昔、古文の大先生に褒めてもらったプリント。両面プリントだから長い記事だけど、特に中級者で上級者になれない人や直前期の人は必読だから。これじゃ読みにくい人はワードか何かにコピペして縦書きにして印刷してちょ。学校の先生は適当にアレンジして利用してください。そのまま使用してもいいですよ。
目標:文脈を把握するということを実感する。
A 前提として文法は大事。
「ゐてありき。」と「ゐてありきけり。」の違いを考えよう。(この記事参照)
B 単語を連想しよう
おとなふものも聞こえず
意味は?
C 月にはかられて、夜深くおきにけるも~
「月にはかられて」とはどういうことを言い表しているか、句読点とも三〇字以内で説明せよ。
D 子、孝せむと思へども、親【 X 】。
空欄を推測せよ
E
傍線部を推測してみよう
「はやくここに物言ひし人あり」(中略)「ここに住みたまひし人は、いまだおはすや。『山人にもの聞こえむと言ふ人あり』とものせよ」(注『山人に~』は過去の愛人を再訪する光源氏に自分をなぞらえた表現)
F赤い部分を推測する。
むかし、若きをとこ、けしうはあらぬ女を思ひけり。さかしらする親ありて、思ひもぞつくとて、この女をほかへ逐ひやらむとす。さこそいへまだ逐ひやらず。人の子なれば、まだ心いきほひなかりければ、とどむるいきほひなし。女も卑しければすまふ力なし。さる間に思ひはいやまさりにまさる。にはかに親この女を逐ひうつ。をとこ、血の涙をながせどもとどむるよしなし。率ていでていぬ。をとこ泣く泣くよめる。
いでていなば誰か別れのかたからむありしにまさる今日はかなしも
とよみて絶え入りにけり。親あわてにけり。なほ思ひてこそいひしか、いとかくしもあらじと思ふに、真実に絶え入りにければ、惑ひて願たてけり。今日の入相ばかりに絶えいりて、またの日の戌の時ばかりになむからうじて生きいでたりける。昔の若人は、さるすける物思ひをなむしける。
(例A)
「ゐてありき。」と「ゐてありきけり。」の違いを考えよう。
「ありき。」だと、ラ変連用形+き(過去)。座っていた。「ありきけり」だと、「ありき」が「ありく」の連用形なので、「連れて歩いていたそうだ」になる。ゐる・・・ワ行上一段「居る」「率る」文脈勝負。
☆何故、推測するのか?
本文に根拠を持って解けやら、客観的に読めやらということを色々な科目で聞いてきたと思う。おいらもそれらを否定する気はまったくない。しかし、入試の会場で古文を完璧に読める奴なんていない。だから、不完全な部分が必ずあるということを前提に「推測する」ということについて本気出して考えてみた。そこでおいらが注意したのが、次の二点である。
・ 「本文を根拠にする」という枠ははずさない。
・ 形を明確に表現する。
おいらは次の三つをいざというときの目安にしてくれえと考えてみた。
三大推測法
① 方向性推測
つまり、流れから追っていく。原因と結果の関係や、仮定表現は現実と違うなどといった文脈の流れを根拠に推測するということである。
(例B) おとなふものも聞こえず
「おとなふ」は「聞こえず」の方向性にあるのだから「音なふ」で「音をたてる」と推測できる。
(例C)
月にはかられて、夜深くおきにけるも~
「月にはかられて」とはどういうことを言い表しているか、句読点とも三〇字以内で説明せよ。
原因→て・ば・と→結果
というパターンがある。つまり、「月にはかられて」しまった結果が夜深く起きてしまったわけだ。月がどうだと夜に起きてしまうのかを考えればよい。なお、「はかる」は「だます・計画する」の意味の重要単語なので知っている人は有利である。
解答例 月の光があまりに明るかったので、夜があけたと思ったということ。
② 逆接推測
逆接の前後は対立する情報であるはずである。
(例D) 子、孝せむと思へども、親【 X 】。
この場合、「親」は「子」の「孝行」を受けることのない状態=子の孝行が実現しなかった(未然形+む=意思=未だに実現していない)ということが推測できよう。さらに「已然形+ども」は逆接確定だから、「親が死んだ」という孝行が二度と出来ない事態の可能性が高い。
③ 同類推測・並列推測
同類の表現の部分から推測をする。並列の情報は同じグループの情報を並べるということである。よって、並列は同じグループに所属する情報を有していることになる。例えば「お金かクレジットカード」という文は自然な並列であるが、「お金かコンビーフ」というと同じグループに属していない情報が並列しているので不自然な並列である。
(例E)傍線部を推測する
「はやくここに物言ひし人あり」(中略)「ここに住みたまひし人は、いまだおはすや。『山人にもの聞こえむと言ふ人あり』とものせよ」(注『山人に~』は過去の愛人を再訪する光源氏に自分をなぞらえた表現)
「ここに物言ひし人」と「ここに住みたまひし人」とが非常に似ていることがわかる。そして、注によると「ここに住みたまひし人」は過去の愛人であることもわかる。したがって、「ここに物言ひし人」も過去の愛人であると推測可能である。
むろん、文法的に「し」は過去であり、「過去」の愛人と相性が良いということを活用しても良い。これも同類である。
ちなみに「中略」の部分が実際に書いてあると難問だったんだぞえ。
(例F)
☆「人の子」とは誰か?
