んでいたタンクローリーが武装勢力に襲われ、米軍が空爆を行って民間人を多数殺害する大事件が起こってはじめてドイツ軍が戦闘行為を行っていることが知られるようになったのだ。
※アフガン派兵の現実に揺れるドイツ(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版)
http://www.diplo.jp/articles11/1102-2.html
※ISAF誤爆でアフガン民間人が犠牲、子ども含む18人死亡(NHK BS1)
https://www.youtube.com/watch?v=DHjuBT2Q6zI
※ 「NATO攻撃で民間人52人死亡」アフガン大統領が非難(アルジャジーラ)
https://www.youtube.com/watch?v=2GdROvtB97U
以下の表は、有志連合軍の年別の犠牲者数の推移。米・有志連合軍の攻撃・侵略から9年経った2010年がピークで、ドイツ軍も多くの戦死者を出した。
ドイツの例は、「後方支援」「治安活動」などと行って安倍首相が海外派兵に踏み切ろうとする「戦争する国」日本の未来を暗示している。作戦を行う部隊の移動を支援する「後方支援」は武装勢力の格好の標的となる。集団的自衛権の行使を容認しても、戦争に巻き込まれることは絶対にないというのは嘘でまやかしでしかない。「後方支援」していたドイツ軍に突然銃弾が飛び「巻き込まれ」、多くの若者が命を落としたのである。
安倍首相は「物資を安全な場所で相手方に渡す、これがいまや常識」などとも発言しているが、おそらくドイツ兵も安全な場所と思っていて、突然銃撃戦になったであろう。兵站部隊がもっとも危険な任務の一つであることは軍事の常識である。
そもそもアフガニスタンでは、米軍、有志連合軍、ISAFは侵略軍である。武器弾薬も含めた後方支援は、住民殺りくに手を貸すことである。
日本政府は戦争法案の内容で、法律上、他国軍に対して供給が可能だと説明したのは次の通りだ。
【武器弾薬の輸送】米軍のミサイルや戦車、化学兵器、毒ガス兵器、核兵器
【弾薬の提供】手榴(しゅりゅう)弾、ロケット弾、戦車砲弾、核兵器、劣化ウラン弾、クラスター爆弾
【給油活動】爆撃に向かう米軍の戦闘機や戦闘ヘリに対する空中給油や洋上の給油。核ミサイルや核爆弾を積んだ戦闘機や爆撃機への給油
日本もまた、いかに大義を掲げようと、「他国での武力行使」「武力行使への後方支援」を行うことは、侵略戦争に、住民殺りくに手を貸すことになる。
ドイツの二の舞になってはならない。
(小川)