中村歯科

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うま味に対する感度が低下すると肥満になりやすい可能性

2011年10月21日 | Weblog

味覚嗜好、味覚感度は患者の食習慣を左右し、それが肥満や高血圧といった生活習慣病にも影響を及ぼすことが考えられる。今回、山陰労災病院(鳥取県米子市)循環器科の水田栄之助氏らは、うま味に対する感度が低下すると甘味嗜好が強まり、肥満になりやすい可能性があることを明らかにし、10月20日に宇都宮で開幕した日本高血圧学会(JSH2011)で発表した。

 検討対象は、鳥取県内在住の健診受診者48人(男性15人、女性33人)で、平均年齢37.4歳だった。身体測定(身長、体重、腹囲、血圧)、空腹時採血、採尿を行った同日に味覚嗜好アンケートおよび味覚感度調査を行い、検査前日の食事内容については、栄養士が24時間思い出し法により聞き取った。

 うま味嗜好検査では、味の素1%溶液を口腔内に1mL滴下し、その味が好きかどうかを尋ね、好きと答えた10人をうま味嗜好群、嫌いと答えた38人を対照群と定義した。また、うま味感度検査では、味の素溶液を5段階の濃さ(0.03%、0.1%、0.25%、0.5%、1%)で作成し、薄いものから順に口腔内に1mL滴下し、最初に味を感じた段階をその人のうま味感度閾値とした。本検討では、0.03%で味を感じた26人を対照群とし、0.1%以上の濃度で味を感じた22人をうま味感度障害群と定めた。

 うま味嗜好群と対照群の間で年齢やBMI、生化学検査値、疾患保有率に有意な相異は認められなかった。また、食事内容(カロリー摂取量、糖質摂取率、脂質摂取率、蛋白質摂取率、塩分摂取量、不飽和脂肪酸摂取量)でも、両群間に有意な違いは認められなかった。

 一方、うま味感度障害群と対照群の間で比較したところ、肥満者(BMIが25kg/m2以上)の割合がうま味感度障害群は36.4%、対照群は11.5%で、前者で有意に高かった(オッズ比:5.617、95%信頼区間:1.104-28.581、P=0.0376)。したがって、うまみ感度障害があると有意に肥満であった。

 また、うま味感度障害群と対照群の食事内容には有意差はなかったが、うま味感度障害群では対照群に対し甘味嗜好が有意に高かった(オッズ比:2.439、95%信頼区間:1.122-5.303、P=0.0245)。さらに、うま味感度が鈍いほど、甘味嗜好が強いことも明らかになった。

 以上から水田氏は、「うま味感度障害があると甘味嗜好が強くなり、肥満を呈する可能性があることが示唆された」と述べた。その機序として、うま味感度障害があるとうま味による報酬系が低下し、その代わりに甘味による報酬系が強化されるのではないかと考察した。また過去の文献報告からは、レプチン濃度の低下を介してうま味感度が低下している可能性も考えられるという。

 したがって、うま味に対する感度が障害されている人に、減塩指導の一環として食事中のうま味を増強するように指導すると結果的に肥満を助長する恐れがあり、水田氏は「患者一人ひとりのうま味嗜好・感度を考慮することは、高血圧診療、特に減塩指導において非常に有用だ」と指摘した。

(日経メディカル別冊編集)
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50年前の名論文

2011年10月17日 | Weblog
 現在、歯・咀嚼と全身の健康との関係について多くの研究がなされている。

 ここに素晴らしい論文があるので紹介したい。

 しかも発行は1958年。今から53年前のものである。

 題名は
 「口腔保健指導が児童の体格並びに精神発育に及ぼす影響に関する研究」
 神田三郎著(九州歯学会雑誌)である。

 著者の神田三郎先生は、九州の某小学校で、齲蝕治療を施しよく噛むように
 指導したら、児童の心身の発達にどの程度影響するかについて精細に研究さ
 れた。

 まず先生は、小学校4年生(464名)から以下の基準に基づいて120名
 を抽出し、ランダムに実験群と対照群に分けられた。

 1.3歯以上の齲蝕がある者。
 2.歯垢・歯石が著しく付着し歯肉炎がある者。
 3.全身的に一般疾病のない者。
 4.体格・栄養状態は平均か少し劣る者。
 5.知能学力程度は学業成績と知能テストの中程度か少し劣る者。
 6.家庭環境は炭鉱の鉱員として両親が健在な者。

 そして実験群の児童に対し次の処置を行われた。

 1.口腔内の諸疾患を治療する。
 2.齲蝕歯はアマルガムかインレー充填を行い完全咀嚼を可能にする。
 3.残根は抜歯。
 4.歯垢・歯石の除去
 5.歯科検診により齲蝕の再発を防ぐ。

 さらに生活指導として食事前後の含嗽や授業中の姿勢の矯正、偏食の矯正など
 の他に、咀嚼訓練について重点的に行われた。

 また昼食は50分とし十分な時間を与え、フレッチャー氏の咀嚼法を参考に、
 食物が食道に流れ込むまで噛むように指導された。

 そして両群の児童の
 A 体格検査
 B 知能検査
 C 疲労測定
 D 口腔内細菌数や血液像の変化
 E 衣重(服の重量 注1)および病気欠席について3年間調べられた。

 その結果:

 1.実験群は、対照群と比べ当初差がなかったが、時間の経過とともに身長
   ・座高・体重・胸囲とも著しい増加が認められた。

 2.山本式知能検査では、対照群は大きな伸びはなかったが、実験群では
   3年後には平均知能指数が120となり極めて優秀な状態となった。

 3.疲労測定はザンブリニ・渡辺氏法と竹屋氏法の結果から、実験群では
   午前と午後の疲労曲線に大きな変化がなく、日中の学校における疲労
   はほとんどなかった。しかし、対照群では午後になると中・高度の疲
   労度が高率を示した。

 4.口腔内細菌数の消長や血液像には大きな変化が認められなかった。

 5.実験群は対照群に比べ、冬季の衣重は軽く、病欠率・病欠日指数は約
   半数だった。

 この論文は、まさに我々歯科医師が求めている“歯・咀嚼と全身との関係”
 を見事に証明したものである。

 しかもこれは、児童をランダム化し比較するとともに、現場の教師にも知らせ
 ず二重盲検法で行っていたと言う。

 そのため全くバイアスが加わっていない。

 このような研究が50年前に行われていたことには驚きを隠せない。

 現在では、同様の研究を行うことは事実上不可能であろう。

 そういう意味でも、これは歯科界の宝物と言える論文である。

 注1:衣重は、外気温に対する抵抗力の指標の1つとして考えられる。
 注2:本論文は、以下からダウンロード可能である。じっくりご覧いただきた
    い。

 ⇒ http://ci.nii.ac.jp/naid/110003008510
 注3:「咬合と全身のアンソロポロジー
    日本のEBMの先駆者:神田三郎によるランダム化比較試験の全貌」
     森 敏夫他  歯界展望Vol.99 No.2 (2002-2)427-432にも紹介さ
    れている。


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