前回「その3」では、cos(2π/17)を求め、正17角形の頂点を示す式であるx¹⁷−1=0の(自明なx=1を除けば)16個の解を2次方程式を有限回(3回)解く事で導き出しました。
そして、この事はcos(2π/17)が”四則とルートのみで表せる”事と同義である事は何度も触れました。
前回のおさらいですが、ガウスは((17等分ー1)/2=)8個の弧の余弦をa,b,c,dの4つに組分けし、a+b=e,c+d=fとして、e+fとefを求め、2次方程式の解と係数の公式からe,fを求め、更にa+bとabを求め、上と同様にa,bを求め、同じくc,dを求めました。
すると、cosφは2次方程式x²−ax+c/2の解となり、一方で、公式2a²=2+b+2cを得る。これをcosφに代入すれば、、四則とルートの形をしたcos(2π/17)の値を得る。
非常に長々とした計算でしたが、天才ガウスにしてみれば”簡単明瞭”となる。多分このくらいの計算なら寝てる間に処理できるレベルなんでしょうね。事実、”目覚めた時には証明できてた”と語ってる。
しかし、こうした正17角形の作図可能性を代数的可解性と呼んだであろうガウスは、古代ギリシャ時代から続く幾何学や算術(数論)が代数論や解析学や関数論という新しい数学の領域に足を踏み込んだ瞬間だと確信します。
そんなガウスの咆哮がここまで聞こえそうですね。
ガウスの作図可能性とは?
そこで、今日は正17角形の作図可能性を数学的に説明します。
作図可能とは、(目盛のない)定規とコンパスのみで作図出来るとの事でしたが、定規とコンパスで位置を特定できる点、つまり、(平面上の)直線と直線の交点や直線と円の交点、円と円の交点を”作図可能”と呼ぶ。
こうして作図できた直線や円は有理数を係数とした2次方程式(1次方程式も含む)となるので、2次方程式の解になる事が判る。
逆を言えば、作図可能な値(有理数)を係数とする2次方程式の解が定規とコンパスで作図が可能となる。因みに、有理数が作図可能な数である事は、平面上の2点x₁,x₂にて、x₁+x₂,x₁−x₂,x₁x₂,x₁/x₂(x₂≠0)が作図可能な事から理解できます。
「前回」にも書いたが、これを”体”の理論に置き書き換えると、有理数体Qの最初の2次拡大体をK₁、K₁の2次拡大体をK₂、・・・と有限回の2次拡大をしたKₙの元は”作図可能”となる。
つまり、作図可能な点は有理数体Qから始めて有限回の2次拡大をした体の元に含まれる。
以上より、”正17角形が作図可能とは、x¹⁷−1=0が2次方程式だけで解ける”事と同義である事を意味する。
そこで、φ(n)をオイラー関数(nと互いに素な1以上n以下の個数関数)とすると、φ(17)=16の約数は1,2,4,8,16の5つで、これらを周期とみなすと”ガウス周期”が作れる。
つまり、gがfの約数の時(f>g)、周期gは周期fを係数とする(”体”で言えば、有理数体Qにfを付加した体の元を係数と出来る)2次方程式の解として表せる。
例えば、周期8は周期16を係数とする2次方程式となり、同様に周期4は周期8を係数とする2次方程式、周期2は周期4を係数とする2次方程式、周期1(x¹⁷−1=0の解)は周期2を係数とする2次方程式となる。
つまり、x¹⁷−1=0の解は(有理数から始め)2次方程式を有限回繰り返す事で求める事ができる。
前回、cos(2π/17)を求めた様に、ガウスは素数pにて円周をp等分するには、360/p,2×360/p,3×360/p,…(p−1)×360/2pと、(p−1)/2個のcosを適当に組分けして、cos(2π/p)の値を四則とルートのみで得れるとした。
また、以上の作図可能の考察により、素数pにて正p角形が作図可能なら、φ(p)=p−1が2ⁿの形になる時に限られる事が判る。事実、正17角形の時は、φ(17)=17-1=16=2³となる。
