とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

とね日記賞の発表!(2012年): 物理学賞、数学賞、他

2012年12月10日 00時00分01秒 | とね日記賞

毎年12月10日、スウェーデンのストックホルムでアルフレッド・ノーベルの命日に行われるノーベル賞の授賞式の日程にあわせて、「とね日記賞」というのを発表している。今年で3回目だ。

これはその年に僕が読んだ物理学書、数学書の中から自分のためになった本、この分野を勉強している学生や社会人にお勧めする本を物理学、数学、工学、啓発書に分けてそれぞれ1~2冊発表する。今年出版デビューされた科学ファンの方々のための新人賞や、あと贈り物にふさわしい本としてクリスマス賞というのも設けている。

註:昨年まで一般向け書籍に対しては「啓蒙書賞」を設けていたが、啓蒙という言葉に「上から教えてやる」というニュアンスが感じられるので今年から「啓発書賞」という名前に変更した。

たとえ名著と言われる本であっても僕が理解できなければ受賞できない。昨年以前に読んだ本は自動的に選考対象から外されるし、どんなに良書であっても僕が読んでいなければ対象外。今のところ洋書も対象外。何より僕の学習進度や理解度や好みに影響される。

メダルも賞金も授賞式も晩餐会も舞踏会もないので、ありがたくも何ともなく、主観に満ちたアンフェアな賞だが、それでよいのだ。

- とね日記物理学賞
 物理学の教科書、専門書から選考。

- とね日記数学賞
 数学の教科書、専門書から選考。

- とね日記工学賞
 電子工学など工学系の教科書、専門書から選考。

- とね日記啓発書賞
 物理、数学の分野の一般向け書籍から選考。

- とね日記新人賞
 書籍出版デビューを応援する賞。

- とね日記功労賞
 科学史に貢献するライフワークを完結されたような本から選考。

- とね日記文学賞
 ジャンルを問わない小説、文学書から選考。

- とね日記ドラマ賞
 テレビドラマの中からいちばんよかったものを選考。

- とね日記クリスマス賞
 クリスマスプレゼントにふさわしい本を選考。

今年は次のような本を読んだ。

- 新・物理入門(山本義隆)
- 昔の天文学の本(コペルニクス、ケプラー)
- 質量の起源、余剰次元に関するブルーバックスの本
- ファインマン先生の講演本、伝記
- 新版 量子論の基礎:清水明
- 前野昌弘先生の電磁気学、量子力学の教科書
- 超弦理論の初級中級本2冊、
- 大栗博司先生が出版された本2冊
- 相対論的量子論の教科書(JJサクライ)
- 場の量子論の教科書(マンドル、ワインバーグ)
- 数学ガール(ガロア理論)、現代集合論の一般向け本
- 量子テレポーテーション、量子情報科学など古澤明先生の本
- 量子コンピュータの本
- 電子回路、デジタル回路、情報理論、計算機科学の本
- 時間論(渡辺慧先生)
- 佐藤文隆先生の量子力学をテーマにした科学思想の本


それでは発表しよう。2012年の「とね日記賞」は次のとおりだ。(書籍名と画像はそれぞれ紹介記事などにリンクさせておいた。)


* 物理学賞

「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!:古澤明
量子もつれとは何か:古澤明
量子テレポーテーション:古澤明
  

量子光学と量子情報科学:古澤明
量子コンピュータ入門:宮野健次郎、古澤明
 

受賞理由:僕の目標のひとつが「量子テレポーテーションを理解すること」であり、今年それをかなえることができた。これら一連の本をぜひ皆様にも読んでほしいと思う。今年のノーベル物理学賞も量子光学の研究成果に対してであり、2人のアメリカ人物理学者に対して与えられた。

このうち「「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!:古澤明」についてはT_NAKAさんがシミュレーションを行い、すばらしい検証記事をお書きになっている。なるべく多くの方に読んでもらいたいので、このブログからも紹介させていただこう。

[「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!!] _ 分かりたい自分のために(1)
[「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!!] _ 分かりたい自分のために(2)
[「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!!] _ 分かりたい自分のために(3)
「シュレーディンガーの猫」関連でエルミート多項式を Excel で求める
[「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!!] p96 までのおさらい
[「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!!] _ 分かりたい自分のために(4)
[「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!!] _ 分かりたい自分のために(5)
[「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!!] _ 分かりたい自分のために(6)
[「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!!] _ 分かりたい自分のために(7)

