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リーマン予想と素数の謎、その10〜ゼータ関数とガロア群

2018年05月23日 21時52分06秒 | リーマンの謎

 写真は、リーマンが1859年に発表した、有名な論文です。この”与えられた数より小さい素数の個数について”の論文から、現代数学が産声を上げたと言っても過言ではないでしょうか。この中にリーマンの夢が凝縮されてたんですね。
 さて、本題に入ります。前回はゼータ関数と素数公式の繋りを述べましたが。今回は”ひっつき虫”のゼータ関数についてです。  
 オイラーを起点とし、リーマンが生み出したとされる、このゼータ関数は、幾何にも群にも引っ付くと言われてます。
 素数と全く縁のない”リーマン面”や”リーマン多様体”を、アトル•セルバーグ(1917〜2007 ノルウェー)が1950年代半ばに、これら閉じた測地線(曲面上の2点間の最短距離を結ぶ曲線)のうち、一重の奴を”素元”と考え、ゼータ関数を作ったのです(セルバーグゼータ関数)。

 これは群のゼータ関数と言われ、しかも、このセルバーグゼータ関数はリーマンの夢だったリーマン予想を満たす。
 ここで、”群”という言葉がしきりに登場しますね。 図形の対称性とは、その図形をそれ自身に移す様な合同変換の事ですが。このような合同変換全体(平行移動、回転、折返し=線対称)を”群”(group)と呼びます。

 その群は、平面上では、2×2の行列で表現され、N次元ではN×Nの行列と。つまり、対称性を研究する分野を群論といいます。
 有り体に言えば、ある演算に対し、結合法則が成立し、単位元と逆元が存在する数の集合体です。こっちの方が判り易いですかね。上で述べた合同変換の3つの移動では、結合法則が成立し、単位元と逆元が存在しますね。
 一方、幾何(algebraic)とは、空間の形式的な性質の事で、平面や歪みのない空間の図形の性質をユークリッド幾何学といい、、曲面や歪んだ空間の図形を非ユークリッド幾何学と言います。 
 つまり、ゼータ関数はこの空間(幾何)と変換(群)にも引っ付くとされる。

 また、リーマン面とは、多価関数(1つの定義域Xに対し値域Yが2つ以上)の場合、定義域を幾重の葉に分け、各葉ごとにそれぞれの値をとる関数と考える事で、普通の一価関数を考える手法との事です。
 つまり、関数の定義域をいくつも重ねて貼り合わせ、多価関数を一価関数のように扱うため、複素平面をその多価の数だけ用意し、切り貼りすると言えば判り易く、イメージとしては螺旋階段です。
 一方、リーマン多様体とは、ガウスの「驚異の定理」(曲面のガウス曲率が3次元空間にどの様に埋め込まれるかに依存せず、曲面上で測定される距離などの計量テンソルのみに依存する)を多様体と呼ばれる高次元空間に拡張したものです。

 そして、ゼータ関数は、以下のモノにも引っ付きます。
 前述したリーマン面やリーマン多様体や群は勿論の事。それ以外にも、環、代数多様体、スキームのゼータ関数、代数体のゼータ、ガロア表現のゼータ、離散多様体、グラフ、置換、力学系作用素、圏などのあらゆるゼータにも結びつく。
 これらの中でも代表的なのを2つ挙げると、フェルマーの定理ラングランズ予想です。前者は有名ですね。1637年にフェルマーが提起して以来、350年以上未解決でしたが、1995年に”楕円曲線”の半安定のモジュラリティ(保型形式)を証明する事で解決に至りました。  
 一方、ラングランズ予想の方は、”ガロア表現”のゼータ関数と”保型表現”のゼータ関数を結び付ける予想です。このラングランズ予想については、非常に壮大で広範囲な予想なので、次回に回します。悪しからずです。
 因みに、ガロア表現とは、ガロア群(=代数方程式(√を含む方程式の事)または体の拡大から定義される群=ウィキ参照)を、判り易い線形群に埋め込む事、つまり、全て単純な行列の言葉?で表現出来る。

 ここで、少しガロア群のお話をです。
 ”方程式の解の関係性”を表す、このガロア群を一言で説明する事自体、全くの無謀な訳ですが。
 「方程式のガロア群」(金重明著)の中で、”ガロア拡大体とは、方程式の解を全て添加した体であり、ガロア拡大体の自己同型写像の集まりがガロア群だ”とある様に。
 ガロアは、解のアルゴリズムを求めるではなく、解の構造を可換群に求める事で、5次以上の方程式では一般解が存在しない事を、導き出そうとした。 
 つまり、方程式の解の公式を求める為の道具としての群論ですね。 

