Lespedeza Museum of Photography レスペデーザ写真美術館

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二次創作:ガールズ&パンツァー「ポンコツなんて言わせない」Part.2

2012年11月26日 23時10分00秒 | 二次創作小説

二次創作:ガールズ&パンツァー「ポンコツなんて言わせない」Part.1

の続きです。

 


 

「今日は皆さんに特別訓練を行って貰います」

数日後の戦車道の授業の冒頭で教官の蝶野亜美が高らかに宣言する。それにざわめく大洗女子学園戦車道チームの面々

「特別訓練ですか?」

と西住みほ。

「その通り、今回は弾が撃てない状態で敵の攻撃から逃げる為の訓練を行います」

そう言って亜美が生徒会チームの面々を前に来るように促す。

「カバさんチームから一定時間逃げ切る事。これが訓練の内容です」

その言葉に皆からどよめきが起きる。

「あの教官、それでは訓練にならないのでは?」

アヒルさんチームのリーダー磯辺典子が口を開いた。

「磯辺さんなにかご不満?」

「あ、いえその・・・」

亜美に問いかけられ口ごもる。本人達を目の前に

「カメさんチームの射撃の腕が悪いので訓練にならない」

とは到底いえなかった。

「おほん」

そんな二人のやりとりを見計らって桃が咳払いをする。

「私たちカメさんチームは20発の演習弾を搭載してあなた達を追いかけます。私たちが全弾撃ち尽くすか60分逃げ延びれば勝ちです」

「そして買ったチームのメンバー全員に3週間分の学食の食券を支給します!」

この宣言に戦車道チームの面々から新たにどよめきが起きた。60分逃げ切れば(カメさんチームが弾を撃ち尽くせば)食券が貰えると聞いて俄然やる気を起こす面々。

そんなメンバーの様子を見てにやりとする亜美と彼女に向かって小さく親指を立てる桃。

ただ2人、西住みほと秋山優花里だけはこの状況に不安を隠せなかった。


「教官も変わった事を考えるんだなぁ」

III号突撃砲の車内でエルヴィンがぼやく。1時間逃げ切るかカメさんチームの弾薬が尽きた時点で勝ち、しかも食券3週間分を貰えるとなればこれほど旨い話もない。

「おりょう、気軽に行こう。逃げ回っていれば恐らく弾を撃ち尽くしてこちらの勝ちだ」

「了解」

カバさんチームのドライバーおりょうはエルヴィンに返事を返すと少し速力を上げた。

「だが、気になるな」

砲手の左衛門佐が不満を口にする。

「考え過ぎよ佐衛門佐。恐らく2回戦を前に景気づけなんでしょ」

と装填手のカエサルがつっこむ。

「そうそう、考えすぎ。考えす・・・」

エルヴィンのセリフを遮るように遠くから砲撃音が響いた。

38(t)戦車の主砲の発射音、誰もが見当違いのところに着弾すると思った次の瞬間、轟音と衝撃にIII号突撃砲が激しく揺さぶられた。

「きゃー!!」

思わぬ事態にカバさんチームの全員が悲鳴をあげる。

「カバさんチームに命中!リタイアよ!」

「なに!?」

無線の亜美の声に驚き状況を確認しようとハッチから顔を出すエルヴィンとカエサル。カバさんチームの車体には訓練弾の弾痕がしっかりとついていた。

「そ、そんなカメさんチームの砲撃が当たった・・・」

呆然となりへたり込むエルヴィン。訓練開始5分でカメさんチームのIII号突撃砲、リタイア。


『こちらカバさんチーム、カメさんチームの砲撃の直撃を受けリタイア!』

他の大洗女子学園の戦車道チームにIII号突撃砲からの悲痛な無線連絡が入る。楽勝で勝てると思っていたウサギさんチームとアヒルさんチームは戦々恐々とした状態に追い込まれた。