まず、「若き男」と「さかしらする親」という語から方向性を導くと「子」である人は「(若き)男」であることがわかる。
☆「すまふ」の意味は?
ここだけで推測すべきではない。ここでは「女も」に注目してみよう。つまり、並列である。「も」は単なる強調の場合もあるが、ここでは前の文がほぼ同じ形である。同じ形というのは「~ば、~なし」などという形ということである。ニつの文を並べてみよう。
人の子なれば、まだ心いきほひなかりければ、とどむるいきほひなし。
女も 卑しければ すまふ力なし。
老婆心ながら言っておくと、ここからでも「人の子」というのが「男」であるということもわかるだろう。「女も」と並列になっているのだから。文脈を推測する際、複数の根拠を持った方が正確になるのは当然である。さて、「心いきほひなかりければ」「卑しければ」という確定条件(已然形+ば)の部分はマイナス(やな感じ)の内容であることはわかる。その結果が「とどむるいきほひなし」であり、「すまふ力なし」である。ここで「いきほひ」と言う語を「力」とほぼ同内容と考えても無理はないだろう。どちらも「なし」の主語である上(つまり、並列)に、「いきほひ」に漢字を当てるとしたら「勢い」であろうから。そうすると前の文が読みやすくなる。「心いきほひ」は「気力」程度の意味で、「気力がない」から、「とどめる力」がないのだ。「とどむる」が「とどめる」というのも語の響きから推測がつくだろう(「手」=「て」という文字を「手綱」のときは「たづな」と読むようなものだ)。
方向性も確認しておこう「(親は)女を逐ひやらむとす。さこそいへまだ逐ひやらず」というように「親は女を追い出そう」としているが、「男は人の子」なので「気力がない」ので「女をとどめる力」がないのである。方向性から考えても無理はないということになる。さて、「すまふ」の意味が前文との並列の関係であることから「とどめる」と同義だと推測がついただろう。男の親にさからうことができないという方向性もあるのだから、「すまふ」は「抵抗する」などというところか。
☆「いでていなば」の意味は? (ここ重要だよ)
並列は同類の情報が並ぶのだが、それを発展させてみよう。つまり、同類情報から推測するのである。
率ていでていぬ。 いでていなば
この二箇所はそっくりである。ここを根拠に考えてみよう。まず「率ていでていぬ」は終止形で終わっている。つまり、事実である。それに対して「いでていなば」は仮定条件(未然形+ば)つまり仮定なのだから事実ではないのである。ここで方向性が発生していると気付こう。次に「率て」の有無が両者の違いである。つまり、実際は「率て」(「率いる」という現代語から単数性は低いと推測する。つまり、他者が存在していると考えられる)「出でて去ぬ(ナ変の漢字化)(出ていった)」のだが、仮定の部分は「もし『(誰かが)率て』出ていったのでなければ」、ということなのである。よって、「いでていなば」の意味は「自分で出ていったならば」という意味である。
☆「絶え入りにけり」の意味は?
