「おれはどうもサンタはいるとしか思えないんだ」
アレクサンドリアフラペチーノをすすりながら、彼は僕にそうつぶやいた。
「ほう、それはどうして?」
「まず、サンタは一般にはいないものと言われている」
「そうだね。サンタはいないと言われている」
「じゃあサンタってなんだろう」
「赤い服を着ていて、トナカイのソリに乗っていて……」
「もっと端的に言って」
「プレゼントを配る人?」
「そう、プレゼントを配る人なんだよ」
「それで?」
「大切なのは結果だ。子供たちが朝起きると、そこにプレゼントはある」
「それは親が置いてるんだろ」
「事実はどうであれ、プレゼントはそこにあるんだよ。サンタはいないものなのにだ」
「どういうこと?」
「つまりサンタの存在は否定されているのにもかかわらず、サンタの役割は果たされているんだ」
「なるほど」
「そこでおれは考えた。サンタは存在である必要はないんじゃないかって」
「存在じゃなきゃ何なの?」
「概念だよ」
「概念」
「そう、サンタは存在ではなく、概念なんだ。重要なのは外延的なパーツではなく、内包された機能だ」
「内包された機能」
「そう、そう考えると、サンタという機能は果たされている。プレゼントはそこにあるんだ」
「まあ分からなくもないけど」
「だからサンタはいる。定義の部分がずれれば、サンタは間違いなく存在する」
「でも物質的にはやっぱりいるとは考えられない」
「物質的」
「うん、物質的に」
「おれはこう考えるよ。物質的に、サンタがいないことは証明できない」
「背理法か」
「その通り。いないことが証明できなければ、いる可能性は残される」
「まあ、そうだね」
「そもそもサンタの定義も怪しいものだ。赤い服を着ていたり、トナカイのソリに乗っていたり。それは人間の想像の暴走のようにも感じられる」
「確かに」
「仮にサンタが発見されたとして、赤い服を着ていなくても、髭面じゃなくても、プレゼントを配っていればそれはサンタじゃないか」
「そうだね」
「そうなるとサンタの定義はプレゼントを配る人になる」
「うん」
「少し言い方を変えれば、クリスマスにプレゼントを渡す人はサンタなんだよ」
「ってことは?」
「そう、実はサンタは親なんだって言う人がいる。それは本質的にとても正しいと思うよ。もっと言えば」
「もっと言えば?」
「その瞬間は、サンタが親であり、親がサンタでもある」
「機能の譲渡」
「それいいね。その通り、それは機能の譲渡だ」
「つまり誰かが代わりを務めていても、サンタの機能は失われない。それが概念としての存在だと」
「うん、その通りだ」
「なるほど、サンタはいる、か」
「おれはそう思うよ」
「じゃあサンタを信じるかという質問は?」
「うん、ずれてるね。サンタは信じるべきものではない。概念なんだから」
「なるほど、とても面白い」
「ありがとう」
「ひとつだけ、聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
「もちろん」
僕は彼を見つめ、言った。
「君は誰だ?」
すると彼は少し微笑んだかと思うと、僕の後ろを指差した。振り返ると、外は雪が降っていた。ホワイトクリスマスだ。今にも鈴の音が聞こえてきそうだった。
「雪が降っている」
そう彼に言おうと再び彼の方を向くと、そこには誰もいなかった。代わりに、彼が座っていたイスにひとつの靴下が置いてあった。僕は丁寧にそれを拾い上げると、中に入っているものを確認した。それは一枚のメモだった。そこには細い字でこう書かれていた。
『参 卓郎』
なるほど、それが彼の答えか。僕はメモを持って外に出ると、雪の降る空を見上げてこうつぶやいた。
「ダジャレかよ……」
アレクサンドリアフラペチーノをすすりながら、彼は僕にそうつぶやいた。
「ほう、それはどうして?」
「まず、サンタは一般にはいないものと言われている」
「そうだね。サンタはいないと言われている」
「じゃあサンタってなんだろう」
「赤い服を着ていて、トナカイのソリに乗っていて……」
「もっと端的に言って」
「プレゼントを配る人?」
「そう、プレゼントを配る人なんだよ」
「それで?」
「大切なのは結果だ。子供たちが朝起きると、そこにプレゼントはある」
「それは親が置いてるんだろ」
「事実はどうであれ、プレゼントはそこにあるんだよ。サンタはいないものなのにだ」
「どういうこと?」
「つまりサンタの存在は否定されているのにもかかわらず、サンタの役割は果たされているんだ」
「なるほど」
「そこでおれは考えた。サンタは存在である必要はないんじゃないかって」
「存在じゃなきゃ何なの?」
「概念だよ」
「概念」
「そう、サンタは存在ではなく、概念なんだ。重要なのは外延的なパーツではなく、内包された機能だ」
「内包された機能」
「そう、そう考えると、サンタという機能は果たされている。プレゼントはそこにあるんだ」
「まあ分からなくもないけど」
「だからサンタはいる。定義の部分がずれれば、サンタは間違いなく存在する」
「でも物質的にはやっぱりいるとは考えられない」
「物質的」
「うん、物質的に」
「おれはこう考えるよ。物質的に、サンタがいないことは証明できない」
「背理法か」
「その通り。いないことが証明できなければ、いる可能性は残される」
「まあ、そうだね」
「そもそもサンタの定義も怪しいものだ。赤い服を着ていたり、トナカイのソリに乗っていたり。それは人間の想像の暴走のようにも感じられる」
「確かに」
「仮にサンタが発見されたとして、赤い服を着ていなくても、髭面じゃなくても、プレゼントを配っていればそれはサンタじゃないか」
「そうだね」
「そうなるとサンタの定義はプレゼントを配る人になる」
「うん」
「少し言い方を変えれば、クリスマスにプレゼントを渡す人はサンタなんだよ」
「ってことは?」
「そう、実はサンタは親なんだって言う人がいる。それは本質的にとても正しいと思うよ。もっと言えば」
「もっと言えば?」
「その瞬間は、サンタが親であり、親がサンタでもある」
「機能の譲渡」
「それいいね。その通り、それは機能の譲渡だ」
「つまり誰かが代わりを務めていても、サンタの機能は失われない。それが概念としての存在だと」
「うん、その通りだ」
「なるほど、サンタはいる、か」
「おれはそう思うよ」
「じゃあサンタを信じるかという質問は?」
「うん、ずれてるね。サンタは信じるべきものではない。概念なんだから」
「なるほど、とても面白い」
「ありがとう」
「ひとつだけ、聞きたいことがあるんだけどいいかい?」
「もちろん」
僕は彼を見つめ、言った。
「君は誰だ?」
すると彼は少し微笑んだかと思うと、僕の後ろを指差した。振り返ると、外は雪が降っていた。ホワイトクリスマスだ。今にも鈴の音が聞こえてきそうだった。
「雪が降っている」
そう彼に言おうと再び彼の方を向くと、そこには誰もいなかった。代わりに、彼が座っていたイスにひとつの靴下が置いてあった。僕は丁寧にそれを拾い上げると、中に入っているものを確認した。それは一枚のメモだった。そこには細い字でこう書かれていた。
『参 卓郎』
なるほど、それが彼の答えか。僕はメモを持って外に出ると、雪の降る空を見上げてこうつぶやいた。
「ダジャレかよ……」