折角の食券3週間分を逃す事は是が非でも避けたかった上にカメさんチームの砲撃に当たるという不名誉を避けたかったのだ。

「ストップ!」

樹林帯に差し掛かったM3リー中戦車の車長澤梓が叫ぶ。カバさんチームが撃破されたと推測される地点にほど近い彼女らが次に狙われる可能性が高かった。

砲撃出来ない以上逃げ回るしかない。しかし開始5分でカバさんチームを仕留めたカメさんチームへの恐怖がウサギさんチームを支配していた。

「とりあえず周囲にはいないみたいね」

キューポラから顔を出し周囲を確認する梓。

「佳利奈さん、ゆっくり出発して、ここから少しでも遠くに離れましょ」

「はい」

梓の言葉に従いドライバーの阪口佳利奈がゆっくりとM3を出す。スピードがついてきてようやく樹林帯を離れられるかと思ったその時、別の無限軌道がきしむ音が周囲に響いた。

そして小さな樹木をかき分け姿を現した38(t)戦車。

「!!」

一年生チーム全員が声にならない悲鳴をあげる。エンジンを全開にしてその場を離脱しようとしたが慌てるあまりジグザグ走行で射線をずらす事をすっかり忘れてしまっていた。

逃げるM3リーの背後から容赦なく砲撃を浴びせる38(t)戦車。数発の至近弾の後、M3リーのエンジン部を演習弾が直撃した。

「こちらウサギさんチーム、やられましたぁ!」

残る2チームに無線報告をする梓。訓練開始18分でウサギさんチーム、リタイア。


「まったくどうなってるのよ」

八九式中戦車の中でアヒルさんチームのリーダー、磯辺典子が毒づく。楽勝だと思っていた訓練がすでに2チームもやられ、残るはアヒルさんチームとあんこうチームだけという状況では毒づきたくなるのも無理無かった。

冷静に考えればなんの手立てもなく砲撃の成績が一番悪いカメさんチームを敵役しての訓練もありえず、教官も生徒会チームも判った上でこの訓練を実施したと考えると見事に嵌められたという事実。

生徒会チームを見くびっていた自分達の奢りに典子は唇を噛んだ。

「先輩、どうしましょう?」

ドライバーの川西忍が狼狽えた声で尋ねる。

「いつかの如く逆リベロを徹底するしかないわ。身動きの取りやすい街道沿いに出ましょう」

とにかく逃げ回るしかない以上身動きしやすい場所に出る。そう判断して典子は八九式を街道に向かわせた。

街道沿いに出て前進を続ける八九式。砲塔を旋回して周囲を警戒していた典子の視界に38(t)が入った。

「来たわよ!」

典子の声と同時に38(t)が発砲。至近弾で車体が揺れた。続けざまの38(t)戦車の砲撃で左方向に進めず右手の森の中に入りその場を離脱する八九式。

「なんとか逃げ切れましたね」

砲手の佐々木あけびが安堵の声を出す。

「だといいんだけど」

逃げ切れた筈なのに不安が隠せない典子。

「先輩!」

通信士の近藤妙子が悲痛な声を挙げる。

「しまった!」

目の前の渓谷にあ然とする典子。地形を把握が十分でないまま逃げ続けた為に逃げた筈が逆に袋小路に追い込まれていたのだ。

「せんぱーい!」

追いつめられている事実に悲痛な声を出す忍。

転進しようと指示を出そうとした矢先、背後から38(t)戦車のエンジン音が響き渡った。

「万事休す、か」

がっくりとうなだれる典子。訓練開始38分、アヒルさんチーム八九式中戦車、リタイア。


「みぽりん、アヒルさんチームもやられたって」

無線からの他チームの報告を聞いた通信士武部沙織が声をあげる。訓練開始40分ちょっとであんこうチーム以外の車輌が撃破されたという事実はあんこうチームにとっても衝撃的だった。

心の片隅にカメさんチームへの奢りがあったことを反省する面々。その中で一人別の方向で心配になっている人物がいた。

カメさんチーム、厳密には河嶋桃に砲撃の助言を与えた秋山優花里。彼女は訓練前の桃との会話を思い出していた

 

 

「手を抜く?」

「秋山さんのお陰で射撃性能が大幅に向上したからな、その恩返しをしてやらないと」

「けど困ります!他のチームの皆さんのこともありますし」

「なに、心配しなくても上手くやるから安心しろ」

「でも・・・」

「じゃあな」

 

 