そして、今年の物理学賞はもうひとつある。

よくわかる電磁気学:前野昌弘
よくわかる量子力学:前野昌弘
 

受賞理由:ご自身の講義経験を存分に生かして完成した新しい教科書で、電磁気学と量子力学の入門用としてはベストだと思う。著者の前野先生のホームページから本書の内容に関連するJavaアプレットによるシミュレーションも公開されているので視覚的に理解することもできる。ただし、量子力学のほうは多粒子系や場の量子化など、より専門的な項目がカバーされていないので、研究者を目指すのであれば他の教科書も読む必要がある。(たとえば入門者用としては小出昭一郎先生の教科書)電磁気学のほうも同様で、詳細は本の紹介記事をお読みいただきたい。


* 数学賞

数学ガール/ガロア理論:結城浩


受賞理由:結城浩さんの「数学ガール」シリーズの最新作。僕の好みが反映した選考だが、昨年に続いて今年も授賞させていただいた。一般人がガロア理論を理解するための本はいくつか出ているが、やはりこの本がいちばんだ。


* 工学賞

情報理論:甘利俊一


受賞理由:「通信の数学的理論:クロード・E. シャノン、ワレン・ ウィーバー」とどちらにしようか迷ったのだが、多くの方に読んでいただきたいので「わかりやすさ」、「読みやすさ」を重視させていただいた。素晴らしい本だと思う。採算を度外視して高度な理数系書籍を手ごろな価格で刊行し続けている「ちくま学芸文庫」の取り組みは賞賛に値する。


* 啓発書賞(物理学部門)

物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン


受賞理由:コーネル大学で行った一般人向けの講演とノーベル物理学賞受賞記念講演をまとめた本。後半は難しいが前半だけでも読む価値は大きい。物理学の楽しさ、奥深さを知ることができる。「ファインマン物理学」のエッセンスが詰まった一冊だ。


* 啓発書賞(数学部門)

新装版 集合とはなにか:竹内外史」はじめて学ぶ人のために


受賞理由:中学、高校で学ぶ「集合」とは比較にならないほど奥深く、現代数学の土台となるのが現代集合論だ。しかしこの本を読むとその体系の重要な部分が未完成なことに意外性を感じる方も多いだろう。そのような現代集合論の不思議な世界を一般の方でも知ることができる、この分野の第一人者による入門書だ。


* 新人賞

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る:大栗博司


受賞理由:大栗先生は超有名な物理学者なので「新人賞」という言葉に違和感を覚える方が多いと思う。けれども今年は先生にとって書籍出版デビューの年であり、お祝いの気持をお伝えするためと、今後もご活躍していただきたいという気持ちから新人賞を授賞させていただいた。なお本書は先生のブログ記事に書かれているように雑誌『文藝春秋』の12月号の「2012年ベストセラーの正体」と題した対談記事に取り上げられた。すばらしい「啓発書」なのでぜひお読みいただきたい。


* 功労賞

今年の功労賞は2つ授賞させていただいた。

宇宙の神秘 新装版:ヨハネス・ケプラー著、大槻真一郎+岸本良彦訳
宇宙の調和:ヨハネス・ケプラー著、岸本良彦訳
 

受賞理由:チコ・ブラーエの膨大な天体観測記録から惑星の運動の3法則を発見し、ヨハネス・ケプラーは科学史に名を刻むことになった。記念碑的な著作物である。これだけの大著をラテン語から日本語に翻訳した岸本先生、大槻先生の功績は大きい。1982年に刊行された「宇宙の神秘」の新装版とともに2009年に「宇宙の調和」が刊行された。

ケプラーは
「宇宙の神秘」(1596) で5つの正多面体による宇宙モデルを提唱した。
「新天文学」(1609)で第1・第2法則をうち立てた。
「宇宙の調和」(1619)で第3法則を打ち立てた。

そして2つめは

ラプラスの天体力学論 全5巻:ピエール=シモン・ラプラス著、竹内貞雄訳


受賞理由:1799年から1825年にかけてフランスで出版されたこの科学史上の名著は現在フラン語版、英語版ともに非常に入手が困難だ。このような名著かつ大著を日本語版として出版する意義はとても大きい。現在第3巻まで出版されていて、第4巻は今月末、第5巻は3月末に発売予定。翻訳されている竹内貞雄先生のご苦労は並大抵のものではないだろう。まだ全巻そろっていないが、応援の気持をこめて授賞させていただいた。

