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備忘録

トヨタプリウスのリコールはあれでよかったのか

2010-02-14 22:32:46 | 雑記録
トヨタプリウスのリコールはあれでよかったのか
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マル激トーク・オン・ディマンド 第461回(2010年02月13日)
トヨタプリウスのリコールはあれでよかったのか
ゲスト:廣瀬久和氏(青山学院大学法学部教授)
 昨年世界一の自動車メーカーの座に着いたばかりのトヨタ自動車が、今週火曜日、日本での最大販売数を誇る最新型プリウスのリコールを発表した。スリップを防ぐためにブレーキに付けられたABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の設定に対してユーザーから「効きにくい」「スーッと滑る」などのクレ-ムが相次いだことを受けた措置だという。
 今回のリコールは製品の不具合というよりも、ブレーキを制御するソフトの設定が、一部ユーザーの期待と合致しなかった結果と言った方がより正確との指摘もあるが、トヨタの幹部による「ユーザーのフィーリングの問題」などの発言がトヨタの責任逃れと受け止められたことで、トヨタに対する風当たりが俄然厳しくなり、本来であれば安全上問題がある場合にのみ行う「リコール」という厳しい手段に訴えざるを得なくなってしまったようだ。
 しかし、トヨタのリコール発表に際して、失敗学の権威である工学院大学の畑村洋太郎教授(東京大学名誉教授)と弁護士の郷原信郎氏(ともに国土交通省のリコール検討会メンバー)は緊急の記者会見を開き、そもそも今回の問題は自動車の安全基準に抵触するものではなく、ユーザーよってそれを問題と感じたり感じなかったりするという個々人の感覚に依存する面が大きいため、対象車を全て回収して修理する法的な「リコール」には馴染まないとの見解を発表した。両氏は、リコールが要件としている安全性に関わる不具合や欠陥が無くても、一定数のユーザーからクレームがつけばリコールをするのが当然であるかのような前例が作られると、自動車メーカーに多大な負担がかかり、結果的に自動車メーカーの競争力が損なわれたり、回り回ってその負担がユーザーにかぶせられることへの懸念を表明した。
 しかし、トヨタからリコールの届け出を受理した前原誠司国土交通大臣は、トヨタの豊田章男社長に対して、もっと早くリコールされるべきだったと苦言を呈した上で、国民もリコールに対して悪いイメージを持たずに、企業が製造者責任を積極的に果たそうとしていることの現れであると理解して欲しいと発言している。
 ところが前原発言とは裏腹に、リコール発表を受けた大手メディアの報道は軒並み、品質のトヨタがその最新技術の象徴とも呼ぶべきプリウスの不具合を認めたと一斉に報じるなど、トヨタ、とりわけリコールを行ったという事実に対して手厳しかった。依然として日本ではリコール=欠陥のイメージが、根強く残っていることはまちがいないようだ。
 そのような状況の下での今回のトヨタのリコールは果たして正しい判断だったのだろうか。
 消費者法の専門家で、国内外のリコール制度に詳しい青山学院大学の廣瀬久和教授(東京大学名誉教授)は、今回のプリウス問題だけを個別で見れば、果たしてリコールまでする必要があったかどうかの議論は成り立つかもしれないが、この問題はむしろ昨年秋から米国で広がったトヨタ車の品質をめぐる相次ぐトラブルの延長線上にあると見るべきだと指摘する。暴走事故の原因となったフロアマットにアクセルが引っかかる問題やアクセルペダル部品の不具合など、トヨタでは自動車の安全性の根幹に関わる重大な問題が相次ぎ、そのたびにトヨタの対応はことごとく後手に回った。少なくとも消費者の目にはそう映った。その結果、特にアメリカではトヨタが何かを隠しているのではないかといった不信感が広がってしまったと廣瀬氏は残念がる。そのような矢先に日本でもプリウスのブレーキ問題が浮上し、そこでもトヨタ幹部による「フィーリング」発言など、責任逃れとも受け取れる対応が大きく報じられたため、トヨタに対する不信の念が決定的なものになってしまったのだと言うのだ。
 今回のトヨタの問題は、個々の技術的な問題というよりも、トヨタという企業の体質が問われている面が多分にあると廣瀬氏は見る。特に透明性や公正さを重んじる米国では、責任逃れや隠蔽はことさらに重大な問題となり、懲罰的賠償責任の対象となる。そのため自動車メーカーは、積極的にリコールを行い、責任を果たす姿勢を見せることが自身にとってもメリットとなる。
 しかし、日本ではリコール=欠陥品と捉える風潮が依然として根強い。つまり日本ではリコールなど責任を全うするための行動を取ると、それがあたかも欠陥や非を認めたかのように受け取られてしまうために、企業は迅速にリコールなどの対応が取りにくくなっている。
 日本でも三菱ふそうタイヤ脱落事故などを機に2000年以降リコールの件数が急増している。リコールはもはや自動車メーカーにとって追い込まれた末の最後の手段ではなく、ユーザーとの協力のもとでより安全な製品を作っていくために積極的に活用する手段となっている。これが世界的な趨勢であり、日本もその流れに沿っている。
 しかし、プリウスのリコールの報じられ方や、一連のトヨタに対する世論の風当たりの強さは、日本にとってのリコール制度が世界的趨勢に反するばかりか、まだ「責任」と「対応」を分離して考えられていないことを如実に物語っている。
 トヨタによるリコールから見えてきた、日本における企業と市民の関係や企業の責任とあり方のあるべき姿を、社会と法制度の観点から廣瀬氏とともに議論した。

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