25時の島

祝!カブ移籍。W杯は雲の彼方に

オーストラリア・バレエ団「白鳥の湖」-後編-

2007-07-22 16:08:06 | バレエ観劇
いくで~。怒涛の後半戦!!


第三幕
ロットバルト男爵夫人の夜会。ジークフリートは愛人に依存したままで、男爵夫人はそれを誇示するように貴族を集めてパーティを開く。
そこへ突然、サナトリウムを抜け出したオデットが現れる。男爵夫人の暗い魅力に浸っていた王子はそれまでなかったオデットの優しさと華やかさに惹かれていき、愛人の手を放す。同時に沸き起こった周囲の無言の嘲りに怒る男爵夫人は王子を取り戻そうと力を尽くすが、いまや王子はオデットのそばを離れようとしない。男爵夫人はついにサナトリウムに使いを遣ってオデットを再び閉じ込めようとするが、オデットはそれをかいくぐり、するりと逃げ出してしまう。王子達は後を追いかける。


プログラムの筋書き表現に納得がいかなかったので、自分解釈にしてみました。プログラムだと「オデットの淑やかな美しさ、まじりけの無い純粋さに動かされてジークフリートは彼女を愛するようになる」となっているけれど、ちょっと違う気がするんですな。

冒頭で王子と男爵夫人のカップルは不健康そのものな感じになっている。愛し合っているというよりもセックスしかないというか、男爵夫人が強い麻薬で王子はそれにおぼれて感覚を麻痺させたジャンキーといった感じだ。
場面は紫と黒味を帯びたホールで、第一幕の明るい水辺と反転したつくりになっている。上手に扉が合ってそこから招待客が入ってくる。一幕の客が白い服を着ているのとは対照的に、ここでは皆、黒かそれに準ずる暗い色彩の衣装で。王子の姉弟もやってくる。一幕ではしゃいでいた「ファーギーちゃん」はここでもマナー無視で公爵に飛びついていちゃついたりと、良い味出している。また、オデットに親しげだった第一幕の伏線が効いていて、男爵夫人に対しては無視するような振る舞いを見せていた。
他の王室メンバーはちょっと距離を置いた様子になっている。「一応公認の愛人だから挨拶はしてやるけど、貴女は住む世界が違うのよ。」とか言いそうな感じだ。もっとも他の招待客は陰の実力者たる男爵夫人に対して恭しく接し、華やかに踊る。例の伯爵+侍従のゲイカップルも素敵に踊る

怪しいねっとりした踊りの後にいきなりファンファーレがなり、全員が一斉に扉の方を見ていると、その隙を狙っていきなり中央にオデットが現れる。やられた~。見事にだまされた。暗い中でオデットだけきらきらと光る白いドレスで浮き上がっている。古典版の反転ですね。で、第一幕の狂乱が嘘のように礼儀正しく振舞って軽やかに踊るのだ。これも面白い。通常なら恋敵がねっとりと踊る場面なのに、この版ではオデットは静かにふわりと踊り、男性の招待客が彼女をリフトして空中を歩くように舞う。
ちなみにここでファーギーがオデットに「きゃー久しぶりー!!」と女子高生ノリで駆け寄ろうとして第一王女に止められるという小芝居もあったりと芸が細かかったのが印象的でした。

話を戻しますと、ここでのオデットは狂乱を突き抜けてしまったからなのか、落ち着いた物腰で笑顔・やわらかい雰囲気をまとっている。この明るい雰囲気が王子にとっては希望みたいに見えたのではないかな?と思ったんですよ。男爵夫人はセクシーで魅力的だけど、二人でいても未来もないし、他にすがるもの無いから惰性のみでぬかるみにはまってしまった様な状況に現れた「救い」。それがこの幕でのオデット。

披露宴でも病院でも苦悩する姿しか見せなかったオデットがこんなに白く軽やかにあらわれて、この輝く彼女と一緒にいれば母親の陰に隠れてぱっとしない自分も変わるのではないか?と王子は夢見たのではないかな~。
でも自分が変わらないと何もならないのよ、王子。


閑話休題
そんなわけで、王子は男性陣からオデットを取り返して踊る。ここもとても静か。
その間、王族含むお客達は両脇に置かれたソファーなどにいるのだが、そこを男爵夫人が取り繕うように動き回るのだが、この時点でお客達は彼女をコケにし始める。怖いわ~。王族の寵を失うってこういうことなのね。この辺は本当に第一幕で孤独に追いやられるオデットの反転で面白い。
自棄になったように男爵夫人がソロで踊るが、ここも一幕で彼女が披露したチャルダッシュとの反転みたいで手拍子を打って踊る姿が印象的だった。