ここは方向性による推測を考える。「親あわてにけり」「いとかくしもあらじ」とあるから、予想外のことであろう。また「真実に絶え入りにければ」ともあるので、普通は本当に(真実に)「絶え入る」ことはないのだろう。そして、結果は「生きいでたりける」である。つまり、「生き」の状態が出てきたのである。よって「死んでしまった」という意味だと推測できる。ちなみに「生きいでたりける」の部分が「息いでたりける」であった場合、「気絶してしまった」と取ることも可能だろう。本文を漢字にしたり、句読点をつけたり、また、段落にわけたりするのは、出題者である。その誘導にも注意されたし。
【現代語訳】
昔、若い男がそう悪くはない女を好きになった。おせっかいをする親がいて、女を愛すると困ると思って、この女を他所に追い出そうとした。しかし、そうはいっても、まだ追い出せないでいた。男は親に養ってもらう身分だったので、まだ気力がなかったので、女を引き止める力がない。女の方も身分が低かったので抵抗する力がない。そうしているうちに愛する気持ちはどんどん高まってくる。突然に、親はこの女を放り出した。男は血の涙を流したけれども、引き止める術がない。人に連れられ出ていった。男が泣く泣く詠んだ(歌)。
あの人が自ら出ていったのならば、誰も別れが難しいと思うだろうか、いや、思わない
今まで経験した悲しさ以上の今日の悲しさだよ
と詠んで、(ばったりと倒れて)死んでしまった。親は大いに慌ててしまった。やはり愛情を持って言ったといえ、まさかこうなるとはあるまいと思っていたが、本当に死んでしまったので、狼狽して願を立てた。その日の日没の頃に死んで、次の日の午後八時頃に、かろうじて生き返ったのであった。昔の若人は、このような一途な恋をしていた。
【復習課題】
過去・完了の助動詞と接続を確認せよ(つ・ぬ・たり・り・き・けり)
過去の助動詞の「き」の活用を暗記せよ
ワ行動詞を整理せよ(植う・飢う・据う・率る・居る・・・)
接続助詞「ば・ど・ども・とも」を例文つきで理解せよ
已然形+ば 未然形+ば 已然形+ど(ども) 終止形+とも
目標:文脈を把握するということを実感する。
A 前提として文法は大事。
「ゐてありき。」と「ゐてありきけり。」の違いを考えよう。(この記事参照)
B 単語を連想しよう
おとなふものも聞こえず
意味は?
C 月にはかられて、夜深くおきにけるも~
「月にはかられて」とはどういうことを言い表しているか、句読点とも三〇字以内で説明せよ。
D 子、孝せむと思へども、親【 X 】。
空欄を推測せよ
E
傍線部を推測してみよう
「はやくここに物言ひし人あり」(中略)「ここに住みたまひし人は、いまだおはすや。『山人にもの聞こえむと言ふ人あり』とものせよ」(注『山人に~』は過去の愛人を再訪する光源氏に自分をなぞらえた表現)
F赤い部分を推測する。
むかし、若きをとこ、けしうはあらぬ女を思ひけり。さかしらする親ありて、思ひもぞつくとて、この女をほかへ逐ひやらむとす。さこそいへまだ逐ひやらず。人の子なれば、まだ心いきほひなかりければ、とどむるいきほひなし。女も卑しければすまふ力なし。さる間に思ひはいやまさりにまさる。にはかに親この女を逐ひうつ。をとこ、血の涙をながせどもとどむるよしなし。率ていでていぬ。をとこ泣く泣くよめる。
いでていなば誰か別れのかたからむありしにまさる今日はかなしも
とよみて絶え入りにけり。親あわてにけり。なほ思ひてこそいひしか、いとかくしもあらじと思ふに、真実に絶え入りにければ、惑ひて願たてけり。今日の入相ばかりに絶えいりて、またの日の戌の時ばかりになむからうじて生きいでたりける。昔の若人は、さるすける物思ひをなむしける。
(例A)
「ゐてありき。」と「ゐてありきけり。」の違いを考えよう。
「ありき。」だと、ラ変連用形+き(過去)。座っていた。「ありきけり」だと、「ありき」が「ありく」の連用形なので、「連れて歩いていたそうだ」になる。ゐる・・・ワ行上一段「居る」「率る」文脈勝負。
☆何故、推測するのか?
