とね日記

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ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論

2012年08月25日 15時45分39秒 | 物理学、数学
ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論

相変わらず暑い日が続いているが、こつこつと読み進めている。本業の仕事が多忙を極めているので勉強は週末に集中しているのだが、第3巻もなんとか読み終えることができた。第3巻で扱われる内容は物理学史では1950年代から1980年代に研究されたものだ。

本のカバーには次のように紹介されている。

第2巻までの理論的基礎の上に立って、現代の素粒子論における標準理論の基礎をなす非可換ゲージ理論が導入され、また場の理論の現代的手法である有効場の理論、くりこみ群、大域的対称性の自発的破れの一般論が展開される。同時に、標準理論のうち強い相互作用を記述する量子色力学のくりこみ可能性とこの理論の大きな特徴であるカイラル対称性の自発的破れが、それらの一般論と有機的に結びつきながら具体的に解析される。」

このように紹介されているが、第3巻は第2巻を理解していなくても読める内容だと僕は思った。

第3巻は以下のような章構成で、本文は(日本語版で)330ページほどだ。第2巻よりも読みやすく第15章から第19章の最初の3分の1のあたり、ページ数でいうと258ページのゴールドストンボゾンのあたりまでは理解度7割をキープしながら読むことができた。その後に続く有効場の理論以降が(僕にとっては)ぐっと難しくなり理解度は2~3割に落ちてしまった。第18章もところどころ難しい箇所があった。

第15章:非可換ゲージ理論
第16章:外場の方法
第17章:ゲージ理論のくりこみ
第18章:くりこみ群の方法
第19章:大域的対称性の自発的破れ

第15章では、まず電磁理論のゲージ不変性を非可換群に一般化したゲージ理論を導入する。この章で一般化したゲージ理論のラグランジアンと単純リー群との対応関係、ゲージ理論における保存則、ゴースト場の必然性、BRST対称性などを学び第16章の「外場の方法」へと導かれる。BRST対称性(BRS対称性ともよばれる)、BRST不変性は「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」では解説されていなかった。幸い「場の量子論 (裳華房):坂井典佑」に解説があったのでこの入門書で概要を復習した。

局所対称性とゲージ理論、BRS対称性(PDF)
http://hep1.c.u-tokyo.ac.jp/~kato/gauge.pdf

またゲージ理論でもゴースト場が必要になる。もともとフェルミオンの反可換性から導入されたグラスマン数(外積代数)はゲージ理論におけるラグランジアンの計算にも必要になる。さらに反ゴースト場というのも必要になる。もちろんこのような「幽霊場」や「反幽霊場」は実験で物理的に観測されるような対象ではない。

第15章ではさらに量子有効作用、ホモトピー理論、バタリン・ビルコビスキー形式を学ぶ。バタリン・ビルコビスキー形式はゲージ理論のくりこみを取り扱うために導入され、この形式が重要である理由は次の3つである。

1) 開いた、または既約でないゲージ対称性代数を含んだ非常に一般的なゲージ理論を扱える。
2) 外場のもとでは全ての1粒子既約なダイヤグラムの和は元の作用のBRST対称性に従わないが、マスター方程式として知られる作用の鍵となる性質を持っている。
3) 作用の対称性が量子効果で破れる可能性があるときに、それを解析する便利な方法となっている。


第16章で解説された外場の方法を使い、第17章ではゲージ理論でのくりこみが解説される。最も単純な非可換ゲージ理論は、ラグランジアン密度の演算子が全て(質量の冪で)4以下の次元だという意味でくりこみ可能である。しかしくりこみ可能性のためにはこれ以上のことを示す必要がある。ラグランジアン密度はゲージ不変性とその他の対称性によって制約を受ける。理論がくりこみ可能であるためには、量子論的有効作用にあらわれる無限大が場のくりこみを受ける以外には、同じ制約を満たす必要がある。

