ヒマジンの独白録(美術、読書、写真、ときには錯覚)

田舎オジサンの書くブログです。様々な分野で目に付いた事柄を書いていこうと思っています。

戯曲「るつぼ」について

2018年02月19日 14時44分32秒 | 歴史と風土
アメリカの著名な劇作家であるアーサーミラーの戯曲に「るつぼ」と題された作品があります。
この「るつぼ」については私のブログで以前に取り上げたことがあります。
以前の記事ではこの戯曲が書かれた背景などについて、触れておりますので今回は省略をします。

きょうの話題は彼の書いた戯曲の題名が何故「るつぼ」なのだったのかの考察です。
先日、アメリカ合衆国の国名が何故か「合衆」になっており、正確な呼び名では「合州」ではないかと、考えます、と書きました。

さて、「るつぼ」とは金属を熱で熔解させる時などに使われる容器のことです。
この「るつぼ」と「合衆」とを並べて観ると実は少し面白いことに気が付きました。
「合衆」の「衆」は日本語での用法に「烏合の衆」という使い方があります。
様々な意見の人々の「寄合所帯」という意味で使われます。

そして「るつぼ」は金属を溶かして異種の金属を熔解させて「合金」を作ったりするのにもつかわれます。「るつぼ」はまた、異種の薬を混ぜ合わせるのにも使われます。
アメリカ合衆国はこの意味では「人種のるつぼ」だったのです。

劇作家アーサーミラーは自分の国、すなわちアメリカが「人種のるつぼ」であった事を知っていました。
様々な人種や階層の人々により成り立っていたアメリカという国の本質的な構成を理解していたと考えられます。
人種の壁や階層の壁を乗り越えて新国家を作ろうとしたアメリカ社会が、第二次大戦後の1940年代後半以降にマッカーシズムと呼ばれる政治的、社会的な動きが起きていきます。
当時の冷戦体制の中で、少しでも「共産主義」に同調しているとみなされた人たちが、次々に公職を奪われたり、まともな文筆活動や表現活動が規制されていったのです。
アーサーミラーもそれらの規制を受けた人の一人です。

アメリカには本来的な意味での「共産主義」は政治勢力としても、社会思想としても根付くことはありませんでした。
実際には「アメリカ共産党」という組織があったことは研究者により知られていますが、わが国のように一定の影響力を持ったことなどはないのです。
アメリカには「極端に保守的な自由主義」と「緩やかな自由主義」しか、そもそもなかったのです。
そして、「極端に保守的な自由主義」が幅を利かせ「緩やかな自由主義」を規制したのがマッカーシズムであったと考えるのが正しいと思っています。

さて、アーサーミラーは「るつぼ」を書くにあたって「人種のるつぼ」であったアメリカが、単一の凝り固まった思潮であった「マッカーシズム」を暗に非難する意味で自分の戯曲にこの題名を付けたのだとも考えられます。





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