本文に根拠を持って解けやら、客観的に読めやらということを色々な科目で聞いてきたと思う。おいらもそれらを否定する気はまったくない。しかし、入試の会場で古文を完璧に読める奴なんていない。だから、不完全な部分が必ずあるということを前提に「推測する」ということについて本気出して考えてみた。そこでおいらが注意したのが、次の二点である。
・ 「本文を根拠にする」という枠ははずさない。
・ 形を明確に表現する。
おいらは次の三つをいざというときの目安にしてくれえと考えてみた。
三大推測法
① 方向性推測
つまり、流れから追っていく。原因と結果の関係や、仮定表現は現実と違うなどといった文脈の流れを根拠に推測するということである。
(例B) おとなふものも聞こえず
「おとなふ」は「聞こえず」の方向性にあるのだから「音なふ」で「音をたてる」と推測できる。
(例C)
月にはかられて、夜深くおきにけるも~
「月にはかられて」とはどういうことを言い表しているか、句読点とも三〇字以内で説明せよ。
原因→て・ば・と→結果
というパターンがある。つまり、「月にはかられて」しまった結果が夜深く起きてしまったわけだ。月がどうだと夜に起きてしまうのかを考えればよい。なお、「はかる」は「だます・計画する」の意味の重要単語なので知っている人は有利である。
解答例 月の光があまりに明るかったので、夜があけたと思ったということ。
② 逆接推測
逆接の前後は対立する情報であるはずである。
(例D) 子、孝せむと思へども、親【 X 】。
この場合、「親」は「子」の「孝行」を受けることのない状態=子の孝行が実現しなかった(未然形+む=意思=未だに実現していない)ということが推測できよう。さらに「已然形+ども」は逆接確定だから、「親が死んだ」という孝行が二度と出来ない事態の可能性が高い。
③ 同類推測・並列推測
同類の表現の部分から推測をする。並列の情報は同じグループの情報を並べるということである。よって、並列は同じグループに所属する情報を有していることになる。例えば「お金かクレジットカード」という文は自然な並列であるが、「お金かコンビーフ」というと同じグループに属していない情報が並列しているので不自然な並列である。
(例E)傍線部を推測する
「はやくここに物言ひし人あり」(中略)「ここに住みたまひし人は、いまだおはすや。『山人にもの聞こえむと言ふ人あり』とものせよ」(注『山人に~』は過去の愛人を再訪する光源氏に自分をなぞらえた表現)
「ここに物言ひし人」と「ここに住みたまひし人」とが非常に似ていることがわかる。そして、注によると「ここに住みたまひし人」は過去の愛人であることもわかる。したがって、「ここに物言ひし人」も過去の愛人であると推測可能である。
むろん、文法的に「し」は過去であり、「過去」の愛人と相性が良いということを活用しても良い。これも同類である。
ちなみに「中略」の部分が実際に書いてあると難問だったんだぞえ。
(例F)
☆「人の子」とは誰か?
まず、「若き男」と「さかしらする親」という語から方向性を導くと「子」である人は「(若き)男」であることがわかる。
☆「すまふ」の意味は?
