中村歯科

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マイコプラズマ肺炎が急増

2012年01月13日 | Weblog
マクロライド高度耐性で抗菌薬の選択に変化

報告数が例年の2倍以上に増加した小児のマイコプラズマ感染症。マクロライド系抗菌薬を投与しても症状が改善されず、入院するケースも増えている。抗菌薬の選択については医師によって意見が異なる。

かつては4年ごとに流行するため、“オリンピック病”と呼ばれていたマイコプラズマ感染症。2011年6月ごろから全国で小児の感染が増え始め、国立感染症研究所感染症情報センターの12月16日時点での報告数は定点当たり1.51と例年の2倍以上となった。

 感染の拡大に伴い、重症化する症例も増加している。博慈会記念総合病院(東京都足立区)小児科副院長の田島剛氏は「通常、マイコプラズマ肺炎による入院患者は月に3~4人だが、11年8月には、20人近くまで増加した。地域によっては例年の10倍以上の患者が来ているのではないか」と話す。

 マイコプラズマの診断には、10分程度で判定ができるイムノカードがある。だが、この診断法はイムノクロマト法で血清中の特異的IgM抗体を検出するため、発症初期に検査をしても、陰性となる場合がある。田島氏は「血清中のIgM抗体を検出する微粒子凝集反応(PA法)とIgG抗体を検出する補体結合反応(CF法)の両方を行い、2~3週後にペア血清を見るとより確実だ」と話す。

 早期診断には臨床症状からの判断が大切だ。「発症年齢や症状、数カ所に網状顆粒状などの陰影が見えるといったX線所見のポイントを把握することが重要」と田島氏は話す。

 治療には抗菌薬が使われる。現在の第1選択薬はマクロライド系抗菌薬だが、この抗菌薬に対する耐性率が年々高まってきている。

 北里大北里生命科学研究所病原微生物分子疫学研究室特任教授の生方公子氏らが、02年より地域の基幹病院5施設からの検体を解析したところ、耐性率は11年11月時点で86.3%となっていた。
もっとも、解析に携わった田島氏は「主に重症患者の検体を中心に解析しているため、一般の医療機関の耐性率よりも高い数値となっていると思われる。実際の耐性率は、約4~6割程度ではないか」と話す。

 今のところ、この耐性化が流行拡大の原因かどうかは明らかになっていない。だが、札幌徳洲会病院小児科医長の成田光生氏は「耐性化によって治療に難渋することが増え、感染者の咳などによって流行が促進されたのではないか」と話している。

点突然変異で耐性を獲得
 今回の耐性化は、マクロライド系抗菌薬が結合する23SrRNAのドメインV内の遺伝子に点突然変異が生じて、蛋白合成が阻害できなくなったことによるものだ。

 この変異によって、マクロライド系抗菌薬の効果が得られない場合、小児ではテトラサイクリン系抗菌薬のミノサイクリンが使われる(症例1)。しかし、8歳未満の小児には、歯牙や骨への影響があるため、抗菌薬の選択では意見が分かれている。

 成田氏は「マクロライド系のクラリスロマイシンを15~20mg/kgと多めに4日投与し、熱が下がらなければミノサイクリンを3日間処方する。7日間以内の投与であれば副作用の可能性は少ないだろう」と言う。

 田島氏は「耐性率の増加を念頭に置いて、私は初期の治療からミノサイクリンやテトラサイクリン系抗菌薬のドキシサイクリン、ニューキノロン系のトスフロキサシンを選択すべきと考える」と話す。「特にドキシサイクリンは解熱や咳症状の改善、菌量の減少といった効果がミノサイクリンと同程度な上、半減期が長く、少ない処方量で済む」と田島氏は言う。

 抗菌薬による治療を続けても症状が改善しない場合や、胸膜炎、髄膜炎を合併した場合には、過剰な免疫応答と判断し、ステロイドを追加する。田島氏は「呼吸数が明らかに早い場合など、重症な患者には早期から抗菌薬とステロイドを併用している」と話している。

 06年の流行時には家庭内感染も報告されている。今後は成人患者が増える可能性もある。

「症例1」 マクロライド高度耐性マイコプラズマにより、肺炎を発症した1例(田島氏による)
 13歳、男児。11年7月2日に発熱と咳が出現。翌日に診療所を受診し、かぜ薬を処方された。39℃台の発熱が持続するため近医を受診。クラリスロマイシンが処方された。その後も発熱が持続し、咳も悪化したため再び同医を受診。アジスロマイシンに変更された。しかし、その後も解熱せず、9日に紹介受診となった。
  来院時の身体所見は、身長165cm、体重47kg、体温39.7℃、心拍数96回/分、呼吸数30回/分、血圧118/60、SPO296%。
  年齢、病歴、胸部X線所見、検査所見、疫学的状況からマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎と診断。ミノサイクリンと、全身状態の悪化を考慮してメチルプレドニゾロンを点滴静注した。治療後は18時間後には解熱し、全身倦怠感も著明に改善して咳嗽も軽減した。その後は、ミノサイクリンを7日間(4日目からは経口投与)投与し、メチルプレドニゾロンは3日間で中止した。