ある冬の初めの頃、庭を眺めていた孔子が、しみじみとこう呟いた。
「ああ、すっかり寒くなって、花は枯れ葉が散り果ててしまった。
でも、松と柏の木だけは枯れ萎む事なく、厳しい寒さによく耐えているなあ。
「歳寒くして、然る後に松柏の刻むに後るる事を知る」。
年末になって時節が寒くなっても、松や柏の木が寒さに悩まず、苦しまずに、不変の緑を誇っている姿を、讃えたのである。
気候が寒くなったとは、世の中が乱れ、不況になった事の例えである。
状況が悪い方に変化した時、精神力の弱い人には、草木が枯れてしまう様に、しょんぼりして、うっかりすると突然病気になってしまう事もあろう。
そんな時は、みんなで励まし合って、手を携えて、過酷な情況に立ち向かい積極的に乗りきって行きたい。
松や柏の緑の様に、心だけはしっかりと強い人になりたい。
どんなピンチの時でも…。
「松樹千年の翠」ーこれは、南宋末期の禅僧、石田法薰(せきでんほうくん)の名高い言葉である。
松の緑の美しさは、千年も変わる事はない。
この言葉から「松柏千年の春」という詩句も生まれ、元日やお祝いの時に、よく掛軸にして床の間にかけた。
どんな辛い事が有っても、松の緑の様に相変わらず、元気にやって行こう…と。
「一枝の梅花、雪に和して香(かんば)し」(出典未詳)。
これも、あまりにも名高い禅語てある。
まだ、春は浅い。梅の花がたった一本の枝先に、ポツンと咲く。
何と無情にも、その花の上にハラハラと雪が舞う。
いつの間にか、雪が冷たくこんもり積もる。
が、梅の花は突如迫った辛い情況に、毅然と和して、凛々しく咲く。