背表紙の配色パターンから、これが物理・数学書の本棚だとわかる人はマニアだ
2012年の暮れに書いた「超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍」は、今でも僕のブログでアクセス数を維持している記事のひとつだ。読者はこのような「まとめ系」の記事を望んでいるのだなと(ブログ内の)人気記事ランキングを見るたびに思う。
でも「超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍」では、物理や数学の世界をじっくりゆっくりと味わい、モチベーションを維持するためのワクワク感を大切にする方針で本を選んでいる。
本の一覧を見て「これでは時間がかかり過ぎる。もっと効率的にできないいの?」、「人生は短いから、そんな悠長なことは言ってられないよね。」と思っている方がいるのも事実。今回はそのような読者のために駆け足で学べる最短ルートを紹介することにした。
この観点で本を選ぶといきおい中身は濃くなってしまう。登山に例えれば急な上り坂の連続だ。物理学専攻のみなさんにはお馴染みの名著ばかり。とね日記流の理論ミニマムというわけだ。
この厳しい山道、絶壁を登っていけるのはごく一部の優秀な人に限られる。高校時代の物理、数学のテストはいつも満点、有名国公立大学の理工系学部にトップクラスで入学するような学生のレベルだ。(残念ながら僕はそのレベルの学生ではなかったし、今でもこの要件を満たせているか自信がない。)
本を選ぶにあたっては、日本語の本であること、手に入りやすい本(つまりなるべく絶版になっていないこと)の2点を心がけた。だから「ランダウ=リフシッツ理論物理学教程」は最初の2巻だけである。
1) 物理学書籍
古典力学(解析力学)
1:「力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程」
オプション:ランダウ=リフシッツ理論物理学教程が難し過ぎる方は、次の2冊で代用しよう。
「古典力学〈上〉ゴールドスタイン」
「古典力学〈下〉ゴールドスタイン」
特殊相対論、電磁気学、一般相対論
2:「場の古典論―電気力学,特殊および一般相対性理論 (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程)」
オプション:ランダウ=リフシッツ理論物理学教程が難し過ぎる方は、次の3冊で代用しよう。
「理論電磁気学:砂川重信」
「第2版 シュッツ相対論入門I 特殊相対論」
「第2版 シュッツ相対論入門II 一般相対論」
熱力学・統計力学
3:「大学演習 熱学・統計力学:久保亮五」
オプション:久保先生の本が重すぎるという方は、田崎先生の3冊で学ぶという手段もある。
「熱力学―現代的な視点から(田崎 晴明著)」(紹介記事)
「統計力学〈1〉(田崎 晴明著)」(紹介記事)
「統計力学〈2〉(田崎 晴明著)」(紹介記事)
量子力学:入門レベルと中級レベルの教科書をお読みになるとよい。
4:「量子力学(I):小出昭一郎」(紹介記事)
5:「量子力学(II):小出昭一郎」(紹介記事)
6:「現代の量子力学(上) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」(紹介記事)
7:「現代の量子力学(下) 第2版:J.J. サクライ, J. ナポリターノ」(紹介記事)
場の量子論(相対論的量子力学、経路積分、くりこみ理論、量子電磁力学、素粒子の標準理論、対称性の自発的破れ):できれば英語版をお読みになったほうがよい。
8:「ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場」(紹介記事)
9:「ワインバーグ場の量子論(2巻):量子場の理論形式」(紹介記事)
10:「ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論」(紹介記事)
11:「ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相」(紹介記事)
オプション:ワインバーグ博士の本が重すぎる方には、次のような選択肢もある。
「場の量子論〈第1巻〉量子電磁力学:F.マンドル、G.ショー」(紹介記事)
「場の量子論〈第2巻〉素粒子の相互作用:F.マンドル、G.ショー」(紹介記事)
「ゲージ場の量子論〈1〉:九後汰一郎」
「ゲージ場の量子論〈2〉:九後汰一郎」
超対称性理論:できれば英語版をお読みになったほうがよい。
12:「ワインバーグ場の量子論(5巻)超対称性:構成と超対称標準模型」
13:「ワインバーグ場の量子論(6巻)超対称性:非摂動論的効果と拡張」
超弦理論:
14:「超弦理論・ブレイン・M理論」
15:「ストリング理論 第1巻:ジョセフ・ポルチンスキー」
16:「ストリング理論 第2巻:ジョセフ・ポルチンスキー」
2) 数学書籍
関数解析までの数学は「スミルノフ高等数学教程」で学ぶ。物理学を学ぶための数学書という意味ではこのシリーズがよいだろう。全12巻セットを最近買ったので、近いうちに紹介記事を書くつもりだ。(目次情報)
函数関係と極限の理論 導函数の概念とその応用 積分の概念とその応用
17:「スミルノフ高等数学教程 1―I巻[第一分冊]―」
級数およびその近似計算への応用 多変数の函数 複素数 高等代数学の初歩と函数の積分
18:「スミルノフ高等数学教程 2―I巻[第二分冊]―」