ここだけで推測すべきではない。ここでは「女も」に注目してみよう。つまり、並列である。「も」は単なる強調の場合もあるが、ここでは前の文がほぼ同じ形である。同じ形というのは「~ば、~なし」などという形ということである。ニつの文を並べてみよう。
人の子なれば、まだ心いきほひなかりければ、とどむるいきほひなし。
女も 卑しければ すまふ力なし。
老婆心ながら言っておくと、ここからでも「人の子」というのが「男」であるということもわかるだろう。「女も」と並列になっているのだから。文脈を推測する際、複数の根拠を持った方が正確になるのは当然である。さて、「心いきほひなかりければ」「卑しければ」という確定条件(已然形+ば)の部分はマイナス(やな感じ)の内容であることはわかる。その結果が「とどむるいきほひなし」であり、「すまふ力なし」である。ここで「いきほひ」と言う語を「力」とほぼ同内容と考えても無理はないだろう。どちらも「なし」の主語である上(つまり、並列)に、「いきほひ」に漢字を当てるとしたら「勢い」であろうから。そうすると前の文が読みやすくなる。「心いきほひ」は「気力」程度の意味で、「気力がない」から、「とどめる力」がないのだ。「とどむる」が「とどめる」というのも語の響きから推測がつくだろう(「手」=「て」という文字を「手綱」のときは「たづな」と読むようなものだ)。
方向性も確認しておこう「(親は)女を逐ひやらむとす。さこそいへまだ逐ひやらず」というように「親は女を追い出そう」としているが、「男は人の子」なので「気力がない」ので「女をとどめる力」がないのである。方向性から考えても無理はないということになる。さて、「すまふ」の意味が前文との並列の関係であることから「とどめる」と同義だと推測がついただろう。男の親にさからうことができないという方向性もあるのだから、「すまふ」は「抵抗する」などというところか。
☆「いでていなば」の意味は? (ここ重要だよ)
並列は同類の情報が並ぶのだが、それを発展させてみよう。つまり、同類情報から推測するのである。
率ていでていぬ。 いでていなば
この二箇所はそっくりである。ここを根拠に考えてみよう。まず「率ていでていぬ」は終止形で終わっている。つまり、事実である。それに対して「いでていなば」は仮定条件(未然形+ば)つまり仮定なのだから事実ではないのである。ここで方向性が発生していると気付こう。次に「率て」の有無が両者の違いである。つまり、実際は「率て」(「率いる」という現代語から単数性は低いと推測する。つまり、他者が存在していると考えられる)「出でて去ぬ(ナ変の漢字化)(出ていった)」のだが、仮定の部分は「もし『(誰かが)率て』出ていったのでなければ」、ということなのである。よって、「いでていなば」の意味は「自分で出ていったならば」という意味である。
☆「絶え入りにけり」の意味は?
ここは方向性による推測を考える。「親あわてにけり」「いとかくしもあらじ」とあるから、予想外のことであろう。また「真実に絶え入りにければ」ともあるので、普通は本当に(真実に)「絶え入る」ことはないのだろう。そして、結果は「生きいでたりける」である。つまり、「生き」の状態が出てきたのである。よって「死んでしまった」という意味だと推測できる。ちなみに「生きいでたりける」の部分が「息いでたりける」であった場合、「気絶してしまった」と取ることも可能だろう。本文を漢字にしたり、句読点をつけたり、また、段落にわけたりするのは、出題者である。その誘導にも注意されたし。
【現代語訳】
昔、若い男がそう悪くはない女を好きになった。おせっかいをする親がいて、女を愛すると困ると思って、この女を他所に追い出そうとした。しかし、そうはいっても、まだ追い出せないでいた。男は親に養ってもらう身分だったので、まだ気力がなかったので、女を引き止める力がない。女の方も身分が低かったので抵抗する力がない。そうしているうちに愛する気持ちはどんどん高まってくる。突然に、親はこの女を放り出した。男は血の涙を流したけれども、引き止める術がない。人に連れられ出ていった。男が泣く泣く詠んだ(歌)。
あの人が自ら出ていったのならば、誰も別れが難しいと思うだろうか、いや、思わない
今まで経験した悲しさ以上の今日の悲しさだよ
と詠んで、(ばったりと倒れて)死んでしまった。親は大いに慌ててしまった。やはり愛情を持って言ったといえ、まさかこうなるとはあるまいと思っていたが、本当に死んでしまったので、狼狽して願を立てた。その日の日没の頃に死んで、次の日の午後八時頃に、かろうじて生き返ったのであった。昔の若人は、このような一途な恋をしていた。
【復習課題】
過去・完了の助動詞と接続を確認せよ(つ・ぬ・たり・り・き・けり)
過去の助動詞の「き」の活用を暗記せよ
ワ行動詞を整理せよ(植う・飢う・据う・率る・居る・・・)
接続助詞「ば・ど・ども・とも」を例文つきで理解せよ
已然形+ば 未然形+ば 已然形+ど(ども) 終止形+とも