さて、小説では、水元公園の内側の様子がどんなふうに
描かれているでしょうか。
少し長くなりますが、とりあえず引用します。
「堤に立つと、眺望はひらけた。葦の生えた沼地の先は見渡す
かぎり水郷で、鏡のように水が湛えられている。その先は森で
ある。道が細く水際をまわっている。葦の叢で葦切りが鳴いて
いた。途中の木橋の際に菖蒲が咲いている。水際をめぐって
ゆくと、水は岸にすれすれに溢れて、川のように早く流れてゆく。
魚の跳ねる音がする。川岸の椎の大木の下にくると、清澄は
彼女の足許を見て、歩をとめた」
この長い一節にはチェックポイントがいくつも含まれています
ので、改めて細かく分節化しながら見ていくこととしましょう。
■
まず、最初の、
「堤に立つと、眺望はひらけた。葦の生えた沼地の先は見渡す
かぎり水郷で、鏡のように水が湛えられている。その先は森で
ある」
ここで「鏡のように水が湛えられている」水郷というのは、
小合溜井を指しています(たぶん。現地へ行けば、それ以外の
選択肢はないはずです)。
小合溜井というのは、まあ要するに、巨大な溜池です。
一見すると、大きな川のようにも見えますが。
こここそが、なんといっても、
水元公園の最大のメインスポットです。
小合溜井は正面入口の前方に大きく広がっていますから、
入口付近からも眺められます。
が、そのまま公園のなかへ入って水際まで進めば、
もっとよく見渡せます(当たり前ですが)。
もちろん好きな場所から見てかまいませんが、
わたしたちの散歩では、この後の展開を考慮に入れて、
次のようなコースをたどってみることとしましょう。
↓
正面入口から公園に入るとすぐに噴水のある広場があります
(ここのベンチで休憩可。売店もありますよ)。
この広場に向かって右手にある青い鉄橋(「水元大橋」と
いいます)を渡りましょう。
途中、橋の上から小合溜井をのんびり眺めるのも一興です。
満々と湛えられた小合溜井の奥には、
鬱蒼とした樹林──まさに小説のとおりの「森」──が望めます。
(わたしたちは後ほどこの「森」を目指して歩くこととなります)
ちなみに、
対岸にも公園が広がっていますが、そちらは
埼玉県の「みさと公園」というこれまたけっこう広い公園です
(所在地は埼玉県三郷市)。
橋の上からの眺望を楽しんだら、渡りきってください。
■
次に、先ほどの引用文の続きを見てみましょう。
「道が細く水際をまわっている。葦の叢で葦切りが鳴いていた。
途中の木橋の際に菖蒲が咲いている」
さっそく菖蒲が出てきました。
わたしたちもいま、ちょうど水元大橋を渡り終えたところです。
で、目の前をご覧ください。
そこには菖蒲園が広がっています!
小説と同じ位置関係ですね。いちおう確認。なにしろ
わたしたちは文学散歩という名のフィールドワークを
やっているのですから。
ところで、一般的にいって、菖蒲の季節に水元公園を
訪れる人びとの一番のお目当てがここだと思われます。
入口から近いし、けっこう立派な菖蒲園ですから、十分に
堪能できるかと思います。
しかし!
これで満足していては、下町アルキストとはいえません
(ていうか、だれもそんなの名乗りたくありません)。
ちょっと気になるのは、引用したように、小説ではただ
「菖蒲が咲いている」
と指摘するだけで、あっさり通り過ぎてしまう点です。
せっかくだから、もっとゆっくり鑑賞すれないいのに…。
なぜなのかはやがて判明しますので、少々お待ちください。
それから、話が前後しますが、引用文中の「木橋」というのは、
今わたしたちが渡ってきた水元大橋を指すと思われます。
今では立派な鉄の橋ですが、位置関係からみても、ちょうど
水元大橋のたもとから菖蒲園が広がっていますし。
■
もう一つこの短い引用文で注目したいのが、「葦の叢」への
言及です。
今も公園内にはアシ(ヨシ)が群生しています。
残念ながらわたしには鳥の鳴き声を聞き分けることは
できませんが、この公園にはオオヨシキリが生息している
そうです。
ですから、小説のとおり、
今もきっと「葦切り」が鳴いていることでしょう。
■
さて、水元大橋たもとの菖蒲園を散策し終えたら、
再び水元大橋を渡って、先ほどの正面入口前の噴水広場の
あたりへ戻りましょう(方角としては例の「森」を目指すこと
となります)。
小説の続きは──、
「水際をめぐってゆくと、水は岸にすれすれに溢れて、川の
ように早く流れてゆく。魚の跳ねる音がする。川岸の椎の大木
の下にくると、清澄は彼女の足許を見て、歩をとめた」
噴水広場の売店の裏手(正確には売店を少し越えたあたりかな)
の一角にスダジイの林があります(樹木の説明表示あり)。
これが「川岸の椎の大木」のことではないかと思われます。
小説中の一行はここで歩をとめたとありますから、
わたしたちもちょっと立ち止まることとしましょう。