常微分方程式 線型微分方程式と微分方程式論補遺 重積分と線積分、広義の積分とパラメーターを含む積分
19:「スミルノフ高等数学教程 3―II巻[第一分冊]―」
ベクトル解析と場の理論 微分幾何学の基礎 フーリエ級数 数理物理学の偏微分方程式
20:「スミルノフ高等数学教程 4―II巻[第二分冊]―」
行列式と方程式系の解法 線型変換と二次形式 群論の基礎と群の線型表現 (付録)行列の標準形への簡約
21:「スミルノフ高等数学教程 5―III巻一部―」
函数論の基礎 等角写像と二次元の場 留数の理論の応用 整函数と有理型函数
22:「スミルノフ高等数学教程 6―III巻二部[第一分冊]―」
多変数の函数と行列の函数 線型微分方程式 数理物理学における特殊函数
23:「スミルノフ高等数学教程 7―III巻二部[第二分冊]―」
積分方程式 変分法
24:「スミルノフ高等数学教程 8―IV巻[第一分冊]―」
偏微分方程式の一般的理論
25:「スミルノフ高等数学教程 9―IV巻[第二分冊]―」
境界値問題
26:「スミルノフ高等数学教程 10―IV巻[第三分冊]―」
スティルチェス積分 集合函数とルベーグ積分 集合函数 絶対連続性 一般の積分の概念
27:「スミルノフ高等数学教程 11―V巻[第一分冊]―」
距離空間とノルム空間 ヒルベルト空間
28:「スミルノフ高等数学教程 12―V巻[第二分冊]―」
スミルノフ高等数学教程でカバーできていない分野は以下のような本で学ぶ。
多様体:
29:「多様体入門: 松島与三著」
リー群論:
30:「連続群論入門 (新数学シリーズ18):山内恭彦、杉浦光夫」(紹介記事)
群の表現論:
31:「群と表現:吉川圭二」(紹介記事)
32:「物理学におけるリー代数―アイソスピンから統一理論へ:ジョージァイ」
トポロジー、微分幾何、複素幾何:
33:「幾何学II ホモロジー入門:坪井俊」
34:「幾何学III 微分形式:坪井俊」(紹介記事)
35:「接続の微分幾何とゲージ理論:小林昭七」
36:「ゲージ理論とトポロジー:深谷賢治」(シュプリンガー版)
37:「理論物理学のための幾何学とトポロジー〈1〉:中原幹夫」(紹介記事)(原書第2版)
38:「理論物理学のための幾何学とトポロジー〈2〉:中原幹夫」(紹介記事)
39:「共形場理論:江口徹,菅原祐二」
40:「複素幾何:小林昭七」
関連記事:
超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d37fe65a84df23cca2af7ecebb83cfc6
高校生にお勧めする30冊の物理学、数学書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/f79ac08392742c60193081800ea718e7
大学で学ぶ数学とは(概要編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/07137c47d16d95ddde8f5c4cb6f37d55 target="_blank"
大学で学ぶ数学とは(実用数学編)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/975ad3faa2f6fd558b48c76513466945
200冊の理数系書籍を読んで得られたこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b92c958e54960246be16b564c6b8c8e
応援クリックをお願いします!
そうなのですか。それはよいチャレンジだと思います。頑張ってくださいね。
僕は会社員ですから、放送大学の正式に勉強できるほど時間がとれないのでうらやましいです。
ご指摘ありがとうございます。僕は「シュッツ=相対論」のように早とちりしていました。いただいたコメントの文脈から判断すると、シュッツ様のご指摘のとおり「物理学における幾何学的方法 (物理学叢書)」をご紹介いただいたのだと思います。この本はリー群の微分幾何学的側面(接続)」について解説した本のようですね。
物理学における幾何学的方法 (物理学叢書)
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22/detail/4842702168
コメントありがとうございます。
中原先生の本の絶版状態は本当に残念ですよね。
あとシュッツの相対論2冊もとてもよい本だと思います。
今回はミニマムということでなるべく冊数を少なくしようとしたために相対性理論は「場の古典論」に含まれていることもあり、独立した本としてリストには加えていませんでした。
九後先生訳のリー代数の本のこと忘れていました。「物理学におけるリー代数―アイソスピンから統一理論へ」のことですよね。こちらの本のほうがよいと思いますので32番の「リー群と表現論:小林俊行、大島利雄」と差し替えさせていただきました。思い出させていただき、ありがとうございました。
久後先生の名前は「九後先生」が正しいものでした。
中原先生の本は絶版になってしまっているはずです。大変お世話になった本ですが、残念ながら。。。
似た本としては同書の英語版で洋書のも
のもあります(今回の記事の趣旨には沿いませんね)し、シュッツの本もありますよ。
また、群論の本としては久後先生訳のジョージャイの本もオススメです。ただ群も定義が雑なので 、とねさんの挙げておられる本も並行して読み進める必要もありますね。
以上よろしくお願いします。