落下する夕方
江国香織
8年も一緒に暮らした恋人に好きな女性ができ、 恋人は部屋から出ていった。
恋人がいなくなり一人になった梨果の日常はそれでも淡々と流れていく。
そんな彼女の生活をひっくり返したのは、その恋人の好きな女性「華子」である。
「華子」は、共同生活をしないかと提案し、特に悪ぶったふうもなく、
空気のように入り込んで来て 梨果はそれを受け入れる。
女二人の共同生活である。
そこへ元恋人が出入りするという奇妙な三角関係・・・
こう書くと、まるで不道徳で不埒で、 節制のない男女のどろどろした不健康な人間模様の 小説のように感じるかもしれないが、
それを全く感じさせないほどさらっとしていて、
透き通るような文章が不思議だ
。
梨果が「華子」を受け入れた理由は、元恋人への執着と、全ての事に無頓着で なににも執着しない、生活の匂いすら感じさせない、 存在すらしないような空気のような
「華子」の不思議な魅力に、とりつかれたからだろう。
この「華子」の不思議な魅力は多くの男たちを魅了し、彼女の回りにはいくつもの男の影がちらついている。
でも、悪ぶったふうもなく、さして幸せという感じも見られない。
私のの回りに、こんな女はいない。
でも私ははこれに近い事をした男を身近で見てきた。
新婚の若くて奇麗な人妻は、 自分が働いていた喫茶店の客だった30代後半既婚のこの男に一目ぼれをした。
二人は恋に落ち、7年という年月にわたり恋仲であったが、 この人妻の家に出入りをし、人妻とその夫、男の3人は奇妙な共同生活をしていた。
当事のわたしは(かれこれ、12~13年前)、
この男たちと女の感覚を疑い、 理解に苦しみ、吐き気が催すほどの嫌悪感を覚えたのだが、
あれから随分年月が経った今、 なんだかそんな奇妙な三角関係も、あの男なら有り得たかな・・・
3人にとっては自然な事だったのかもしれないと。
どっちにしても、私の感覚では 到底考えられないことではあるのだが。
江国香織の本を読むのは初めてである。
彼女の透明感のあるさらっとした文章と、
彼女の作り出す不思議な空気に自然に入り込んでいた、そんな感じだ。
読後感は、妙にすっきりしていたのが不思議。
癖になりそうな作家である。