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日々新たなり/日本語学2020

コトバ

2021-11-19 | 日本語学21

語は音声、形式と意味、内容をもつ。コインの喩えをあげて表裏一体と言いながら、そして、そもそも語に意味があるのか。音声を発して、そこに、どこに、なにに意味があると言えるか。耳に聞こえて、目には見えない、つかめないと、きわめて得体が知れないようである。あたかも意味がある、ことばでわかったというのは、どういうことなのだろう。
ことば、コトバ、言葉と書く日本語は、このそれぞれで意味が同じか、ちがうか。詞、コトの端という言端の実態は、日本語の何を表わしたか。



日本国語大辞典
こと‐ば 【言葉・詞・辞】
解説・用例
〔名〕
社会ごとにきまっていて、人々が感情、意志、考えなどを伝え合うために用いる音声。また、それを文字に表わしたもの。
(1)話したり語ったり、また、書いたりする表現行為。
*万葉集〔8C後〕四・七七四「百千(ももち)たび恋ふといふとも諸弟(もろと)らが練(ねり)の言羽(ことば)は我は頼まじ〈大伴家持〉」
*古今和歌集〔905~914〕仮名序「かくてぞ、花をめで、鳥をうらやみ、霞をあはれび、露をかなしぶ心、ことば多く、さまざまになりにける」
*古文孝経仁治二年点〔1241〕「蓋し、謙の辞ならし」
(2)ものの言いかた。口のききかた。話しぶり。
*大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点〔850頃〕「此の蕪(あらき)辞(コトハ)を截てて其の実録を採らむ」
*伊勢物語〔10C前〕一〇七「されど若ければ、文もをさをさしからず、ことばも言ひ知らず、いはむや歌はよまざりければ」
*コリャード日本文典〔1632〕「cotoba (コトバ) サエ シラヌモノ」
*わらんべ草〔1660〕一「詞のつづき、あとさきしらず、後はづかしからん事をかへり見ずして、筆にまかするのみ」
*浄瑠璃・凱陣八島〔1685頃〕三「すこしことばのよはりたるをりを得て」
(3)たとえて言ったこと。言いぐさ。
*波形本狂言・引括〔室町末~近世初〕「『塵をむすんで成とも暇(いとま)の印を下され』『夫(それ)は安い事じゃ』と下におちてあるちりをひらいむすびやる『是はことばでこそあれ、何成とも目に立た印を下されと云事でござる』」
(4)表現された内容。
(イ)口頭で語った内容。話。語り。
*土左日記〔935頃〕承平五年一月二一日「かぢ取りの言ふやう『黒鳥のもとに白き波寄す』とぞいふ。このことば、何とにはなけれども物言ふやうにぞ聞こえたる」
*源氏物語〔1001~14頃〕常夏「ことなるゆゑなきことばをも、声のどやかにおししづめて言ひ出だしたるは、うち聞く耳ことにおぼえ」
*古事談〔1212~15頃〕三・澄憲祈雨効験事「忽降甘雨如車軸、其詞已達天龍之聴歟」
*狐の裁判〔1884〕〈井上勤訳〉一〇「頻りに怒りの言語(コトバ)を発(はな)ち」
*爛〔1913〕〈徳田秋声〉五七「婆さんの然ういって帰って行った語(コトバ)に、お増ははげしい侮辱を感じた」
(ロ)発言されたもの、記載されたものを問わず、一つのまとまった内容を持つ表現。作品。
*源氏物語〔1001~14頃〕手習「いとをかしう、今の世に聞こえぬことばこそは弾(ひ)き給けれ、とほむれば」
*史記呂后本紀延久五年点〔1073〕「語(コトバ)は斉王の語の中に在り」
*為兼和歌抄〔1285~87頃〕「こと葉にて心をよまむとすると、心のままに詞のにほひゆくとは、かはれる所あるにこそ」
*俳諧・花はさくら〔1801〕三聖図讚「されば文明の頃、其道さかんなりし聖たちの言葉、今の掟となりて、其実(まこと)なる事今の人のすさむ事かたかるべし」
*小説神髄〔1885~86〕〈坪内逍遙〉上・小説総論「形容(おもひいれ)をもて演じがたく、台辞(コトバ)をもて写しがたき」
(ハ)文字で記されたもの。特に手紙をさしていう。
*竹取物語〔9C末~10C初〕「文を書き置きてまからん。恋しからん折々取り出でて見給へ、とてうち泣きて書くことばは」
*和泉式部日記〔11C前〕「さらば参りなん、いかが聞こえさすべきと言へば、ことばにて聞こえさせんもかたはら痛くて」
(5)うた(特に和歌)に対して、散文で書かれた部分。歌集では詞書(ことばがき)の部分。
*伊勢物語〔10C前〕六九「明けはなれてしばしあるに、女のもとより、ことばは無くて、君や来し我や行きけむ思ほえず夢か現(うつつ)か寝てかさめてか」
*大和物語〔947~957頃〕二三「ことばはなくてかくなん、せかなくに絶えと絶えにし山水の誰しのべとか声を聞かせむ」
*源氏物語〔1001~14頃〕夕霧「あさましき御心のほどを見奉りあらはいでこそ、中々心やすくひたぶる心もつき侍りぬべけれ。せくからに浅さぞ見えん山河の流れての名をつつみ果てずは、とことはも多かれど見も果て給はず」