「・・・かりん、ゆかりん!」

「は、はい!」

沙織に声を掛けられ我に返る優花里。

「そうですわよ優花里さんさっきから心ここにあらずという感じですよ?」

と砲手の五十鈴華

「あ、いえ生徒会の皆さん凄く上達したなぁと驚いてしまいまして、はい」

と必死に誤魔化す優花里。

「そういえば」

と口を開いたのは滅多に喋らないドライバーの冷泉麻子だった。

「先日の休みに演習場で生徒会の河嶋さんと一緒にいませんでした?」

「え?れ、冷泉殿?な、なんのことですか?」

「学校に忘れ物して取りに来たらカメさんの38(t)が格納庫になくて演習場覗いたら二人でなにか楽しそうにしてたからそのまま声を掛けずに帰っちゃったけど」

「・・・」

麻子に自分が桃と一緒にいたところを見られていたと知りなにも言えなくなる優花里。

その様子に何かを察した西住みほ。

「秋山さん」

「は、はい!なんでしょう西住殿!!」

みほに呼ばれた優花里だったが自分が隠し事をしていることの後ろめたさからまともに彼女の目を見ることが出来なかった。

「今日の訓練、何かあると思ってたけど何か知っているんですか?」

「それは、その・・・」

「秋山さん、同じチームである以上隠し事はなしでお願いします!」

「はい、分かりました・・・」

そう言われてもはや隠し通すことは出来ないと優花里は生徒会の河嶋桃に砲撃に関するアドバイスを与えた事、今回の訓練で手抜きをする予定であることを洗いざらい喋った。

「というわけなんです」

「凄いよ、ゆかりん!的確なアドバイスでカメさんチームを強くするなんて!」

事の次第を聞いて感歎の声をあげる沙織。

「凄いですわ優花里さん」

と華。

「なんか、つまんない」

手抜きをされそうだったことを知りふてくされる麻子。

「秋山さんのやったこと、凄くいいことです。けど」

「けど?」

「手抜きなんて絶対にダメです」

そう優花里にいうみほの顔は真剣そのものだった。

「武部さん、河嶋さんにメールをお願いします」

「はい!」

演習場の一角で残るあんこうチームの居場所の見当をつけていたカメさんチーム。その桃の携帯にメールが入った。

「これは・・・」

メールで指定された周波数に無線を合わせる。

「こちらあんこうチーム西住です、河嶋さん聞こえますか?」

「こちらカメさんチーム、河嶋だ」

「この周波数なら他のチームの皆さんに聞かれる事がないので安心してお話出来ると思います。射撃精度の件とかこの訓練のお話とか秋山さんから全部聞きました」

「そうか」

「手抜きをなさろうとしたそうで」

「・・・」

「手抜きなんて絶対ダメです。戦車道はいつでも真剣勝負でお願いしたいんです。ウサギさんやカバさん、アヒルさんチームに申し訳が立ちません」

「そういうことか、なら本気でいかせて貰うぞ」

「よろしくお願いします!」

無線を切った後、桃の顔に笑みがこぼれた。

「桃ちゃん?」

ドライバーの生徒会副会長小山柚子がそんな桃を気に掛ける。

「戦車道ってこんなに面白いものだったのかな」

「え?」

「時間がない、柚子、出るぞ!」

「はい!」

気持ちのいい返事と共に38(t)戦車のエンジンがうなりをあげる。

「よし、レッツゴー」

そして相変わらずマイペースな生徒会長角谷杏だった。


「来ました!38(t)戦車、まっすぐこっちに向かってきます!」

優花里が叫ぶ。残り時間もわずか、あんこうチームとしては何処かに身を隠して時間までやり過ごすという方法もあったがお互い真剣にやり合うと決めた以上視認出来る距離で逃げ回るという方法をとることにした。