結局、王子の心がオデットに向いてしまったのを見せ付けられた男爵夫人はサナトリウムに使いを遣る。そういえばオデットはどうやって抜け出してあのドレスを着たのだろう?禁句かもしれないが、色々想像できそうで面白い。でもオデットは再び舞台中央で忽然と消えてしまい、王子達は探しに行く…男爵夫人を足蹴にして・・・。ほんましょうがない奴ゃなー



第四幕
夜の湖。王子たちはオデットを探すが見つからない。ようやく探し当てたとき、彼女は黒鳥の群れの中でうずくまっていた。二人は初めて心から愛を語り、結ばれるが、疲れ果ててしまったオデットの心は最早生き続けることを望まず、ジークフリートの前で湖の底に沈んでいく。妻を失った王子は孤独の中に取り残される。

第三幕が第一幕の反転であったように、ここでは第二幕の情景が反転される。白を貴重にした森は黒くなり、湖も黒、鳥達も黒い衣装になっている。
冒頭が象徴的な場面でオデットが第一幕で着ていたすその長いウェディングドレスを着ていて、ベッドのような台から降りて、追いついてきた王子がドレスを脱がすと黒い鳥の衣装が現れるという演出になっていて印象的だった。

二幕同様、湖に載ってあらわれた黒鳥たちの踊りは二幕の白鳥より激しくて、不安な要素が強い。
そこに王子が追いすがってオデットと踊る。二幕とは対照的に現実の踊りだから、より二人が結びつくような動きが多くて、美しい分哀しくなってくる。で、踊りが終わり、二人がおしどりのように寄り添って寝そべっていると、駆けつけた男爵夫人が狂乱するのだが、王子は冷淡に拒絶する。眼が覚めたから追い払いたいのだろうけれど、王子容赦なし。男爵夫人の哀れ限りなし。余りの足蹴っぷりに絶えられなくなったのか(違)、オデットがひらりと駆け去ってしまう。

波立つような音楽がオデットの心象風景をあらわすような演出と言うか、とにかく彼女があらゆる面で王子との未来にも絶望してしまったのかな~と取れますね。一緒に見に行った友人は「男爵夫人と王子の間抜けな愁嘆場を見て、王子に失望したのでは?」と示唆してくれまして、同感に一票。それにこの王子はまた過ちを繰り返しそうだし、こんなに辛い思いをし続けるくらいなら生きたくないと思ったのかもしれない。あるいは「死んで一生忘れられなくしてやる~」とか・・・ちょっと怨念系になってしまうが

そうして再び王子がオデットを見つけたのは彼女が湖に立ち尽くしたとき。彼女は微笑を浮かべて、古典のマイムを交えつつ、手を振るようにして黒い水(布ですが)と共に湖に沈んでいく。同時に照明が切り替わり、ぽっかりと白い湖と王子のみが取り残される。王子はむせび泣き立ち尽くす。
幕。


ざま~みろ~♪。
・・・大変失礼しました
まあ、冗談はさておき、英国王室がどうこうを真面目に論ぜずとも非常に面白い作品でした。第二幕で眠くならなかったなんてマシュー・ボーン版以来です!!
喪失の物語でもあり、どこかで間違ってしまった人間関係を描いてもおり、大変美しく眼の保養になりました。
一度しか見られなかったですが、またいつか見てみたいものです

オーストラリア・バレエ団「白鳥の湖」-前編-

2007-07-22 14:14:54 | バレエ観劇
オーストラリア・バレエ団日本公演
「白鳥の湖」

7月13日ソワレ
振付:グレアム・マーフィー
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
構成:グレアム・マーフィー
ジャネット・ヴァーノン
クリスティアン・フレドリクソン
装置・衣装:クリステイアン・フレドリクソン
     M.C.エッシャー作「波形表面」
照明:ダミアン・クーパー
製作:フランシス・クローズ

Cast
オデット:カースティ・マーティン
ジークフリート王子:ダミアン・ウェルチ
ロットバルト男爵夫人:ルシンダ・ダン
女王:ジェーン・キャロル
女王の夫:ロバート・オルプ
第一王女:ゲイリーン・カンマーフィールド
第一王女の夫:藤野暢央
公爵:アダム・スーロウ
公爵の若い婚約者:カミラ・ヴァーゴティス
伯爵:ティモシー・ハーパー
伯爵の侍従:マシュー・ドネリー
提督:コリン・ピアズレー
侯爵:マーク・ケイ
男爵夫人の夫:フランク・レオ
宮廷医:ベン・デイヴィス

招待客、ハンガリー人、召使、乳母、従者、小さな白鳥、大きな白鳥、黒鳥:オーストラリア・バレエ団

指揮:ニコレット・フレイヨン
演奏:東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団
協力:東京バレエ学校