つまり、この様な素数pにおいて、xᵖ−1=0の解は2次方程式を有限回繰り返す事で求める事ができる。これは、cos(2π/p)の値をルート(と四則)のみで表せる事を意味する。
更に言い換えれば、(幾何学的)作図可能は(代数的)可解となる。
事実ガウスは、素数pにて正p角形を作図可能な必要十分条件は”pがp−1=2ⁿの形に限られる”とした。
例えば、2の冪乗でないp=31は、(p−1)/2=3×5となり、3次と5次方程式を回避する事は出来ないので、作図不能となる。
一方で、2³+1=9は素数ではないが、正9角形は作図出来ない。これは、φ(9)=6=3×2より、2次と3次の方程式を回避する事は出来ないからである。
では、p=2ⁿ+1の形の素数はどんな数があるのか?これは、nが2の冪乗の時、つまり、2の素因子のみを持つ時に限る。
仮に、nが奇数vを因子として持つ、つまり、n=uvとすると、2ⁿ+1=(2ᵘ)ᵛ+1となり、(2ᵘ+1)で割り切れる。が、これはp=2ⁿ+1が素数である事に反するので、nは奇数を因子として持たない。故に、n=2ᵐと書ける。
以上より、正p角形が作図可能可能となるのは、p=2^(2ᵐ)+1の場合に限られる(証明終)。
また、この形の数をフェルマー数と呼び、素数の時をフェルマー素数と呼ぶ。
フェルマー素数はオイラーの発見(1732)を起点に、今では3,5,17,257,65537の5つしか存在しない事が知られ、故に正p角形が作図可能なのは、p=3,5,17,257,65537の5つの時だけとなる。
ガウスを怒らせた正17角形の作図
では、ガウスはどんな作図法を展開したのだろうか?
「前回」では、ヨハネス・エルチンゲルの作図法を紹介したが、実際にガウスが正17角形を作図したのかはわからない。
ただ、”2次方程式での解法を(初等的な三角法で)作図に改作した”などと、(砲兵大尉の)von Hugueninなる人物がガウスの手法を”不十分だ”と暗に批判し、初等幾何学書の中で発表した(1803年)事を、ガウスは不満に思ったらしい。
多分、Von Hugueninなる人物こそがヨハネス・エルチンゲルの事であり、彼にアドバイスをしたガウスの師友であるPfaffは、それを元にある作図法を発見したとされる。
そこで、ガウスを”無恥もここまで来ると滑稽である”と怒らせた作図法は前回で紹介したが、一般的に知られる作図法とは、一体どんなものだったのだろうか。
そこで、tujimoterさんのコラム「正十七角形の作図」を参考に大まかにまとめます。
まず、Oを中心とする単位円とX軸とY軸の交点をそれそれA,Bとし、OAの1/4の所の点をCとします。この時、OB=1,OC=OB/4=1/4より、⊿OBCにピタゴラスの定理(BC²=OB²+OC²)を適用し、BC=√17/4を得る(図1)。
次に、コンパスでCを中心にBCを半径とした円を描き、X軸との交点を(右から)D,Eとすると、OD=OC+BC=(1+√17)/4、OE=−OC+BC=(−1+√17)/4となる。この時も同様、⊿OBEと⊿OBDにピタゴラスの定理を適用し、BE=√(34−2√17)/4とBD=√(34+2√17)/4を得る(図1)。
ここで、Eを中心にBEを半径とした円を描き、X軸との交点を(左から)F,Gとすると、OF=OE+BE=(1+√17)/4+√(34−2√17)/4、OG=(1−√17)/4+√(34−2√17)/4となる(図2)。
この時、OFの中点Hをとり、OHの長さを定数a=(1+√17)/8+√(34−2√17)/8とし、OGの中点Iをとり、OIの長さを定数−b=(1−√17)/8+√(34−2√17)/8とおく(図2)。
三番目に、Dを中心にBDを半径とした円を描き、X軸との交点をJとする(図3)。