猛スピードで近づく38(t)戦車が発砲する。

「麻子さん、38(t)の射程は短いです。ギリギリでかわしつつ時間を稼いでください」

「了解」

そういいつつ進路を変更。IV号戦車の間近に着弾する。

「く、ちょこまかと。やはりそう簡単にはやらせてくれないか」

照準を合わせつつ桃が毒づく。

「柚子、IV号はすばしっこい。きっちりついていくのよ!」

「はい!」

逃げ回るIV号戦車とそれに食らいついて砲撃を加える38(t)戦車の追い駆けっこ。その様子を平地を見下ろす丘の上で他の大洗女子学園の面々と蝶野教官が観戦していた。

「凄いな、あんこうもカメさんも」

エルヴィンが溜息を漏らす。

「生徒会の人達がこんなに凄いなんて」

と磯辺典子。

「先輩達、凄いなぁ」

とは澤梓の言。

「あの子達、よくやるわ」

眼下で繰り広げられる追い駆けっこを亜美は誇らしげに眺めていた。

「残り時間あと1分!」

沙織が叫ぶ。

激しい挙動の連続で優花里と華は既にへとへとになっていた。

「麻子さん!後少しです!」

みほの励ましにうなずく麻子。

「くそう、すばしっこい!」

乱戦状態で上手く照準がつけれず焦る桃。次の弾を装填しようと手を伸ばして手が弾に届かない事に気付き振り向いた桃は絶句した。

20発あった訓練弾が残り1発になっていたのだ。残り時間もわずか。いずれにしても次の砲撃が最後のチャンスだった。

「!!」

声にならない雄叫びをあげて37mm砲弾を装填する桃。

照準を合わせる視線の先でIV号戦車が進路変更のためにスピードを落とすのが見えた。

「お前なんか!一発あれば十分だぁ!!」

その桃の叫びと共に38(t)戦車の主砲が火を噴いた。

甲高い金属音が演習場にこだまする。38(t)戦車の放った演習弾がIV号戦車を見事に捉えた瞬間だった。

「訓練終了!カメさんチームの勝利!」

高らかに亜美が訓練の終了を宣言した。


「みんな、相手の事前情報を過信して勝負に挑むかどれだけ危険か、今日の訓練で分かったでしょ?」

訓練の終わりに亜美が大洗女子学園の面々に教えを説く。

彼女の言うとおり大洗女子学園の戦車道チームの面々はそれまで一番射撃精度の悪かったカメさんチームを弱いと思いこみ、結果速攻で撃破されるという事態に陥っていた。

過信が如何に危険か、サンダース大学付属高校に勝った事で少なからず浮き足立っていた大洗の面々にこの日の訓練は良き教訓となった。

「常に相手の動向を把握し最善の選択をする、それが勝利への一歩なの。解った?」

「「「「「はい!」」」」」

「それでは、今日はここまで、解散!」

訓練が終わり格納庫に戻って後始末をする桃の元へみほがやってきた。

「あのう、河嶋さん」

「どうしたの、西住さん?」

「わたし、一度は戦車道から逃げ出したのに『戦車道はいつでも真剣勝負でお願いしたいんです』なんて生意気なことを言ってすいませんでした!」

そう言って深々と頭を下げるみほ。

「貴方は何も間違った事を言っていないのに頭を下げるなんて変よ」

とそんなみほをたしなめる桃。

「けど、わたし・・・」

「西住さん、私ね今日はじめて『戦車道は楽しい』って感じれたの」

「え?」

「今まで義務みたいに戦車道をこなしてたけど砲撃は上手く当てれない、皆の役に立てないと酷い自己嫌悪だったのよ」

「けど秋山さんの助けや貴方の言葉、それにあなた達と戦って『真剣勝負に取り組む楽しさ』みたいなのを初めて実感出来たの」

「河嶋さん・・・」

「今日はたまたま勝てたけど仮に負けてても惜しくなかったわ。真剣に戦えたんだもの。こんな気持ちを感じさせてくれた西住さんには私から感謝しないといけないぐらいだ」

「あ、ありがとうございます!」

「ほら、まだ後片付けが残ってるなら戻って済ませてきなさい!」

「はい!」

桃に一礼してみほはその場を後にした。

「桃ちゃん、なんか変わったね」

そんな二人のやりとりをみていた柚子がつぶやく。

「そんなことはないと思うがな。柚子、早く片づけるぞ!」

「了解です!」

こうしてこの日の大洗女子学園の戦車道チームの訓練は幕を閉じた。

 


 

あとがき:ガールズ&パンツァーの登場人物で一番の射撃の命中精度の悪さを誇る生徒会チームの河嶋桃。

「いくらなんでもおかしくないか?」

という疑問を突き詰めて考えたりTwitterでガルパンファンの方とリプライをやりとりする中で

河嶋桃の片メガネが射撃に悪影響を与えているのでは?

という推理から今回の小説のアイデアを考えた次第です。桃に活躍の場をという思いで書き上げました。

ガールズ&パンツァー本編は戦車道全国大会の第1回戦が終わり、第2回戦を前に新戦車の発見イベントがあるようなのでどんな戦車が出てくるか今から楽しみだったりします。

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