another TOKYO ~もう一つの東京探検~

「周縁」の東京を探索します。下町アルキストのための町歩きブログです。

水元公園「菖蒲」文学散歩~芝木好子『葛飾の女』を歩く(4)

2010-06-05 | 水元公園「菖蒲」文学散歩
さて、小説では、水元公園の内側の様子がどんなふうに
描かれているでしょうか。

少し長くなりますが、とりあえず引用します。


「堤に立つと、眺望はひらけた。葦の生えた沼地の先は見渡す
かぎり水郷で、鏡のように水が湛えられている。その先は森で
ある。道が細く水際をまわっている。葦の叢で葦切りが鳴いて
いた。途中の木橋の際に菖蒲が咲いている。水際をめぐって
ゆくと、水は岸にすれすれに溢れて、川のように早く流れてゆく。
魚の跳ねる音がする。川岸の椎の大木の下にくると、清澄は
彼女の足許を見て、歩をとめた」


この長い一節にはチェックポイントがいくつも含まれています
ので、改めて細かく分節化しながら見ていくこととしましょう。





まず、最初の、


「堤に立つと、眺望はひらけた。葦の生えた沼地の先は見渡す
かぎり水郷で、鏡のように水が湛えられている。その先は森で
ある」


ここで「鏡のように水が湛えられている」水郷というのは、
小合溜井を指しています(たぶん。現地へ行けば、それ以外の
選択肢はないはずです)。

小合溜井というのは、まあ要するに、巨大な溜池です。
一見すると、大きな川のようにも見えますが。

こここそが、なんといっても、
水元公園の最大のメインスポットです。

小合溜井は正面入口の前方に大きく広がっていますから、
入口付近からも眺められます。

が、そのまま公園のなかへ入って水際まで進めば、
もっとよく見渡せます(当たり前ですが)。

もちろん好きな場所から見てかまいませんが、
わたしたちの散歩では、この後の展開を考慮に入れて、
次のようなコースをたどってみることとしましょう。

  ↓

正面入口から公園に入るとすぐに噴水のある広場があります
(ここのベンチで休憩可。売店もありますよ)。

この広場に向かって右手にある青い鉄橋(「水元大橋」と
いいます)を渡りましょう。

途中、橋の上から小合溜井をのんびり眺めるのも一興です。

満々と湛えられた小合溜井の奥には、
鬱蒼とした樹林──まさに小説のとおりの「森」──が望めます。
(わたしたちは後ほどこの「森」を目指して歩くこととなります)

ちなみに、
対岸にも公園が広がっていますが、そちらは
埼玉県の「みさと公園」というこれまたけっこう広い公園です
(所在地は埼玉県三郷市)。

橋の上からの眺望を楽しんだら、渡りきってください。





次に、先ほどの引用文の続きを見てみましょう。


「道が細く水際をまわっている。葦の叢で葦切りが鳴いていた。
途中の木橋の際に菖蒲が咲いている」


さっそく菖蒲が出てきました。

わたしたちもいま、ちょうど水元大橋を渡り終えたところです。

で、目の前をご覧ください。

そこには菖蒲園が広がっています!

小説と同じ位置関係ですね。いちおう確認。なにしろ
わたしたちは文学散歩という名のフィールドワークを
やっているのですから。

ところで、一般的にいって、菖蒲の季節に水元公園を
訪れる人びとの一番のお目当てがここだと思われます。

入口から近いし、けっこう立派な菖蒲園ですから、十分に
堪能できるかと思います。

しかし!

これで満足していては、下町アルキストとはいえません
(ていうか、だれもそんなの名乗りたくありません)。

ちょっと気になるのは、引用したように、小説ではただ

「菖蒲が咲いている」

と指摘するだけで、あっさり通り過ぎてしまう点です。
せっかくだから、もっとゆっくり鑑賞すれないいのに…。

なぜなのかはやがて判明しますので、少々お待ちください。

それから、話が前後しますが、引用文中の「木橋」というのは、
今わたしたちが渡ってきた水元大橋を指すと思われます。
今では立派な鉄の橋ですが、位置関係からみても、ちょうど
水元大橋のたもとから菖蒲園が広がっていますし。





もう一つこの短い引用文で注目したいのが、「葦の叢」への
言及です。

今も公園内にはアシ(ヨシ)が群生しています。

残念ながらわたしには鳥の鳴き声を聞き分けることは
できませんが、この公園にはオオヨシキリが生息している
そうです。

ですから、小説のとおり、
今もきっと「葦切り」が鳴いていることでしょう。





さて、水元大橋たもとの菖蒲園を散策し終えたら、
再び水元大橋を渡って、先ほどの正面入口前の噴水広場の
あたりへ戻りましょう(方角としては例の「森」を目指すこと
となります)。

小説の続きは──、


「水際をめぐってゆくと、水は岸にすれすれに溢れて、川の
ように早く流れてゆく。魚の跳ねる音がする。川岸の椎の大木
の下にくると、清澄は彼女の足許を見て、歩をとめた」


噴水広場の売店の裏手(正確には売店を少し越えたあたりかな)
の一角にスダジイの林があります(樹木の説明表示あり)。

これが「川岸の椎の大木」のことではないかと思われます。

小説中の一行はここで歩をとめたとありますから、
わたしたちもちょっと立ち止まることとしましょう。


つづく




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