alla marcia

こはぜの覚え書き

奈落の底

2006-02-26 23:33:49 | その他
 劇場の楽屋口には大概、神棚があります。
 宗教にはうるさそうな公立ホールであり、しかもザ・西洋文化なオペラの殿堂びわ湖ホールにも、やっぱり神棚はありました。
 出演者として楽屋に入るときには、わたしも自然と神棚に立ち止まって手を合わせていました。日本の八百万の神々の仲間なのか、得体の知れない魔物のようなものかは定かでないのですが、緞帳のこちら側の世界には、人間の力を超えた存在がある。漠然とそんな思いがありました。
 しかし、どうもそんなセンチメンタルなもんだけやないような気も…。
 このごろ初めてセリというものに乗せていただく機会があり、ああ、あの神様は「安全を祈願する」というめちゃくちゃ実用的な目的用途に基づいて設置されている神様でもあるんや!と思った次第。
 セリは、舞台の板の一部が下に下がる仕組で、日本舞踊ではどちらかと言えば、一旦下に下ろして客席から見えなくなっている板の上に登場人物がポーズを作って乗っかり、エレベーターよろしく舞台上に出現する…という使われ方をすることが多いかと思います。今回は逆で、セリの上に乗っかっている状態のまま舞台上から消えていくという演出。
 身長プラス数十センチの深さに下りた板の上、そこから見えたのは「奈落の底」でした。舞台を切り取った狭い板、勿論囲いや柵はありません。そんな頼りない板が、舞台の下の縦に長い空中に浮かぶように舞台からぶら下がっているように感じられます。板の端から見える足元の空間は、出演者としてテンパっているからなんとかなるものの、素面では足がすくんでしまいそうな深さです。
 こりゃ、アブナイ。
 スタッフさんも、くれぐれも気をつけてくださいと何度も注意してくださいます。実際、セリでは悲痛な事故が起きているそうです。
 あの奈落の底を覗いてしまってからは、劇場の神棚には、「舞台の安全」を実感を込めてお祈りするようになりました。というか、もう祈らずにはいられません。
 セリに限らず、劇場には危険がいっぱい。今日も一日、どの劇場も無事故でありますように。
 
 そして今日も安全に夢を運んでくださる劇場のスタッフの皆さま、本当にありがとうございます。
コメント
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