上野:東京文化会館


オーストラリア・バレエ団の「白鳥の湖」は数年前から向こうのバレエ雑誌で取り上げられていて、何でも英国王室の「あの」三角関係をヒントにした現代的な作品とやらで、興味津々で見てまいりました。
「白鳥の湖」と言えば、バレエを知らない人でも知っている名作ですが、実際に見てみると、長いわ暗いわで初心者が鑑賞し難い作品です。少なくとも以前ビデオでロシア版(多分、グリゴローヴィチ版とか何とか)を見ていたら、母と妹に見事に爆睡されました。もっともうちのおかんは、ドラマチックかつシンプルな演出で定評のあるマシュー・ボーン版でも寝てしまったヒトなので、一般的尺度に置き換えるのはどうかと思いますが

そんなわけで期待半分、不安半分で見たのですが、これが非常に面白い作品で、ダイアナとチャールズがモデルだとかそういった枠を超えて、人間関係の哀しさとか愚かしさにも触れた物語になっていました。

何よりもオーストラリア・バレエ団は色白の美男美女が多いです。さすがカイリー・ミノーグとニコール・キッドマンを輩出した国

第一幕
とある国。湖のほとりで、ジークフリード王子と婚約者オデットとの結婚式が執り行われている。臨席するのは女王とその夫、ジークフリードの兄弟と賓客、そしてロットバルト男爵夫妻。華やかな宴は、しかし次第に暗い現実を露呈していく。
王子はロットバルト男爵夫人と愛人関係にあり、しかもそれはまだ続いている。結婚前から王子の愛情に不安を覚えていたオデットは取り乱し、場を混乱に陥れた挙句、サナトリウムに送られてしまう。良心の呵責に悩む王子だが、男爵夫人の魅力に逆らえず、愛人の手に落ちる。



幕開けからしてとても印象的だ。前奏曲が始まる前に幕が開き、不安定な様子のオデットが現れ、ついで王子と男爵夫人の情事(としか表現できない濃密な踊り)で主役3人の関係が描かれる。この時点で愛人のほうが主導権を持っていて、素直だけど鈍そうな王子が翻弄されている感じがよく出ていた。

オデット役のカースティ・マーティンは折れそうな華奢な女性で男爵夫人のルシンダ・ダンは肉感的で強そうな感じの美人、踊りもメリハリのある濃い踊りの男爵夫人とどこかヒラヒラと不安定そうなオデットと対比が効いている。あー怖い。

披露宴の場面は人間関係がとても面白い。あらゆる所で小芝居があって眼が忙しかった。とっても英国王室なのが威厳あふれる女王様とその夫(あれは王様じゃないね、公爵になってるはずだ!)、つんとした第一王女とその夫(夫役は日本人の藤野暢央。かっこようございました)。軽そうな公爵とあけっぴろげで無作法なその婚約者。この婚約者がまんまセーラ妃みたいで大爆笑。よく言えば天真爛漫、悪く言えば無神経なタイプね。以降、心中で彼女をファーギーちゃん※1と呼ぶことに決めた。このファーギーちゃんはオデットとも比較的仲良さげな描写があるのがおかしい。でもオデットの様子がおかしくなっていくのに気づかない所が、余計に「ありそう」で凄い。あと王室兄弟の末っ子らしい伯爵は侍従(男)と妙に仲がよく、男女ペアで踊るときでも男二人で踊っている。もしや・・・いや、多分「そっち」ですね。

と、散々英国王室パロディ風味を王室メンバーで見せつつも、世界の様子は1930年代的な少しレトロがかった衣装で統一されている。この衣装も凝っていて、オデットと男爵夫人の白いドレスの中には黒いペチコートが入っていて、それぞれ不安定に陥っていく心情と暗い計略が込められているようで、見ていて感心してしまった。

王子にしてもチャールズほどアホではなく(失礼)、罪悪感と未練に苛まれていて、ソロで踊るシーンにそれが現れる。王子役のダミアン・ウェルチはアダム・クーパーを髣髴とさせるいい男で背が高く、軍服がよく似合う。
で、悩んだ挙句、結局慣れ親しんだ相手の手を取ってしまい(をい)、オデットは混乱する。他の男性にキスしてみせたり、踊ったりした挙句、湖に飛び込もうとする。これが後々の伏線にもなるわけだ。
彼女が真に狂乱してしまうシーンは通常では第三幕で使われる「黒鳥(悪役)の踊り」の音楽が使われていて、有名な32回転を彷彿とする動きがあったりと、古典版をないがしろにせず、上手く取り入れている。

本当にこの幕ではオデットの孤独がよく現れていた。ダイアナ妃みたいというのもあるけれど、それ以上に彼女は全く1人で落ちていく感じでもしや異国から不利な条件で嫁がされたのでは?というファンタジーな設定も思い浮かんだりと、色々想像させてくれる。