つづく
描かれているでしょうか。
少し長くなりますが、とりあえず引用します。
「堤に立つと、眺望はひらけた。葦の生えた沼地の先は見渡す
かぎり水郷で、鏡のように水が湛えられている。その先は森で
ある。道が細く水際をまわっている。葦の叢で葦切りが鳴いて
いた。途中の木橋の際に菖蒲が咲いている。水際をめぐって
ゆくと、水は岸にすれすれに溢れて、川のように早く流れてゆく。
魚の跳ねる音がする。川岸の椎の大木の下にくると、清澄は
彼女の足許を見て、歩をとめた」
この長い一節にはチェックポイントがいくつも含まれています
ので、改めて細かく分節化しながら見ていくこととしましょう。
■
まず、最初の、
「堤に立つと、眺望はひらけた。葦の生えた沼地の先は見渡す
かぎり水郷で、鏡のように水が湛えられている。その先は森で
ある」
ここで「鏡のように水が湛えられている」水郷というのは、
小合溜井を指しています(たぶん。現地へ行けば、それ以外の
選択肢はないはずです)。
小合溜井というのは、まあ要するに、巨大な溜池です。
一見すると、大きな川のようにも見えますが。
こここそが、なんといっても、
水元公園の最大のメインスポットです。
小合溜井は正面入口の前方に大きく広がっていますから、
入口付近からも眺められます。
が、そのまま公園のなかへ入って水際まで進めば、
もっとよく見渡せます(当たり前ですが)。
もちろん好きな場所から見てかまいませんが、
わたしたちの散歩では、この後の展開を考慮に入れて、
次のようなコースをたどってみることとしましょう。
↓
正面入口から公園に入るとすぐに噴水のある広場があります
(ここのベンチで休憩可。売店もありますよ)。
この広場に向かって右手にある青い鉄橋(「水元大橋」と
いいます)を渡りましょう。
途中、橋の上から小合溜井をのんびり眺めるのも一興です。
満々と湛えられた小合溜井の奥には、
鬱蒼とした樹林──まさに小説のとおりの「森」──が望めます。
(わたしたちは後ほどこの「森」を目指して歩くこととなります)
ちなみに、
対岸にも公園が広がっていますが、そちらは
埼玉県の「みさと公園」というこれまたけっこう広い公園です
(所在地は埼玉県三郷市)。
橋の上からの眺望を楽しんだら、渡りきってください。
■
次に、先ほどの引用文の続きを見てみましょう。
「道が細く水際をまわっている。葦の叢で葦切りが鳴いていた。
途中の木橋の際に菖蒲が咲いている」
さっそく菖蒲が出てきました。
わたしたちもいま、ちょうど水元大橋を渡り終えたところです。
で、目の前をご覧ください。
そこには菖蒲園が広がっています!
小説と同じ位置関係ですね。いちおう確認。なにしろ
わたしたちは文学散歩という名のフィールドワークを
やっているのですから。
ところで、一般的にいって、菖蒲の季節に水元公園を
訪れる人びとの一番のお目当てがここだと思われます。
入口から近いし、けっこう立派な菖蒲園ですから、十分に
堪能できるかと思います。
しかし!
これで満足していては、下町アルキストとはいえません
(ていうか、だれもそんなの名乗りたくありません)。
ちょっと気になるのは、引用したように、小説ではただ
「菖蒲が咲いている」
と指摘するだけで、あっさり通り過ぎてしまう点です。
せっかくだから、もっとゆっくり鑑賞すれないいのに…。
なぜなのかはやがて判明しますので、少々お待ちください。
それから、話が前後しますが、引用文中の「木橋」というのは、
今わたしたちが渡ってきた水元大橋を指すと思われます。
今では立派な鉄の橋ですが、位置関係からみても、ちょうど
水元大橋のたもとから菖蒲園が広がっていますし。
■
もう一つこの短い引用文で注目したいのが、「葦の叢」への
言及です。
今も公園内にはアシ(ヨシ)が群生しています。
残念ながらわたしには鳥の鳴き声を聞き分けることは
できませんが、この公園にはオオヨシキリが生息している
そうです。
ですから、小説のとおり、
今もきっと「葦切り」が鳴いていることでしょう。
■
さて、水元大橋たもとの菖蒲園を散策し終えたら、
再び水元大橋を渡って、先ほどの正面入口前の噴水広場の
あたりへ戻りましょう(方角としては例の「森」を目指すこと
となります)。
小説の続きは──、
「水際をめぐってゆくと、水は岸にすれすれに溢れて、川の
ように早く流れてゆく。魚の跳ねる音がする。川岸の椎の大木
の下にくると、清澄は彼女の足許を見て、歩をとめた」
噴水広場の売店の裏手(正確には売店を少し越えたあたりかな)
の一角にスダジイの林があります(樹木の説明表示あり)。
これが「川岸の椎の大木」のことではないかと思われます。
小説中の一行はここで歩をとめたとありますから、
わたしたちもちょっと立ち止まることとしましょう。
つづく