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(書評)「中国脅威論」について冷静な視点を提供する本(2)『中国の軍事戦略』

2015-08-07 | 集団的自衛権

『中国の軍事戦略』(小原凡司著 東洋経済 2014年10月)

 (書評)「中国脅威論」について冷静な視点を提供する本(1)で紹介した『米軍と人民解放軍--米国防総省の対中戦略』(布施哲著 講談社現代新書)では、中国の兵器・戦略体系とりわけその海洋戦略が米国の世界支配と侵略主義に対抗した防衛的な性格をもつものであるという点を明らかにした。
 今回紹介する『中国の軍事戦略』(小原凡司著 東洋経済)は、「それでも南シナ海や日本海において中国が大国主義的振る舞いをし、積極的に領土紛争をけしかけているではないか」というような批判に関わる。
 小原氏は防衛大学校卒、元海上自衛隊のヘリパイロットで現在シンクタンク東京財団の研究員という経歴をもつ、支配層のリアリストである。本書の発行は2014年10月だが、その後の情勢も基本的にこのほんの枠組みに収まっていると考えられるだろう。

防空識別圏の設定と偶発的軍事衝突回避の必要

 2013年11月中国が尖閣諸島を含む空域に防空識別圏を設定することを突如発表した。防空識別圏とは飛行物体を識別するために領空の外側に設ける空域である。突然領空に不明機が出現して緊張を高めることを防止するためにとられる措置である。日本政府は中国に対して設定そのものを非難したが、米国は違った。ヘーゲル国防長官は「問題は、事前に周辺国などに何の相談もなく突然設定したこと」と言うにとどめ撤回を要求しなかった。米国は中国の要請に応じて、防衛識別圏を通過する民間機の事前申告を実施した。日本は無視して民間機を危険にさらし続けている。中国の防空識別圏設定のきっかけは、これに先立つ9月、防衛省が、尖閣諸島を偵察する中国の無人機を撃墜することを示唆したこととされる。これを日本側は一切報じない。一般に領土紛争のある地域では、領土・領空が重複し、従って防空識別圏も重複する。このため互いに監視・警戒を行うことで、意図しない衝突を防止しようとしている。安倍政権は、国際慣例を全く無視しているのだ。

 2014年8月19日、中国海南島220キロメートル沖合上空の国際空域で米海軍P8ポセイドン対潜哨戒機と中国軍のJ-11戦闘機が異常接近する事件が起こった。米国防総省もメディアも「中国の挑発行為」と非難したが小原氏の見方は少し違う。小原氏は「異常接近は中国のレーダー監視技術の低さと、軍事常識のなさを証明するもの」とする。中国の防空監視システムは遅れている。通常はレーダー網を張り巡らせ、それによって敵機を監視し、領空侵犯の危険があるときはスクランブルをかけて警告する。ところが中国はレーダー技術が後れているため、領空に戦闘機を飛ばしてパトロールするという前近代的な対応をしているのである。燃料と時間の無駄、ふらふらパトロールなどしていると思わぬ事故に発展するし、現に危険な事態が生じている。防空識別圏強化のためには、戦闘機によるパトロールではなくレーダー網を整備することこそが軍事衝突の危険を軽減するために必要なのである。
 昨年末より尖閣諸島・釣魚島の北西約300キロの南麂島に中国が軍事基地を建設していると右翼メディアはあおっているが、これはまさに防衛識別圏強化のためのレーダー基地建設である。中国政府の「米国が頻繁に中国に対して近距離偵察行動を実施していることこそが緊張状態を生み出している原因である」との指摘は的を射ているといえよう。
 加えて言えば、中国艦船が尖閣諸島を狙って毎日のように「領海」侵犯を繰り返しいるかのようにかき立てているが、最近は、ほとんど12年9月以前の状態に戻っている。グラフは防衛白書2014年版からのものだ。いかに日本の尖閣国有化が中国の警戒を呼び起こしたかがわかる。

南沙諸島をめぐる領土対立の教訓は、軍事力ではなく政治・外交を前に出す必要

 2014年5月7日、中国の石油掘削船とベトナムの海上保安庁艦船が衝突した。中国国営企業「中国海洋石油」が石油掘削作業を開始したことに対してベトナム側が阻止しようとしたことが原因だ。違法と考える掘削に対し武器・兵器を使わないのであれば、船を割り込ませて体当たりするというのはベトナムとして、また一般に海洋警備として普通の対応という。むしろ軍事力行使にエスカレートしないよう抑制している。中国政府と、国営とはいえ石油企業とは区別して考える必要がある。石油利権がらみで石油企業が早まった対応をしたというのが真実に近いのではないか。深い関連は不明だが、習近平による汚職追放・腐敗撲滅キャンペーンのもと、石油関連を統括する政治局常務委員周永康が7月に汚職で摘発され、12月に告訴されているという事実もある。この問題では全体として中国政府は抑制し、全面的に引いている。石油会社のやり過ぎを中国政府が統制し、引かせたという構図が出ている。ベトナムと中国は相互協力と互恵の原則を確認し、10月には中国政府が掘削船を撤収させている。日本政府はこの衝突をもって、「軍事力増強、南西への戦力配置の必要」の根拠にしようとしているが、中国やベトナムとの対応と真逆である。軍事力ではなく、政治・外交による解決の必要を示している。仮にベトナムが軍事力を行使していたら今どうなっていたかわからない。海上警察の権限の範囲内で、国家間の対話で政治的に解決した。軍備増強とけんか外交の安倍政権は危険きわまりない。

  最近、南沙諸島で中国が埋め立てをしているとの宣伝がなされ、米は軍事転用の可能性を指摘している。だが南沙諸島のパグアサ島にはすでに実行支配しているフィリピンによって1970年代に未舗装の1,400m滑走路をもつランクド飛行場が建設されており、2014年6月フィリピン海軍幹部が滑走路補修計画を明らかにしている。またベトナムは、南沙諸島の砂州であるサンド・ケイで21000平方メートルを埋め立てて軍事施設を建設しており、ウエスト・ロンドン礁でも6万5千平方メートルを埋め立て、新たな建造物を設置したという。
 中国、ベトナム、マレーシア、フィリピン、台湾が互いに領有権を主張する南沙諸島において、それぞれが建造物建設の示威活動を行っているというのが実情だ。もちろん中国の行為が正当であるというつもりはない。だが、米と同盟国に包囲された中国が、米軍の軍事拠点として南沙諸島が利用されることを阻止するために、最低限の対抗措置をしていると考えることは可能である。中国だけをやり玉に挙げるのは、きわめて不公平と言わなければならないだろう。

 最後に、本書で挙がる軍事バランスにおける戦力比を紹介しておく
強襲揚陸艦 米30隻、 中国3隻
空中給油機 米524機、中国13機
航空母艦  米11隻、 中国0隻 ※
大型無人機 米469機、中国2~3機
※著者の小原氏は「遼寧」は練習艦であって戦力として空母にはカウントできないとしている。布施氏は不十分ながら空母とカウントしているようである。いずれにしても圧倒的戦力比であることは間違いない。

(ハンマー)


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