竹内先生、ご健康に留意されつつ全巻を出版されますことを心から願っています。


* 文学賞

たんぽぽのお酒:レイ・ブラッドベリ
さよなら僕の夏:レイ・ブラッドベリ
 

受賞理由:SF作家のレイ・ブラッドベリは今年の6月に91歳で逝去した。若い頃に読んでとても印象に残った「たんぽぽのお酒」とその続編を追悼の気持をこめて授賞させていただいた。ブラッドベリの逝去前に公表された映画化の計画が、その後どうなっているか気になるところだ。


* ドラマ賞

昨年は「日曜劇場「JIN-仁-」完結編」に授賞させていただいたが、今年はひとつに絞り込むのが難しかった。迷った挙句、次のようなドラマに授賞させていただいた。

PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!~」(フジ)
遅咲きのヒマワリ~ボクの人生、リニューアル~」(フジ)
結婚しない」(フジ)
シングルマザーズ」(NHK)

受賞理由:どれも現代の日本が抱える深刻な課題に正面から取り組む意欲作だ。リストラや非正規労働の問題、地方都市の商店街の衰退や高齢化、中小企業問題、30代をどう生きるか、婚姻率の低下、社会保障、夫婦間の暴力、シングルマザーが抱える問題など解決困難な課題がテーマなので、ドラマが暗いイメージにならないよう工夫し、自分のこととして考えるきっかけを与えてくれる作品、日本を良くしたいという願いが感じられる作品ばかりだ。日本再生のためのヒントはこれらのドラマの中に散りばめられていると思った。

コメディー系では次の2つがよかった。

主に泣いてます」(フジ)
勇者ヨシヒコと悪霊の鍵」(TV東京)

受賞理由:どちらも笑いのツボを押さえた素晴らしい作品だ。「主に泣いています」については美人モデルの菜々緒さんを毎回とんでもなく不恰好なコスプレで登場させる手法、東京スカイツリー周辺の景色をトイカメラ風に映す手法に新鮮さを感じた。両作品とも日本のドラマはまだまだいける!と期待させてくれた。


* クリスマス賞

おじさん図鑑:なかむら るみ


受賞理由:今年の3月にヒットしたイラスト本。こういうクリスマス・プレゼントもいいんじゃないかな?クリスマスや年末はこれを見て友達と楽しい時間を過ごそう。笑う門には福来たる。今月5日には続編の「「濃い」おじさん図鑑:なかむらるみ」も発売された。両方あわせてお買い求めください!ただし、ユーモアの通じない人に贈らないようご注意を!


最後になりましたが、本日ストックホルムでノーベル生理学・医学賞を受賞される山中先生に心からお祝い申し上げます。先生の受賞記念講演やご発言を聞いているとあたたかい気持がこみ上げてきます。人と人が憎しみ合う感情も溶かしてしまうようなお人柄なので、平和賞も同時に受賞していただきたいくらいです。


関連記事:

とね日記賞の発表!(2010年): 物理学賞、数学賞、他
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ddc344204dec2ebd35c47a8699eb1389

とね日記賞の発表!(2011年): 物理学賞、数学賞、他
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/27bc2b5eafa9334dae11d92e90c69b0d


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4 コメント

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Unknown (えーいち)
2012-12-12 00:54:25
いつも楽しく拝読させていただいています。今日はじめてコメントさせていただきます。

一番最初に挙げられていた山本先生の新・物理入門などは、高校生などに是非とも読んでほしいものです。やさしいとまでは言いませんが、僕のような門外漢でも頑張れば読める本が多く、とね日記賞は大変参考になりました。
後世に何かを伝えようとする熱意、筆者の躍動する好奇心に読者まで興奮してしまう、そんな本を選ばれたのかなと感じました。金のためにくだらない本を大量生産したあげく、そんな本で若者の貴重な時間を奪う一部の学者や教育者にも是非とも読んでいただきたいものです。

ケプラーの本は、自分へのクリスマスプレゼントにでも買おうかなと思います。ケプラーの法則といえば「受験にでない」という理由から学校教育では蔑ろにされているわけですが、僕は後々になって自分で勉強してみてとても感動した覚えがあります。とね日記賞に挙げられた本などが、理系を志す若者を良い方向に導いてくれるものと思います。
返信する
えーいち様へ (とね)
2012-12-12 01:22:34
はじめまして。コメントをいただき、ありがとうございます。
新・物理入門は私も素晴らしい本だと感銘を受けました。高校の授業や受験では、物理で微積分は使わないということが定められているのが残念でなりません。高校2年までの段階で数IIIを先取りして勉強しているような高校生、もしくは浪人生の方々にはぜひ読んでもらいたい本です。もちろん大学生が読むのもいいと思います。この本以外にも山本先生の著作物は素晴らしいので、ぜひ来年いくつか読んでみたいと思います。