この時、BD=√(34+2√17)/4からOJ=−OD+BD=−(1+√17)/4+√(34+2√17)/4となり、この長さを定数2cとおく。
更に、AJを直径とする円を描き、Y軸との交点をKとすると、KはAJを直径とする円周角より、⊿KOJと⊿AOKは相似の関係にあり、OK/OJ=OA/OK、故に、OK=√(2c)=√{−(1+√17)/4+√(34+2√17)/4}を得る(図3)。
ここで、Kを中心に半径OHの円を描き、X軸との交点をLとする。更にその交点Lを中心に半径KLの円を描き、X軸との交点をMとする(図4)。
すると、OH=KL=LM=aとなり、⊿KOLは直角三角形より、OM=LM+OL=LM+√(KL²+OK²)=a+√(a²−2c)を得る。
この時、2a²=2+b+2cを仮に(冒頭で述べた)ガウスが発見した公式とすると、a²=1+b/2+cからa²−2c=1+b/2−cを得る。
故に、OM=a+√(a²−2c)=a+√(1+b/2−c)となり、定数a,b,cの値を代入し計算すると、OM=(−1+√17)/8+√(34−2√17)/8+√{√17+3√17−√(34−2√17)−2√(34+2√17)}/4を得る(図4)。
最後に、OMの中点Nをとり、そのNを通るOMの垂線を描き、円Oとの交点をPとする。すると、弧APは単位円Oの円周を17等分し、正17角形の頂点を作図できる(図5)。
事実、NはOMの中点より、OM/2=(−1+√17)/16+√(34−2√17)/16+√{√17+3√17−√(34−2√17)−2√(34+2√17)}/8となり、これはガウスのcos(2π/17)の計算式に等しく、ON=cos(2π/17)となる。
故に、cos(2π/17)の作図が可能になる。
ただ、弧APのなす角度が2π/17になる事の証明だが、この作図法からはよく解らない。
因みにガウスは、円周を17等分するには、2π/17,4π/17,6π/17,・・・,16π/17の8個のcosを4つに組分けし、cos(2π/17)の値を得たが、8=2³(8の因数は3つ)より、2次方程式を3回繰り返すだけで正17角形の作図可能性を発見した。
言い換えればx¹⁷−1=(x−1)(x¹⁶+x¹⁵+・・・x²+x+1)=0の方程式を解くには、x¹⁶+x¹⁵+・・・x²+x+1=0の根を2組に分け、更に2組に分け、2次方程式を計3回繰り返す事で解が求まる。
一般的に言えば、素数pにて、円周をp等分するには(p−1)/2個のcosを組分けしてcos(2π/n)を得るが、その為には、p−1が2ⁿの形をしてる事が必要である。つまり、p−1=2ⁿの時に限り、有限回(n回)の2次方程式を解く事で作図可能となる。
因みに、この様なpは3,5,17,257,65537だけである事もガウスは発見した。
また、p=31、(p−1)/2=3×5の様な時は、3次と5次なる方程式を回避する事は出来ないとした。
まさに、これらの発見はガウスの奇跡の偉業とも言える。
最後に
但し、作図上のa,b,cの定数のおき方が強引すぎて、特に、OIの長さに−bという負の定数をおく所は、流石に理解に苦しまなくもない。
更に、上の作図で定義したa,b,cが、作図可能性の証明の中でガウスが指定したa,b,cと同義である事は、無理がありすぎでもないが、結果的には上手く行く。つまり、作図上で定義したa,b,cは紛れもなく正しいのだ。
つまり、ガウスがこうした作図法を(後出しジャンケン的な)盗作だと怒ったのも無理はない。
多分ガウスは、どうやって正17角形を作図するかではなく、正17角形の作図可能性を証明する事で、円周の17等分という幾何学的問題を代数的可解性に結びつけた。
一方で、その代数的可解性を再び作図法という幾何学の領域に戻し、作図の正当性を主張しても意味はないし、ガウスの怒りを買うだけである。因みに、こうしたやり方は再帰的手法とされ、新しいものを創造するという点では、数学的には役不足であろう。