次に一般のゲージ理論(一般相対論、重力を含む理論)での繰り込み可能性の解析が行われる。(重力以外の)強・弱・電磁相互作用を記述するのに成功しているくりこみ可能な場の理論は「有効場の理論」であり次元dの数は5以上であることはほぼ確実である。重力も有効場の理論で記述され、そこではラグランジアン密度はアインシュタイン・ヒルベルト項だけでなく、重力場の4回以上の微分から作られる全てのスカラー項を含む。重力場を含むこの種のゲージ理論は、次数勘定の意味ではくりこみ可能ではないが、それにもかかわらず紫外発散がゲージ対称性で支配されていて、その結果あらゆる発散を打ち消すために使える相殺項が存在するようになっているという現代的な意味でくりこみ可能であることを示す必要があるのだ。


第18章では「くりこみ群の方法」が解説される。これは量子電磁理論において非常に高いエネルギーで摂動論が機能しないことに対処する方法として、ゲルマンとローによって導入された。くりこみ群についても「場の量子論:F. マンドル, G. ショー」では解説されていなかったので「場の量子論 (裳華房):坂井典佑」で知識を補った。

くりこみ群の方法は非常に高いエネルギーか(ゲージ理論のように質量がゼロの理論のように)非常に低いエネルギーで、結合定数が大きすぎて摂動論が使えない場合にも、理論がどのように振る舞うかについて定性的な指標を与える。「くりこみ群」という名前はもともと、くりこまれた結合定数の再定義のもとで理論が見かけ上どのように変化するかについて関心がもたれたことによる。群論とは何の関係もない。導入部分の「大きな対数はどこからくるか?」も含めて、この章は数理的な意味で興味深く読むことができた。章の最後のほうで「量子色力学」のSU(3)ゲージ対称性、強い相互作用を記述する非可換ゲージ理論が紹介されるが、初心者の僕にとっては難しかった。このあたりの記述は他の本で量子色力学を学んだ読者向けに書かれていると感じた。


第19章「大域的対称性の自発的破れ」は218ページから始まる。本書の最後の3分の1がこの章にあてられている。

今世紀の物理学の多くは、第一に1905年のアインシュタインの特殊相対論の時空対称性、次に1930年代の近似的なSU(2)アイソスピン対称性(強い相互作用に関連する量子数に関連する対称性)のような内部対称性という具合に、対称性原理の上に構築されてきた。したがって素粒子のスペクトルの検討から推察できる対称性を超える内部対称性が存在することが1960年代に発見されたときには興奮に包まれた。基礎になる理論の厳密または近似的な対称性の中で、理論の物理的状態の対称性変換としては実現していず、特に真空を不変に保たないという意味で「自発的に破れている」対称性が存在する。

その突破口は強い相互作用の破れた近似的な大域的SU(2)×SU(2)対称性の発見だった。その直後には電弱相互作用の厳密だが自発的に破れた局所的SU(2)×U(1)対称性が発見された。第19章では前者の大域的対称性の一般的議論から始めて、物理的な例が解説されている。

この章で特に面白いと思ったのは「ゴールドストン・ボゾン」とその存在証明の箇所だった。自発的に破れた連続的な対称性に限定すると、物理的粒子のスペクトルは破れた対称性毎に質量とスピンがゼロの粒子を1個ずつ含まねばならないという定理が存在する。そのような粒子はゴールドストン・ボゾン(あるいは南部・ゴールドストン・ボゾン)と呼ばれ、ゴールドストンと南部(敬称略)による特殊な模型で最初に登場した。その存在の一般的な証明はその後、ゴールドストン、サラム、ワインバーグ(本書の著者)によって二つ与えられた。この章ではこれら二つの証明が両方とも示されている。幸い僕にもこの証明は二つとも理解することができた。そしてパイ中間子がこのゴールドストン・ボゾンの一例になっていることが示される。

258ページからは「有効場の理論」が展開されるのだが、この部分はほとんど理解できなかった。重力場のゲージ理論を理解する上で必要なので、他の本で知識を補う必要があると感じた。次のような節が解説されている。

- 有効場の理論:パイ中間子と核子
- 有効場の理論:一般の破れた対称性
- 有効場の理論:SU(3)×SU(3)
- 有効場理論のアノマリー項

「一般の破れた対称性」や「SU(3)×SU(3)」のところで対称性の破れが対称空間に結びついているリー群の部分群になっていることや、右剰余類の空間になっている解説を読んだとき、リー群論の大切さをしみじみ感じた。

