日本人が読むべき伝記としては、野口英世より小村寿太郎の方が相応しいと思うというレビューには全く同感である。いや、特別指定の教科書にしてもいい位だ。
”日本の命運を賭けた日露戦争。旅順攻略、日本海海戦の勝利に沸く国民の期待を肩に、外相•小村寿太郎は全権として、ポーツマス講和会議に臨んだ。
ロシア側との緊迫した駆け引きの末の劇的な講和成立。しかし、樺太北部と賠償金の放棄は国民の憤激を呼び、大暴動へと発展する。
近代日本の分水嶺•日露戦争に光をあて、交渉妥結に生命を燃焼させた小村寿太郎の姿を浮き彫りにする”
「ポーツマスの旗」(1983)の紹介文を見ただけでも、凄い歴史書だと推測できる。交渉とは外交とはかくありきと痛感させる大書でもある。
厚さが2センチにも満たない文庫本に、小村寿太郎という人間を知る事が出来る、吉村昭氏の渾身の一冊でもある。
”むぎわら日記”さんのブログでも書かれてますが。以下、数多くのアマゾンレビューから一部抜粋&編集して紹介します。
小さな巨人•小村寿太郎
”203高地”を攻略し、ロシアのバルチック艦隊を全滅させた時点で、極東でのロシアの劣勢は確定的になった。
更にロシアでは内乱(ロシア革命)が勢いを増し、日本は圧倒的に有利に見える立場で交渉に当たったかに見えた。が実は、日本も戦費を消耗し尽くし、軍の士気も極限にまで落ち、もしロシアがヨーロッパから戦力を極東に転じれば、戦争継続は日本が圧倒的に不利だったのだ。
バルチック艦隊を沈められてもプライド高いロシアは全面降伏をせず、長期戦となればまだまだ勝機はあると強気な態度だ。
迎える日本は、これ以上戦争を続ける体力は無いが、簡単に引いてしまう事は国内世論が許さない。しかし、何が何でも”講和をすべき”という天皇及び元老、大本営の意を汲み、交渉に挑んだ小村の心境を鑑みると、彼の背負ったプレッシャーの凄まじさに身じろぎしてしまう。
交渉中は、”フランス語理解不能”な筈であった小村が、交渉後のロシア側のフランス語の質問にフランス語で返す。ロシア側は”こいつは実はずっと分っていた”と驚愕した。
身長わずか147センチの小村が、”小さな巨人”と言われる所以がここにある。
ロシアに勝った(と思った)日本国民は日の丸の小旗を打ち振り、小村一行をアメリカのポーツマスに送り出したが、政府や日本軍にとってはロシアが講和条約に応じるかどうか?綱渡りの交渉が始まった。
当時はロシアの領土とされていた樺太全島を日本が侵略•占領していたが。
ロシアの全権ウィッチは、”皇帝は1ルーブルの賠償金支払いも、領土の1片も譲らないとおっしゃってる”
一方日本側は、”最後は日本側は領土も賠償金も得られなくてよいから戦勝国としての名をとればよい・・・”という所まで譲歩した。
結局、南樺太の日本への割譲のみで条約は成立する。
小村寿太郎の悲劇と明治人の威信と
政府や軍部は小村の交渉能力に胸をなでおろし、天皇の感謝状まで拝受したが。収まらないのは何も知らされてない国民と正確な情報を得られていないマスコミだった。
小村に好意的なマスコミは1社だけ。”弱腰外交”と批判され、戦勝国としては軟弱すぎる条約締結に抗議し、日本各所で暴動が勃発。何と小村寿太郎の自邸にまで投石や放火が及び、妻の町子や子どもや使用人は命からがら逃げだすありさまだ。
日本国民やマスコミはこうして正確な情報を政権に秘匿されたまま、大日本帝国はその場の勢いで、領土的野心の暴走は中国戦線を拡大し、太平洋戦争に突き進んでいく。
もし日本国民に知らせたら、当然ロシア皇帝の耳にも入ってしまう・・・というのが国家機密の表向きの理由だとされるが。
ヒットラーは、ドイツ国民に”黙れ”と言ったのではなく、”叫べ”といったか。
チョンマゲと刀を持っていた日本人が、僅か40年でこの様な国際舞台で活躍できた事に世界中が驚嘆した訳だが、今考えても凄い事だ。
明治人の毅然とした対応には心を打たれる。最近の安倍外交を見ていると、100年前の 外交との差が残酷な程くっきりと浮かび上がってくる。
解説の粕谷一希氏が以下の様に述べていた事も印象深い。
”日露戦争を終えてからの日本は、もはやそれまでの見事な国家意思や国家理性を形成する事なく、破局への道を歩む。民衆に石を投げられる中で、自己抑制に生きた小村と明治国家は崩壊し、松岡洋祐の様な派手なスタンドプレーヤーが昭和国家に出現した事も極めて対照的である。それは過去の事ではなく、今後の日本を見つめる貴重な視点となり得るのである・・・”
今の安倍首相には、ぜひ読んでほしい一冊でもある。
考えるほどに虚しくなってきます。
しかし、その小村も日本ではロシア同様に屈辱にまみれます。
その後、第一次世界大戦では実質の戦勝国となり、軍事国家として大きく羽ばたきますが。第二次世界大戦では逆に米英ソに裏切られ、屈辱以上の痛い目に遭います。
戦争に勝者も敗者もいない事を痛感させられます。
バカはね叩いてもポチなのね(^^)