木村長人(きむらながと)。皆さんとつくる地域の政治。

1964年(昭和39年)千葉生まれ。元江戸川区議(4期)。無所属。

議員の仕事 - 岩手県大船渡市議のエピソードに思う -

2011-03-30 23:55:39 | 地方自治
 昨日、3月29日のアサヒドットコムの記事に、「市議の「遺言」、非常通路が児童救う 津波被害の小学校」というものがありました。議員活動の醍醐味のひとつを感じさせる記事でしたので、ちょっと以下に引用してみたいと思います。


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 岩手県大船渡市の海沿いの小学校に、津波から逃れる時間を短縮する非常通路をつけるよう提案し続けていた市議がいた。昨年12月、念願の通路ができた。市議は東日本大震災の9日前に病気で亡くなったが、津波にのまれた小学校の児童は、通路を通って避難し、助かった。

 海から約200メートルのところにある越喜来(おきらい)小学校。3階建ての校舎は津波に襲われ、無残な姿をさらしている。校舎の道路側は、高さ約5メートルのがけ。従来の避難経路は、いったん1階から校舎外に出て、約70メートルの坂を駆け上がってがけの上に行き、さらに高台の三陸鉄道南リアス線三陸駅に向かうことになっていた。

 「津波が来たとき一番危ないのは越喜来小学校ではないかと思うの。残った人に遺言みたいに頼んでいきたい。通路を一つ、橋かけてもらえばいい」。2008年3月の市議会の議事録に、地元の平田武市議(当時65)が非常通路の設置を求める発言が記録されている。

 親族によると、平田さんは数年前から「津波が来た時に子供が1階に下りていたら間に合わない。2階から直接道に出た方が早い」と話すようになったという。

 平田さんの強い要望をうけたかたちで、昨年12月、約400万円の予算で校舎2階とがけの上の道路をつなぐ津波避難用の非常通路が設置された。予算がついた時、平田さんは「やっとできるようになった」と喜び、工事を急ぐよう市に働きかけていた。

 11日の地震直後、計71人の児童は非常通路からがけの上に出て、ただちに高台に向かうことができた。その後に押し寄せた津波で、長さ約10メートル、幅約1.5メートルの非常通路は壊され、がれきに覆いつくされた。遠藤耕生副校長(49)は「地震発生から津波が来るまではあっという間だった。非常通路のおかげで児童たちの避難時間が大幅に短縮された」と話す。

 市教育委員会の山口清人次長は「こんな規模の津波が来ることは想定しておらず、本当に造っておいてよかった。平田さんは子供のことを大事に考える人でした」と話した。

 非常通路から避難した児童の中には、平田さんの3人の孫もいた。平田さんの長男、大輔さん(38)は「人の役に立った最後の仕事に父も満足していると思う。小学3年の息子にも、大きくなったら話してやりたい」と語った。(アサヒドットコム、3月29日、其山史晃)

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 時々「区議会議員とか市議会議員って、普段何をしているのかわからない。いったい何をしているの?」と素朴に聞かれることがあります。たいてい、こうした質問の背後には、「国会議員のことはテレビでもよく取り上げられているから何となくわかるけれど、自分の町の選出であっても、地方議員のことはメディアでも報じられることがないからよくわからない」という事情が見え隠れしています。実際、国会における議院内閣制と、地方自治体と地方議会における二元代表制(首長も議員もともにそれぞれが直接選挙で選ばれる公選職で、行政側と議会側と権力が二分されているシステム)との間の違いも、あまり理解されていないことが多いという印象を持っています。

 前提論はこれぐらいにして、地方議員または地方議会に期待されている、つまり果たすべき役割の代表的なものは何でしょうか。それは、①行政の暴走がないようチェックする執行機関監視機能、②さまざまな政策や条例の提案を行う政策立案機能、などであると言えます。他にも、③住民意思の代弁・伝達機能というものが指摘されることもあります。住民相談などはこの中に入るでしょう。また、②と③、あるいは①と③には重なる部分も当然あります。

 こうした諸機能が地方議員の仕事と言えます。しかし、どこまでそれぞれの議員がそうした仕事をこなしているかということと、住民がどこまでそうした議員の仕事を理解しているかということとは、また別の議論になります。これには、議員側の活動の伝達方法が不十分なために住民に理解されていないという議員サイド原因説もあるでしょうし、住民側が二元代表制にも地域の課題にも無関心で知ろうとしないという住民サイド原因説もあるでしょうし、はたまた、両者原因節もあるでしょう。少なくとも、メディアで取り上げられることのない地方議会においては、議員側が議会活動を怠ってはいけないだろうと思われます(正直、過去の自分に反省! 紙ベースのレポートは発行してきましたが、メディアの活用が不十分でした! すいません。)。

 さて、話が少しとんでしまいました。あらためて、議員の仕事(機能)を列記します。①執行機関監視機能、②政策立案機能、③住民意思の代弁・伝達機能などがあります。冒頭に引用した記事中の岩手県大船渡市の平田市議が実現させた仕事はどれでしょうか。②(または③)ということになるでしょう。平田市議の提案で、小学校における津波避難用の非常通路の設置が実現し、ご自身のお孫さん3人を含めた71人の児童の命を救ったわけです。生前、平田市議自身も、よもやあのような大震災が襲ってくるとも、また、よもや少し前に建設された自身提案の非常通路が間一髪で児童たちを救うことになろうとも、想像だにしなかったでしょう。震災の規模と被害が甚大であったこともり、これは非常にドラマチックなエピソードになったわけですが、それにしても、地方議員としてこれ以上の達成感のある仕事はないと言えるかもしれません。平田市議は震災の直前に亡くなられたそうですが、上記の記事を拝読し、市議の活動実績には敬意を表したい気持ちです。

 あのような災害に直面し、またそれに直結する政策提案が日の目を見るというドラマチックなケースはむしろまれかもしれません。政策も、防災分野ばかりではありません。教育、福祉、子育て、環境、まちづくりなど、さまざまあります。そうしたいろいろな分野にわたって、各議員がそれぞれ地域の声を聞き、日々、大小さまざまな提案を行っています。それが一人の議員の提案だけで成り立つものばかりとは言えません。(むしろ「私がやりました」「私がつくりました」というのはどうかと思います。)実際には、他会派の議員の賛同を得たり、行政側の理解を得たりすることで、実現していくことが多くあります。しかし、いずれにしても、議員が地域の声を参考に、また自分の考えで、施策を提案し、地域の政治を少しずつつくりあげていくことが大切です。大船渡市議のエピソードを読み、今回あらためて地方議員の仕事について考えさせられました。




江戸川区議会議員 木村ながと
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