とね日記

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統計力学〈2〉(田崎 晴明著)

2009年11月20日 00時15分26秒 | 物理学、数学

統計力学〈2〉(田崎 晴明著)」を読み終えた。第1巻の最後の2章は難しかったが、この巻では再び基礎的な内容に戻ったので全体を通して落ち着いて学べた。章立ては通し番号になっているので第8章からはじまる。

ページ数の制限から第1巻にはおさまらなかったグランドカノニカル分布の基礎と応用からはじまり、3つの確率モデル(ミクロカノニカル分布、カノニカル分布、グランドカノニカル分布)が等価であることを示す。

中ほどから「量子理想気体の統計力学」がはじまる。実をいうとこの章がいちばん印象的だった。量子力学を学んでいない読者への配慮から、まず多粒子系の量子力学の性質を量子力学の基礎から簡潔に解説してくれているのだ。この箇所が実にわかりやすく、おもしろく読めた。いきなりボソンとフェルミオンの統計力学的での扱いの違いを結果だけをとおして導入するのだと初学者は腑に落ちないところもでてくるだろうが、ここまで親切に導いてもらえれば十分理解できるだろう。

最後の章では応用として「相転移と臨界現象」を扱う。まずこれらの現象がどういうものかを説明した後で、それを統計力学的にために「イジング模型」を紹介する。これは実際には存在しない理想的なモデルなのだが、「平均場近似」という手法を使うことにより、結果的には実際の現象と整合する結果が導かれる。

イジング模型で1次元のモデルだけが相転移を示さないというのも興味深い。2次元以上でこのモデルが実際の現象をあらわす結果を導く。その理由が図を交えてわかりやすく説明されるので、この部分は一度読めば忘れることはないだろう。

第1巻、第2巻を通じて現在までにわかっていることと、まだ解明されていないことについてきちんと区別して示してくれているのが初心者としてはありがたかった。特に「臨界現象の普遍性」つまり臨界指数(α=0.1103(6), β=0.3264(4)、γ=1.2371(1))の値は臨界現象の種類の違い関係なく、同じ値をとるという不思議。そしてその理由については現在もなお理論的な研究が行われているそうだ。

入門的な意味でこれまで熱力学、統計力学という順序で学んで思ったのだが、これらの分野はページ数の割にその元となるアイデア(考え方)や計算手法の数は案外少ないのだなという印象を持った。もちろん意味合いは深いので厳密に極めようとすれば骨が折れるのがよくわかった。けれども基本となるパターンはそれほど多くないので、それさえおさえておけば挫折することなく進んでいけると思った。そして物理学の他の分野にくらべていろいろな順番で学ぶ自由度があるのもこれらの分野の特徴だ。また別の順序で学び直すのもよいかもしれない。

先日発売されたばかりの「ファインマン統計力学」を書店で立ち読みしたが、応用的なことが多く難しそうに見えた。僕はまだほんの入口を通過したに過ぎないことがよくわかった。先は長い。しばらく楽しめそうだ。


中途半端な感想文のような記事になったが、とりあえず明日から次の本に移ろう。


統計力学〈1〉(田崎 晴明著)


統計力学〈2〉(田崎 晴明著)


熱力学―現代的な視点から(田崎 晴明著)



関連サイト:

田崎先生のホームページ:本の詳細な解説や正誤表が読めます。
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/halJ.htm

関連記事:

熱力学―現代的な視点から(田崎 晴明著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/b4897aa001b274d176c3d676f691ced2

統計力学〈1〉(田崎 晴明著)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/617948cd72bf22f297e999a40f63743b


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「統計力学〈2〉(田崎 晴明著)」目次

第8章:グランドカノニカル分布
- グランドカノニカル分布の基礎
- グランドカノニカル分布の応用

第9章:熱力学的構造、確率モデルの等価性
- 熱力学の三つの形式
- ミクロカノニカル分布
- 三つの確率モデルの等価性
- 等価性のまとめと注意

第10章:量子理想気体の統計力学
- 多粒子系の量子力学
- 量子理想気体の統計力学の一般的な枠組み
- 理想フェルミ気体
- 理想ボース気体

第11章:相転移と臨界現象入門
- 相転移、臨界現象とは何か
- 強磁性イジング模型
- 一次元イジング模型
- イジング模型の平均場近似
- イジング模型における相転移と臨界現象

付録B:凸関数とルジャンドル変換
- 凸関数
- ルジャンドル変換

付録C:いくつかの厳密な結果の証明
- モデルの定義と基本的な性質
- マクロな系での基底エネルギーと状態数のふるまい
- 三つの確率モデルの等価性
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