10の短編集です。どれも小川さんらしい内容ばかりで、今回も非常に楽しく読ませて頂きました。
短いお話なのですが、一つ一つに個性があって、すぐに次の作品で頭を切り替えるのが難しく、予想外に全部読み終えるまで時間がかかってしまいました。
お話の最後に、小説の発想のきっかけになったらしい人の名前と経歴が書かれていて、ちょっとくすっとしたり、ちょっとドキっとしたりします。有名人だったり、無名の人だったりします。エリザベス・テイラーは納得がいくとして、グレングールドとかは、そんなにピンと来なかったりもしたかな。3人の少年のメイドさんの行く末とかは、小川さんらしいな・・。
私が一番好きなのは、「肉詰めピーマンとマットレス」かな。まったく毒が無い作品ですが。
ブラック度が激しいのが、「さあ、いい子だ、おいで」
「誘拐の女王」とか「若草クラブ」は、小川さんらしい、ちょっと偏執的というか、精神を病んでいる感じで、痛々しいお話ですね。
以下に感想と内容を書きますが、全部ネタバレで書きますので、未読の方は注意です!!
第一話 誘拐の女王
誘拐された過去を持つ、親が再婚したことで出来た姉。彼女が大切に持っているがらくたには、それぞれ誘拐時のエピソードがあり、その話をコソコソと聞かせてもらうのが好きだった。姉は夜寝床で誰かに折檻されているのか、折檻されているような声を上げていたが・・・。
実は、姉の一人芝居、自分で自分を傷つけ、罵倒する声だったのですね・・・。
第二話 散歩同盟会長への手紙
散歩するのが趣味な主人公。途中で文字の形をした石を集めている。仕事は色々な物を包む作業なのだが、とても丁寧に仕事に取り組んでいる。そのことを理解してくれた喫茶店のママのことを密かに好きなのだが・・
小川さんの小説に登場する人は、妙な仕事、些細な習慣に、とても律儀でストイックな事が多いですよね^^
第三話 カタツムリの結婚式
孤島の同志が、あちこちに点在しており、それを見つけられることがある、TVで放映しているオーケストラの演奏中に、サッカー試合中に、そして飛行場に。弟は幼いのに飛行機マニアで、それを母は褒め喜び、頻繁に家族で休日に飛行場に行くのだったが、そこで、かたつむりを披露している謎の男性に出会うのだった。
「太陽がいっぱい」「キャロル」のパトリシア・ハイスミスをモデル?にして書いた作品だそうです。
彼女は若い頃、カタツムリが大好きで、庭で何百匹も飼っていたそうだ。フランスに引っ越す時に、生きたカタツムリを持ち込むことが禁止されていたので、自分の乳房の下に何匹も隠して往復したそうで、ビックリ・・・。
第四話 臨時実験補助員
23年前、とある仕事でコンビを組んだ女性と久しぶりに再会する。その仕事とは、拾った人に自然に読まれる様な場所に、手紙を何の気ないような場所に置いて来るという仕事だった。
彼女はお菓子作りの先生で、子育て中で、ミルクが溜まってきて、たまに胸にシミを作ることがあった。そして、彼女は母乳入りのババロアを作るのだった。
第五話 測量
目が見えない祖父の歩数を測り、あらゆる箇所の歩数を書き留めるという作業を僕はしている。祖母が亡くなった後、口笛虫が祖父の耳に住み着き、その音楽を聴くようになった・・。
かつて祖父の家はお金持ちで、このあたり一帯の塩田を持っていたそうな。
ある時、動物園の象が亡くなり、その亡骸を埋葬しようということなったが、その象をおさめられるような大きな場所がなく、でも象を切り刻むという酷なことも出来ずにいた。そんなとき、塩田王は自分の土地を象のお墓にと、提供したのだった。
第六話 手違い
「お見送り幼児」の姪と祖母と共に葬儀場に行ったのだが、手違いだったようで、時間が空き、湖の側に来た。
かつては自分も、「お見送り幼児」だったのだ。
祖母は手編みで上手に、あの世へ向かう道をわたる時の靴をいつも用意していた。
湖で3人遊んでいたお金持ちのぼっちゃまたちと、カメラを首からかけているメイドがいた。メイドが水にうっかり濡れてしまう。
第七話 肉詰めピーマンとマットレス
息子Rは、子供の頃は病弱だったし、18の頃、事故に遭って片耳が聞こえなくなってしまったが、今はとある外国で一人で学生なのかな?暮らして1年になる。母の私は短期間息子の部屋に滞在し、あらかじめ息子が丁寧に書いてくれた観光の手引書を持って、昼間は街を散策するのだった。しかしある時その手引書を紛失してしまう。
これは、とても読んでいて温かい気持ちになる話でした。小川さんにも実際にこういうお子さんがいらっしゃるんじゃないのかな・・?
訪ねて来る母のために、細かく丁寧に書いてくれた、観光の手引書を、とても誇らしく大切に思うお母さんの気持ちがよく解りますね。
慣れない街で、料理を・・と、一生懸命作った、ピーマンの肉詰め。作り終えた後、冷凍庫が無いことに気がつき、アパートの大家さんのおばさんにあげたら、とても喜んで食べてくれて、良かったね!