ケプラーの本は「宇宙の神秘」だけ読みましたが、これは正多面体による宇宙モデルで、確かにこれは受験どころか学校教育には使えませんね。僕が関心をもっているのはこのような発想から、どのようなプロセスを経て第1から第3法則まで彼がたどり着いたのかについてです。残念ながら「新天文学」は未訳なので第1・2法則の部分の生まれた瞬間の様子は知りえませんが、「宇宙の調和」で第3法則を見つけた思考過程だけでもたどってみたいと思います。惑星の運動を幾何学や音楽に結びつける発想を間違いだと断じてしまうのは、既存の考え方にとらわれているだけかもしれません。現代物理学の最前線が複素幾何学や、波動力学と結びついていることを思うとき、ケプラーの発想と共通する何かがあるような気がします。
ケプラーの本をご自身のクリスマスプレゼントにするというのはとても「品があり、格調高い」ことだと思いました。
返信する
Unknown (えーいち)
2012-12-13 23:49:42
丁寧な返信に感謝です。「新・物理入門」という本、山本義隆先生には個人的に思い入れがあり長くなりますがお許しください。

新・物理入門は駿台文庫から出ている大学受験向けの参考書ですが、僕もとねさんと同じような思いです。僕はむかし駿台予備学校に通っていたのですが、時間とともに変化する物理量を時間で積分するという考え方をはじめて聞いたときの衝撃をいまだに忘れることができません。駿台の教材もこの本と同じような内容であり、予備校で物理に触れながら高校時代の物理教育を恨んだものです笑、なんでこういう風に教えてくれなかったのだと。
大学受験に最適か否かという点においては賛否両論あるようですが、高校生や浪人生、大学生にはこういう王道をゆくような本と一緒であってほしいと思っています。
新・物理入門の最後のところ(核融合と核分裂)で山本先生の原子力開発への思いが綴られています。僕自身は必ずしも原子力利用に反対という立場ではありませんが、筆者の伝えようとする熱意に圧倒されてしまいました。大げさに聞こえるかもしれませんが、「魂を込めて」書かれた本はこういう本なんだと感動したのです。どれもこれも同じような内容の大学受験向けの参考書とは一線を画す本でした。

ケプラーの本、ますます楽しみになりました笑。僕自身は品も教養もない人間ですが、この年になって自分で勉強することが楽しいのです。本を手に入れることが難しかった時代の人たちは、知識の源泉とも言えるテキストを自らの手にしたとき本当に嬉しかったんだろうなぁと想像してしまいます。目の前に広がる景色が冒険へと誘う、ドキドキするものです。

とねさんが本を通してご自身のゴールに近づくことも素晴らしいことですが、このブログを通して沢山の人に知る楽しさを広めてくださっていることに感謝しています。これからもワクワクさせてくれる記事を期待しております。
返信する
えーいち様 (とね)
2012-12-14 00:47:32
私にとっても励みになるコメント、それも長文のコメントをいただき、ありがとうございました。

新・物理入門:
確かにこの本は「王道」ですね。それに原子力について書かれた箇所は、私も感銘を受けました。本が書かれたのは福島原発の事故の前のことですから。。。
震災後に山本先生がお書きになった「福島の原発事故をめぐって―― いくつか学び考えたこと」も、来年読もうと思っているうちの一冊です。

僕自身は経験していませんが、祖父母が生きていたころ、戦中戦後の話をよく聞かされました。そのような時代に喉から手がでるほど欲しい本を手にしたときの喜びに等しい感覚を、今の時代に得ることが可能だろうか?それほど欲しいものって今あるだろうか?と考えてしまいます。今僕がまだ学んでいない領域の物理や数学を欲している強い気持ちも、そこまでには達していないのだろうと思います。

最新記事で紹介した「MIT白熱教室」というNHK Eテレの番組は来年1月5日から始まります。その頃はまた物理に関心を向ける人が増えてくると思いますので、僕もそれを後押しするような記事を書いてみたいと考えています。
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