LHFトーク"GONDLA"

LHFの二人のだらだらトーク。

メリークリスマス

2008年12月25日 | 過去の記事
「おれはどうもサンタはいるとしか思えないんだ」
 アレクサンドリアフラペチーノをすすりながら、彼は僕にそうつぶやいた。
「ほう、それはどうして?」
「まず、サンタは一般にはいないものと言われている」
「そうだね。サンタはいないと言われている」
「じゃあサンタってなんだろう」
「赤い服を着ていて、トナカイのソリに乗っていて……」
「もっと端的に言って」
「プレゼントを配る人?」
「そう、プレゼントを配る人なんだよ」
「それで?」
「大切なのは結果だ。子供たちが朝起きると、そこにプレゼントはある」
「それは親が置いてるんだろ」
「事実はどうであれ、プレゼントはそこにあるんだよ。サンタはいないものなのにだ」
「どういうこと?」
「つまりサンタの存在は否定されているのにもかかわらず、サンタの役割は果たされているんだ」
「なるほど」
「そこでおれは考えた。サンタは存在である必要はないんじゃないかって」
「存在じゃなきゃ何なの?」
「概念だよ」
「概念」
「そう、サンタは存在ではなく、概念なんだ。重要なのは外延的なパーツではなく、内包された機能だ」
「内包された機能」
「そう、そう考えると、サンタという機能は果たされている。プレゼントはそこにあるんだ」
「まあ分からなくもないけど」
「だからサンタはいる。定義の部分がずれれば、サンタは間違いなく存在する」
「でも物質的にはやっぱりいるとは考えられない」
「物質的」
「うん、物質的に」
「おれはこう考えるよ。物質的に、サンタがいないことは証明できない」
「背理法か」
「その通り。いないことが証明できなければ、いる可能性は残される」
「まあ、そうだね」
「そもそもサンタの定義も怪しいものだ。赤い服を着ていたり、トナカイのソリに乗っていたり。それは人間の想像の暴走のようにも感じられる」
「確かに」
「仮にサンタが発見されたとして、赤い服を着ていなくても、髭面じゃなくても、プレゼントを配っていればそれはサンタじゃないか」
「そうだね」
「そうなるとサンタの定義はプレゼントを配る人になる」
「うん」
「少し言い方を変えれば、クリスマスにプレゼントを渡す人はサンタなんだよ」
「ってことは?」
「そう、実はサンタは親なんだって言う人がいる。それは本質的にとても正しいと思うよ。もっと言えば」
「もっと言えば?」
「その瞬間は、サンタが親であり、親がサンタでもある」
「機能の譲渡」
「それいいね。その通り、それは機能の譲渡だ」
「つまり誰かが代わりを務めていても、サンタの機能は失われない。それが概念としての存在だと」
「うん、その通りだ」
「なるほど、サンタはいる、か」
「おれはそう思うよ」
「じゃあサンタを信じるかという質問は?」
「うん、ずれてるね。サンタは信じるべきものではない。概念なんだから」
「なるほど、とても面白い」
「ありがとう」
「ひとつだけ、聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
「もちろん」
 僕は彼を見つめ、言った。
「君は誰だ?」
 すると彼は少し微笑んだかと思うと、僕の後ろを指差した。振り返ると、外は雪が降っていた。ホワイトクリスマスだ。今にも鈴の音が聞こえてきそうだった。
「雪が降っている」
そう彼に言おうと再び彼の方を向くと、そこには誰もいなかった。代わりに、彼が座っていたイスにひとつの靴下が置いてあった。僕は丁寧にそれを拾い上げると、中に入っているものを確認した。それは一枚のメモだった。そこには細い字でこう書かれていた。
『参 卓郎』
なるほど、それが彼の答えか。僕はメモを持って外に出ると、雪の降る空を見上げてこうつぶやいた。
「ダジャレかよ……」

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