で、サナトリウムから派遣された医者と看護婦によってオデットは連れ去られ、王室メンバーも退場して苦悩する(今更だよ)王子に男爵夫人は擦り寄って、この幕は愛人の完全な勝利で終わる。
なんだか情報量もりだくさんで、こんなに面白い第一幕はボーン版以来じゃないだろうか。
因みに物語性が強いのでチャイコフスキー作品の最大欠点だと個人的に思っていた「踊りごとのお辞儀」が無かったのが個人的に嬉しかったのも付記しておこう。緩急つけた踊りが絶え間なく続く感じなので、拍手できないんです。よきかな



※1ファーギー・・・セーラ妃の旧姓はファーガソンだったことから英タブロイドが彼女に付けたあだ名。ヒップホップシンガー、ファーギーが自分のソロアルバムに「The Duchess」と名づけたのはここに引っ掛けたもの




第二幕
サナトリウム
広い窓のある病室でオデットは苦悩している。ジークフリートがお見舞いにやってくるが、彼女は彼を拒絶する。なすすべの無い王子は迎えに来た男爵夫人に手を取られ去っていく。一人残されたオデットは自分の夢の中に逃げ込む。そこは白鳥が集う凍りついた湖。白鳥たちと踊ることで彼女の心は慰められる。そこではジークフリートも彼女と向き合ってくれるが、飛び交う白鳥達に邪魔をされ寄り添い続けることができない。白い尼僧姿の看護婦達が行きかう中でオデットは病室で震え続けている・・・。


く、暗い。粗筋がどうしようもなく暗い。でもこうとしか描きようが無いほどさびしく、しかも美しい幕だった。

まず幕が開くと、中央に大きな窓のついた病室があり、窓枠に腰掛けたオデットが震えている。連れ立ってやってきた看護婦によって上手に設置された浴槽に入れられ、白いチュニックを着せられて、彼女がどうしようもなく傷ついているのが分かる。だから夫に対しても拒絶することしかできない。悪循環だ。でよせばよいのに男爵夫人がお迎えにやってくるのが窓の外に見える。二人が去った後に尼僧達が窓の外を行き過ぎ、やがて病院の壁が割れて白い円形の湖とそこにうずくまる白鳥達が現れる。この演出が素敵だ。つまり白鳥は尼僧達が投影されているのだ。衣装もクラシックチュチュでなく、薄いチュールを重ねたスカートになっている。ちなみに湖はエッシャー(よく美術の教科書に出ている人ね)の作品をモチーフにした波形が浮き出ていて、少し斜めに置かれている。白鳥達の群舞の後、白鳥の格好になったオデットはこの湖の後ろから出てくるのだが、真ん中に円形の穴が開、中から照明で照らされるようになっていて、そこにオデットがたつと、彼女がほんの少し安らいだのかな?と思わせるようで効果的だった。

「4羽の白鳥」、「二羽の白鳥」と伝統版の踊りは踏襲しつつ、動きをずらしたり、腕の動きを変えたりしていて、この白鳥たちが従来の魔法で変えられた乙女なのではなく、幻影に過ぎないんだと言う感じがよく出ていた。

で、当然王子も出てくるが、冒頭の面会シーンでは黒いスーツ姿だったのが、白いシャツと黒いズボンになっていてこの王子はオデットの幻想に過ぎないのだろうな~と思わせる。動きも第一幕で見た王子の動きとは異なる感じで、これは夢の中なんだよ~と暗に示しているみたいだった。
でもこの夢も完全でなく、いやむしろ夢だからこそ、時間が経つにつれていやな現実が投影されていく。(「♪知ってる~ゆめ~見ていること~♪」ってこれは「On My Own」※2じゃないか!でも大変似ている状況だったので、どーも連想してしまうのです。)
白鳥達が次第にオデットとジークフリートの仲を裂くように割り込んできて、極め着けに黒衣の男爵夫人が舞台を横切っていく。直接的に介入しないものの、これを契機に夢が終わり、再び病院の壁が現れて、オデットが窓辺で震えている。

数ある「白鳥の湖」第二幕の中でも、これほど美しく冷たい幕を私は知らない。


続きます

※2「On My Own」・・・ミュージカル「レ・ミゼラブル」劇中歌。愛するマリウスからコゼットに手紙を渡して欲しいと頼まれたエポニーヌが夜の街をさまよいながら歌うナンバー。どうしようもない程の片思いの中でも、二人で一緒にいる夢をみると自嘲的に歌うエポニーヌの姿は何度見ても泣けてくる。誰も悪いやつがいないからこそ切なさ倍増になる名曲です