 少し寄り道しましたが。再び、専門用語の解説をです。
 保型表現とは、アンリ•ポアンカレが、三角関数や楕円関数の一般化として、最初にこの”保型形式”を発見したんですが。保型表現とは、この保型形式を(アデール)代数群として表現する無限テンソル積である。
 テンソル積とは、2つの行列(ベクトル空間)の積で、N次元の行列をVとし、M次元の行列をWとすると、VとWの基底の組合せで新しく産み出される元は、全部でmn個存在する。こうして新しく生み出される空間の事。V⊗Wで記述され、ベクトル空間の積となります。

 また、という言葉もしつこく出てきますが。ガロアがガロアであり得たのは、この体という概念にあったと言われてます。一般的に、体(field)とは可換な環(ring)であり、体の拡大とは、部分体(sub extension)に対し、上の体(拡大体=field extension)の事をいいます。  
 平ぺったく言えば、四則演算が許される数の集合。つまり、体の”元”同士で四則演算をし、得られた数がその体に含まれてる様な数の集合です。”四則演算で閉じてる”と言うんですかね。例えば、自然数の集合は体ではなく(引き算が負になる時)、整数も体ではないですね(割り算が割り切れない時)。つまり、有理数も実数も複素数の世界も”体”となります。
 また、方程式の全ての解を含んだ拡大体を、特別に”ガロア拡大体”とよびます。このガロア拡大体こそがガロア群に結び付き、”方程式を代数的に解く”事を完全に解明した。

 また代数多様体とは、多変数の連立多項式の解集合として定義される図形であり、離散多様体(=離散空間)とは、頂点と辺からなる空間で、グラフのような物でしょうか。

 環(ring)の定義について。
 和に対し可換群(aの単位元が0、逆元が−a)であり、積に対し結合法則と単位元(=1)が、積と和に対し分配法則が成立する数の集合。
 つまり、(a+b)+c=a+(b+c)、a+b=b+a、(ab)c=a(bc)、1a=a1=1、a(b+c)=ab+ac、だけの事なんですが(悲)。
 この環という構造の持つ遍在性は、代数化の動きの中心原理として働く事になるのですから、無視できない。
 その群•環•体の関係ですが。ある性質を満たす代数系を”群”と呼び、その中で更に特定の性質を満たすものを”環”と。環の中で更に特定の性質を満たすものを”体”。
 つまり、”群⊃環⊃体”となりますが。

 要するに、フェルマー予想もラングランズ予想も、ゼータ関数がベースとなってるという事で今日は終了です。



2 コメント

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ガンマ因子と完備ゼータ関数 (paulkuroneko)
2018-05-25 12:22:47
こんにちわ、早速ですが。
リーマンにはリーマン予想を提出してから39 歳で亡くなるまで、7年未満しか残されておらず、正式な論文発表は叶いません。

ゼータ関数にガンマ因子を掛け、完備ゼータ関数を作ると、完全対称の関数等式を得るのですが。リーマンが1859年に発表した関数等式では、ガンマ因子を補った完備ゼータ関数こそが、ゼータ関数の本来の姿である事を示しました。

そして、この完備ゼータ関数に、完全対称な美が伴ってる事が、数学史上初めて生まれた事は有名ですね。

そして、この関数等式こそが、転んだサンが書かれてる様に、様々なゼータ関数に拡張されていくんです。

それに、リーマンが導入した、このガンマ因子こそが、ダイレクトに絶対ゼータ関数に至るんですが。これはガンマ因子の強力さを実証した、夢の実現とされてます。その上、このガンマ因子は有理関数になるという、信じられない事が起きるんですね。以上、大きなお世話的補足です。
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Re:ガンマ因子と完備ゼータ関数 (lemonwater2017)
2018-05-25 21:41:44
こんばんわです。

凄い補足です。何時もpaulさんには頭は上がりません。ガンマ因子を補った完備ゼータ関数こそが、ゼータ関数の本来の姿だとは。

 それに、リーマンが証明した自明な関数等式ですが。リーマン予想の影に埋もれてしまった事が、不幸の始まりだと思います。もっともっと早く世界中のみ天才数学者達が、この関数等式に注目してたら、リーマン予想は以外にも早く証明されたかもしれません。

 リーマン予想やリーマンの素数公式ばかりが注目され過ぎて、ゼータ関数の広がりやガンマ関数や絶対保型形式や完備ゼータ関数との繋りに、注目が届かなかった事は残念ですね。
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