第八話 若草クラブ
学芸会で「若草物語」を演じた4人の仲間。私の役割は、エミイになった。なんだか、特別何か特徴があるわけじゃない役だな・・と思っていたところ、メンバーの一人が、映画でエミイを演じたのは、かのエリザベス・テイラーだったのと教えてくれた。図書館でエリザベス・テイラーについての本を読んだ私は、自分との共通点を色々見出し、毛深いところ、足が21cmと小さい事などを知る。
段々と自分の足が成長し大きくなるのを阻止するために、朝晩、つま先立ちで耐えるという日課を自分に課すようになる・・。
第九話 さあ、いい子だ、おいで
私たちは「愛玩動物専門店」で文鳥を飼い、可愛がっていた。 そのお店の店員の男性の「さあ、いい子だ、おいで」という声に見せられた私は、その後もなにかにつけて彼を見るために店を訪ねていた。最初小まめにケアをしていた文鳥や鳥かごだったが、安定期に入って、段々手抜きになるようになり、また夏になって、朝早く鳴く声がうるさいため、上に夫の作業着をかぶせ、暗い時間を作るようにしたりしていた。そのうち文鳥の爪が伸び、切らねばならなくなったが、奮闘しているうちに、爪が根こそぎ抜けてしまった。それ以後、文鳥は弱って、どんどんやつれて行き・・・
かなりブラックなお話。最後の方の、文鳥の様子が悲惨になっていく描写が辛いです。
第十話 十三人きょうだい
父は13人兄弟だった。一番末っ子の、カッコよくて面白い事を言うサー叔父さんは私のお気に入りだった。彼の名前は知らない。
蜘蛛の巣は宇宙からの手紙なんだ、と言ったり、キャラメルのおまけの三輪車に乘ったり・・。
不時着する流星たち 小川洋子 2017/1/28
小川洋子さんの他の小説の感想
「琥珀のまたたき」
「注文の多い注文書」
「いつも彼らはどこかに」
「ことり」「とにかく散歩いたしましょう」 感想
「最果てアーケード」「余白の愛」小川洋子
刺繍をする少女
人質の朗読会
妄想気分
原稿零枚日記」
「ホテル・アイリス」「まぶた」「やさしい訴え」
「カラーひよことコーヒー豆」
小川洋子の偏愛短篇箱
猫を抱いて象と泳ぐ
「偶然の祝福」「博士の本棚」感想
妊娠カレンダー、貴婦人Aの蘇生、寡黙な死骸 みだらな弔い
薬指の標本 5つ☆ +ブラフマンの埋葬
「おとぎ話の忘れ物」と、「凍りついた香り」、「海」
「ミーナの行進」「完璧な病室・冷めない紅茶」感想
どれも短い中に小川さんらしさがギュッと詰まった作品でしたね。
私は初めの誘拐のお話がいいと思いました。
姉の存在が、作品に独特な緊張感を与えていて、張り詰めている感じがしました。
あとは「臨時実験補助員」です。
実験自体がリリカルで、手紙を置く前と置いた後と、何か体が浮いているような不思議な感じがしました。
現実の人のエピソードが話の後に小さく書かれてあるのがいいですね。
何でそう思ったのかな? って疑問が残るものもあったけど(グレングルードは確かによく分からなかった)多分、リアルが胞子のように浮遊して小川さんの中で育つんでしょうね。
私も昨日小川洋子さんの「シュガータイム」という作品を読みました。
「小川さんらしい、ちょっと偏執的というか、精神を病んでいる感じ」という言葉が印象的でした。
シュガータイムの主人公も過食症のような症状になっていて、以前読んだ「博士の愛した数式」の博士は記憶が80分しか持たなかったりと、たしかに作品にそんな傾向がありますね。
そしてこの「不時着する流星たち」は非常に楽しく読めたとのことで良かったですね
私もいずれ機会があれば読んでみようと思います
最初の誘拐のお話も、面白かったですねー。
どれも短編にしておくには、もったいないアイディアが詰まったお話でした。
もうちょっと長いお話で、読みたいかもなー(わがまま)
臨時実験補助員の実験といい、包む作業の仕事といい、小川さんの小説に登場する仕事って、妙なのがあって、可笑しおもしろいです。
>現実の人のエピソードが話の後に小さく書かれてある
そうそう。本編とは別に、そのエピソードも楽しめますよね。
小川さんの割と最近の小説(タイトル忘れました・・)でも、似たような試みをされていました。
シュガータイム、小川さんファンだというのに、読み逃していたことに今気がつきました!私も近日中に借りて読んでみます。
内容を、ざっとネットで見たところ、小川さんらしい内容で、くふふ・・・^^と、なりました。
読み終わったら、はまかぜさんちにお邪魔しますねー、はまかぜさんが、どんな感想を持たれたのか、楽しみです!!
読み手の精神状態とかもあるのでしょうか。
私、案外ブラックが好きだったりします。
(^_^;)
トラバお願いします♪
そうでしたか、これ久々に、こにさんにピット来た小川作品だったのですね^^
そういうのってありますよね、私もこのところ、伊坂さんの最近の小説が、どうもピンと来ないことが続いていて。
でも、読むときのこっちの精神状態とか体調とかが良くなかったせいもあるのかなー?って思っていたんです。
私もブラックなスパイスの効いた小川さんの作品が大好きです。
小川さんの短編集のこの浮遊感は、心許ないというより、浮いている心地よさを感じました。
「さあ、いい子だ、おいで」は、途中から「早くベットショップに行って!」と願っていたのに、行かないまま終わってしまい、主人公がベビーカーをもってきてしまったことに、ぞっとしました。
私も「肉詰めピーマン~」が好きです。親子の愛情があふれる感じが、とてもすてきだと思いました。
そうですね、浮遊感、ありましたねー。
どのお話も、それぞれ小川節炸裂で、とても面白かったです。
肉詰めピーマン、いいですよねえー!
最近の小説の中でも、1,2番に気に入ってるお話です。