ガウスが演繹法や数学的帰納法を嫌ったのも、そこに存在するのは自明な証明だけで、斬新なアイデアが見えないからだ。
つまり、鏡の中に入る自分を振り返るよりも新しい自分を発見する方がずっと建設的であり、こうした一歩先を行く考察から自分を眺めるという再帰的視点なら、こうした不満も回避できる。
数学とは、難題を証明したり理解する学問であると同時に、新たな課題(問題)を提示し、それらの解決法を予想する学問でもある。つまり、前へ進む事は振り返る事よりも建設的で独創的で帰納的でもある。
正17角形の作図可能性という幾何学と代数学を結びつけたガウスの世紀の発見は、後の”体の拡大論”という現代の代数論として、大きな華を咲かせたのだ。
まさに、現代に甦るガウスのアイデアがそこには十全に詰まっている。
いやそう思う事にしよう。でないと、数学なんて抽象的すぎてやってられない。
因みに、コメントに寄せられた作図法も下に載せておきます。参考にどうぞです。
ガウスの証明から逆算した
三角法による作図じゃないかって
ガウスの怒りがここまで聞こえそうですね。
つまり、新たな点を加えて円を作り、その交点で新たに出来た線分を三角法(ピタゴラスの三角形)により求めていく。
特に、最初に三角法で求めたBC=√17/4を使って求めたOD=(1+√17)/4とOE=(−1+√17)/4は、2次方程式の解の形であり、この2つの数字(解)と⊿OBEと⊿OBDに三角法を用いて、BE=√(34−2√17)/4とBD=√(34+2√17)/4とが求まるけど、これも2次方程式の解の形をしてますね。
その後、新たに作った線分OH=a、OI=−b、OJ=2cとおき、ガウスの公式2a²=2+b+2cを使ってという所が??なんでしょうか。
でもこれらの線分の長さはルートと四則で表されるので、OM/2=ON=cos(2π/17)も同様にルートと四則で表されるのは明らかです。
ガウスはこうした作図法で確認しなくとも、cos(2π/17)がルートと四則で表される事を直感で見抜いてたんでしょうね。
ガウスにとって、どうやって作図するかではなく、つまり、作図可能である事を幾何学的ではなく代数的に証明する事で、数学の特に代数論の未来が大きく開けると直感したんでしょうね。
勿論、三角法を使わない作図法も色々と登場してますが、逆に判りづらく、どっちがいいのかなとも思います。
結局は、コンパスと棒だけで作図できればいいので、作図できたとしても所詮は結果論であり、ガウスが指摘したように、”ここまで来ると滑稽に思える”のかもしれません。
つまり、アインシュタイン風に言えば
”そんなに作図したけりゃ、画家にでも描かせておけ、そんなのは数学の領域ではない”となるのでしょうか・・・
次に、Aにおける接線上に、AE=AO/4なるEをとり、EF=EG=EOなるFとGをAの接線上におく。
更に、FH=FOなるHとGI=GOなるIを同じくAの接線上におく。
そこで、SIを直径とする半円を描き、OAの延長上の交点をKとし、AS上にKL=AH/2なるLをとり、LM=LN=LKとなる様にMとNをAの接線上にとる。
更に、AP=AM/2なるPをAの接線上にとり、PからABに平行な直線を引き、円Oとの交点をQとRとすれば、∠DOQ=∠DOR=360°/17となる。
勿論、なぜかはわかりません。
最初に、AE=AO/4なるEをとる点は、三角法を使った作図と同じだが、新たに2つの円を描くだけで360°/17を得たんだから、少しは簡単なのかな。
以上、カッコ内を追加です。
やり方は新たに円を描き、交点を求め、最後にはcos(360/17)が求まるとよく似てるんですが、多少はスッキリしてますね。
イラストにして、記事に追記させて頂きます。
いつもお世話かけます。
ありがとうございます。