峡中禅窟

犀角洞の徒然
哲学、宗教、芸術...

西風はかえり...春を告げる音楽。

2018-04-04 02:25:08 | 音楽

寒さの厳しい冬だった...

そう思っている間にも、一転、思わぬ陽気が続き、あっという間に桜の季節が到来...

ということで、春を告げる音楽...

 

*モンテヴェルディ:『西風はかえり...』...


タ・ター・タ・ター・タ・ター・タ・ターという、軽快なシャコンヌ(チャコーナ)のリズムに乗せて、春を告げる西風の到来を喜ぶ歓喜の曲です。

春になり、西風がかえってくる...あるときは荒々しく、またあるときは優しく...
日本では、西風は冬の厳しい寒さを運ぶイメージですが、地中海世界では、春を運んでくる「そよ風」のイメージが近いといいます。

それよりも何よりも、西風(ゼフィルス)がやって来ると、命の燃え立つ春の到来なのです...


下の画像、ほっぺたを膨らませ、誕生するヴィーナスに息を吹きかけているのが西風の神「ゼフィロス」。抱き合っている相手は、奥さんの1人で花の神フローラ...春を告げる西風の神に相応しい伴侶です。

 

 

クリップの作品、歌詞はこのような感じです...

 

西風(ゼフィロス)がかえってくる、おお、甘美な調べとともに...
すると大気は喜びに満ち、海の波も逆巻く...
そして、緑の木立の囁きにまじって、草原の花々がダンスを踊り、優しい音をたてる...



作曲は、イタリア・ルネサンスから初期バロックへの転換点に立つ作曲家、クラウディオ・モンテヴェルディ(Claudio Giovanni Antonio Monteverdi;1567-1643)...このクリップの作品は『音楽の諧謔』に入っている二声の作品、歌詞を書いたのが、モンテヴェルディと同時代の詩人、オッタヴィオ・リヌッチーニ。

因みに、上肖像画、有名なものですが、確かにモンテヴェルディを描いたと言える画像としては、唯一のものだといいます。


さて、同じタイトルの曲がモンテヴェルディにもう一曲あり、それは『マドリガーレ集第6巻』に入っている五声のマドリガーレ。

こちらが、同じモンテヴェルディの五声の方...

 

*モンテヴェルディ:『西風はかえり...』...

 

実は、この両曲、歌詞も違います。この五声の方の歌詞は、一四世紀ルネサンスのフランチェスコ・ペトラルカ。

歌詞としては、ペトラルカのものの方が遙かに有名で、こちらの歌詞にはルカ・マレンツィオも有名な曲を書いています。

 

西の風がもどり 好天をもたらす
そのやさしい家族の花や草をも
つばめ がさえずり
うぐいすが鳴き
春は白と赤につつまれる。
草原は笑い 空は晴れ
ジョーヴェ (ジュピター) はその家族を見てはしゃぎ
空気も水も大地も 愛に満ち
すべての動物はふたたび愛を交わす


最初の二声の作品の方は、「シャコンヌ(チャコーナ)」の代表的な例だったのですが、こちらも同じリズムパターンです。

「シャコンヌ」と言えば、バッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ』第二番のイメージで、荘重重厚な技巧的作品のイメージを持つ人がいると思いますが、確かに、シャコンヌはそういった作品へと発展していったりもしているものの、もともとは陽気で快活、騒がしい踊りの音楽です。

 

西風の神「ゼフィロス」は、実はルネサンス絵画でもよく姿を見かけるものです。たとえば、冒頭のクリップ、サンドロ・ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』と並ぶ有名作品『春(プリマヴェーラ)』にも、画面の向かって右上に登場しています。

 

 

画面の一番右、肌の色が青黒いのでわかりにくいですが、ニュンファのクローリスを攫っていこうとしています。

『ヴィーナスの誕生』も『春』も、どちらもゼフィロスは一陣の突風のイメージです。春を告げる西風は、あるいはそよそよと吹く穏やかな微風であったり、あるいは突然強く吹き付ける強風であったり...風の神は気まぐれなのです。


ギリシアでは、ホメロスの『オデュッセイア』に登場する風の神「アイオロス」が有名ですが、そのほかにもこの『オデュッセイア』のなかで「アイオロス」の厩舎に繋がれた「馬」として描かれている四柱の風の神「アネモイ(Ἄνεμοι, Anemoi)」が代表的です。アネモイは、ヘシオドスの『神統記(テオゴニア)』のなかでは、星空の神アトライオスと暁の女神エーオースの子供だとされています。

アネモイたちは、それぞれ東西南北の各方角を司っており、その方角からの季節風に対応して、それぞれが様々な季節・天候に関連付けられていました。たとえば、

「ボレアース」は冷たい冬の空気を運ぶ北風、

「ノトス」は晩夏と秋の嵐を運ぶ南風、

「ゼピュロス」は春と初夏のそよ風を運ぶ西風、

「エウロス」は東風ですが、このエウロスだけはどの季節とも結びついていないといいます。

アネモイにはこのほか、北東、南東、北西、南西の風を表現する下位の4柱があるといいます。


さて、もう一つ...
『西風はかえり』といえば、これも有名な、
モンテヴェルディの一世代上、一六世紀初期バロックのイタリアの作曲家、ルカ・マレンツィオ(Luca Marenzio:1553-1599)の作品...

歌詞は、ペトラルカの作の方を用いています。


*ルカ・マレンツィオ:『西風はかえり...』...


 

締めくくりに、サロン的な作品を...

 

*フバイ:『ゼフィール(西風)』...

 

あるいはそよそよとそよぎ、あるいは突風となって人を驚かす、気まぐれな春の西風をとても良く表現する、優雅で洗練された佳曲です。



作曲者のイェネー・フバイ(Jenő Hubay;1858-1937)は、19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍した、ハンガリーの作曲家、ヴァイオリニスト、音楽教育家。門下からは、ティボール・ヴァルガ、ヨーゼフ・シゲティが出ています。

演奏は、20世紀を代表するヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツ...見事な演奏...



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