*大鏡〔12C前〕二・師尹「やまと哥はとあるをはじめにて、まづ句のことばを仰せられつつ問はせ給ひけるに、言ひたがへ給ふ事、詞にても哥にても無かりけり」
(6)絵巻物、絵草子などで、絵に対して文字で書かれた詞書の部分。
*枕草子〔10C終〕三一・こころゆくもの「よく書いたる女絵の、ことばをかしう付けて多かる」
*源氏物語〔1001~14頃〕東屋「絵など取り出でさせて、右近にこと葉読ませて見給ふに」
(7)種類としての言語。国語。
*土左日記〔935頃〕承平五年一月二〇日「かの国人聞き知るまじく思ほえたれども、ことの心を男文字にさまを書き出だして、ここのことば伝へたる人に言ひ知らせければ」
*天草本平家物語〔1592〕扉「ニホンノ cotoba (コトバ) トhistoria ヲ ナライ シラン ト ホッスル ヒト ノ タメニ セワ ニ ヤワラゲタル ヘイケ ノ モノガタリ」
*和英語林集成(初版)〔1867〕「ニッポンノ kotoba (コトバ)」
(8)用語。語彙(ごい)。
(イ)語句。単語。
*源氏物語〔1001~14頃〕玉鬘「よろづの草子・歌枕、よく案内(あない)知り、見つくして、そのうちのこと葉を取り出づるに、詠(よ)みつきたる筋こそ強うは変らざるべけれ」
*毎月抄〔1219〕「すべてよむまじき姿詞といふは、あまりに俗に近く、又おそろしげなるたぐひを申し侍るべし」
*ロドリゲス日本大文典〔1604~08〕「Cotobaua (コトバワ) フルキヲ モチイ、ココロワ、アラタシキヲ ホントス」
*式之槐市宛芭蕉書簡‐元祿三年〔1690〕正月五日「類(たぐ)いはなれたる御作意に而、御言葉幽玄すがた共感心仕候」
*小説神髄〔1885~86〕〈坪内逍遙〉上・小説の主眼「詩歌伝奇に鄙野(ひや)なる言詞(コトバ)を用ふることを悪(にく)むが如くに」
(ロ)連歌などで、「名(体言)」「てにをは」とともに、語彙を三分した一つ。主に今の「用言」をさす。
*連理秘抄〔1349〕「一、韻字 物の名と詞の字と是を嫌ふべからず。物の名と物の名と又可嫌之」
*連珠合璧集〔1476頃〕下「卅九詞類 引とあらば、しほ、霞〈略〉みじかきとあらば、玉のを、夏のよ」
(ハ)「てにをは」に対して、体言、用言をさした称。
*手爾葉大概抄〔鎌倉末~室町初〕「詞如寺社、手爾波者如荘厳以荘厳之手爾葉、定寺社之尊卑、詞雖有際限、新之自在之者手爾波也」
*言語四種論〔1824〕「体の詞の事〈略〉形状(ありかた)の詞作用(しわざ)の詞の事〈略〉てにをはの事〈略〉三種の詞はさす所あり。てにをははさす所なし。三種は詞にして、てにをはは声なり」
(9)音楽で、旋律を伴う部分に対して、非旋律的な部分。「詞」という字をあてる。
(イ)能楽、狂言などで、リズムを持ったふしをつけずに抑揚によって唱(とな)える部分。対話、独白などの散文的な部分に多くみられる。
*申楽談儀〔1430〕音曲のかかり「念彼(ねび)観音力、刀刃段々(たうじんだんだん)の所、ふしもことはも拍子も相応たり」
(ロ)近世邦楽で、対話や独白などを、旋律的でなく唱える部分。日常の言葉のように写実的でなく、多少様式化され、類型的である。対話や独白でも、変化をつけるため、ふしをつけて唱えることがあるが、それは含めない。詞に少しふしをつけたものをイロ詞という。
*浄瑠璃・源氏供養〔1676〕一「詞誰かれといはんより、紫式部しかるべしとの宣旨也、地式部勅意(ちょくゐ)承り、世に有難き仰にては候へ共わらはいかでか作るべし」
(10)物語などで、地の文に対して、会話の部分。
語源説
(1)コトハ(言端)の義〔名言通・大言海〕。
(2)コトノハ(言葉)の義。ハ(葉)は言詞の繁く栄えることをいう〔和訓栞〕。
(3)コト(事)から生じた語。葉は木によって特長があるように、話すことによって人が判別できるということから〔和句解〕。
(4)コトハ(心外吐)の義〔言元梯〕。
(5)コトは「語」の入声Kot で、語る意。バは「話」の別音Pa の転〔日本語原考=与謝野寛〕。
同訓異字
ことば【詞・辞・言・語】
【詞】(シ)神をまつることば。言語。詩文。文章。字句。「詞章」「歌詞」 (日本で)品詞。観念語。「名詞」「動詞」《古ことば・まつり》
【辞】(ジ)言語。文章。「文辞」「修辞」 (日本で)助詞・助動詞・接頭語・接尾語の類。「助辞」「接辞」《古ことば・まうす・いなぶ・とどむ・けがす・わかる・さる》
【言】(ゲン・ゴン)言い表わすこと。言い表わされたことば。「言語」「言論」《古ことば・こと・ものがたり・いふ・いへる・ものいふ・まうす・まうさく・のぶ・のたまはく・かたらふ・とく・とふ・のり・これ・ここに・われ》
【語】(ゴ)かたること。かたられたことば。「語録」「私語」 ことばづかい。成句。単語。「語句」「語源」《古ことば・こと・かたる・かたらふ・いふ・ものいふ・とふ・さへづる・ものがたり・をさめ》



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