また「有効場理論のアノマリー項」ではウィッテンによる時空の5次元への拡張が紹介されている。これは4次元ラグランジアン密度の破れたSU(3)×SU(3)対称性に生じるアノマリー項(異常項)を記述するために導入されたものだ。よく理解できていないのだが、時空を4次元球面に見立てたり、5次元球体をとの対応を考えたり、トポロジー理論による説明がカッコいいと思った。こういう高度な幾何学的視点で物理法則を理解できるようになりたいものだ。


第3巻はこのような感じである。第4巻は電子回路についての本を読んでから取り組むことにした。


余談:第3巻を読んでいる期間に、シリアとルーマニアでお二人の日本人女性が無残な死を遂げられた。それぞれ全く違う立場、理由で殺害されたわけだが痛ましい極みである。ご遺族の方へ心からのお悔やみを申し上げます。


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関連記事:

大著に挑む (ワインバーグの「場の量子論」)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/95ac4b64aa4eaf70608088006813cbf5


購入される方は次のリンクからどうぞ。

英語版:
The Quantum Theory of Fields (3巻セット): Steven Weinberg」(Kindle版


日本語版:
ワインバーグ場の量子論(1巻):素粒子と量子場
ワインバーグ場の量子論(2巻):量子場の理論形式
ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論
ワインバーグ場の量子論(4巻):量子論の現代的諸相
ワインバーグ場の量子論(5巻):超対称性:構成と超対称標準模型
ワインバーグ場の量子論(6巻):超対称性:非摂動論的効果と拡張


今日の記事で紹介したのは第3巻。

ワインバーグ場の量子論(3巻):非可換ゲージ理論


第3巻:非可換ゲージ理論

第15章:非可換ゲージ理論
- ゲージ不変性
- ゲージ理論のラグランジアンと単純リー群
- 場の方程式と保存則
- 量子化
- ド・ウィット・ファデーフ・ポポフ法
- ゴースト
- BRST対称性
- BRST対称性の一般化
- バタリン・ビルコビスキー形式
補遺A:リー代数に関する1定理
補遺B:カルタン・カタログ

第16章:外場の方法
- 量子的有効作用
- 有効ポテンシャルの計算
- エネルギー解釈
- 有効作用の対称性

第17章:ゲージ理論のくりこみ
- ジン・ジュスタン方程式
- くりこみ:直接的解析
- くりこみ:一般のゲージ理論
- 背景場ゲージ
- 背景場ゲージでの1ループ計算

第18章:くりこみ群の方法
- 大きな対数はどこから来るか?
- 変化するスケール
- 各種の漸近的振舞い
- 複数の結合定数と質量の影響
- 臨界現象
- 最小引算
- 量子色力学
- 改善された摂動論

第19章:大域的対称性の自発的破れ
- 縮退した真空
- ゴールドストン・ボゾン
- 自発的に破れた近似的対称性
- ゴールドストン:ボゾンとしてのパイ中間子
- 有効場の理論:パイ中間子と核子
- 有効場の理論:一般の破れた対称性
- 有効場の理論:SU(3)×SU(3)
- 有効場理論のアノマリー項
- 破れていない対称性
- U(1)問題

訳者あとがき
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2 コメント

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ヒッグス機構 (hirota)
2012-08-26 13:16:00
局所対称性とゲージ理論、BRS対称性(PDF)
のリンクを読んだらヒッグス機構の知らなかった解釈が載ってて勉強になりました。
局所対称性のしわよせを吸収するゲージ場も対称性破れのゴールドストンボゾンも長波長極限では大域対称性でエネルギー差0になって質量0粒子だけど、両方あると長波長化の論理が通用せず質量0でなくなってしまうのは面白い。

第15章では…の2行目にある「単純リーグン」は何かと思ったら「単純リー群」ですね。
返信する
Re: ヒッグス機構 (とね)
2012-08-26 14:47:08
hirotaさん

コメントありがとうございます。このPDFファイルはとても参考になると思ったので紹介してみました。

漢字変換ミスのご指摘ありがとうございます。修正しておきました。
返信する

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