ぶろぐのおけいこ

ぶろぐ初心者は書き込んでみたり、消してみたり…と書いて19年目に入りました。今でも一番の読者は私です。

新書 沖縄読本

2012-03-07 07:23:13 | 読んだ本

  沖縄に詳しい二人の作家が、「癒しの島」でも、「楽園」でもない、問題が山積した南の島という切り口で、沖縄を著そうとした一冊。
  少々オーバーに言い方になりますが、本書で横っ面を殴られたような気がしています。それも殴られた直後よりもあとのほうがジワリジワリと効いてくるような感じです。「それで君は沖縄を知っているつもりだったのか」と本一冊に見下されているような気分です。もう半年近くも前に読み終えたはずなのに、インプレッションを書けないまま今日に至ったのは、殴られたダメージが大きかったせいです。
  私が初めて沖縄を訪れたのは1996年1月。冬でもシャツ1枚で過ごせるこの島がいたく気に入りました。おそらくそれまでは那覇が沖縄本島のどのあたりにあるかもよくわかっていなかっただろうと思います。前年の米兵による少女暴行事件を受けて、こちらでも沖縄が注目されている時でしたし、琉球の雰囲気もアメリカの雰囲気も新鮮な、心地よい数日間でした。
  それ以降、それなりには沖縄のことを勉強してきたつもりでした。健康で長寿の国、癒しの国、ゆったり時間が流れる国、酒礼之邦、んっ?守禮之邦…。
  本島だけですが、これまで5回訪れています。


  ところが本書で、それまで自分が勉強してきたことはふたつの方向のことでしかなかったのではないかと思うようになりました。つまり、沖縄の文化がいかに奥深く悠久のもので素晴らしいものであるかという方向、そして、沖縄の人たちがいかに虐げられてきたかという方向の2方向です。例えば、やや対象年齢が低いのですが、『沖縄のいまガイドブック』 (岩波ジュニア新書 1995年)を開いてみます。ミュージシャンの照屋林賢ほか二人の鼎談を一冊にまとめたこの本では、

  • 沖縄料理はヘルシー
  • 戦争を伝える
  • 基地をかんがえる
  • ゆったりと流れる時間

などの項があります。
  一方、『沖縄読本』で驚くのは、いきなり、「第一部、沖縄人のいま」という部で、現代の沖縄県民自身の泣きどころを挙げていることです。例えば、現在沖縄は長寿の島どころか肥満率日本一という不名誉な記録をもっている話。先の『沖縄のいまガイドブック』では沖縄料理はヘルシーだったはず。また、「ゆったりと流れる時間」の沖縄が、実は男性の自殺率が全国第2位(1995年)だったり…。都道府県別生命表で男性の平均寿命は26位(厚労省 2000年度調査。女性は1位)だとか。えっ?沖縄は長寿の県ではなかったか?
  沖縄の県民所得が全国最低なのはよく知られた話ですが、年収1000万円以上の納税者の割合は10.2%(2006年度国税庁統計)で、この割合は全国9位だといいます。沖縄県司法書士会は、多重債務による自己破産者数が多いので1997年にすでに非常事態宣言を出していたとか…。格差が大きい県ということでしょう。
  こんなことまで知ることができたという思いと、こんなことまで知ってしまったという思いの間でウロウロしている自分が見えるようです。この本に遇わなかったら、今でも健康で長寿の国、癒しの国、ゆったり時間が流れる国と思いこんだままいられたのに。
  筆者の一人、下川裕治氏は沖縄ブームを作った一人ということになっているのだそうです。彼はこう記します。


沖縄は「癒しの島」でも、「楽園」でもない。問題が山積した南の島にすぎない。しかしそこには、いつも海からの優しい風のように、「ゆるさ」というエネルギーが流れていた。出口のない問題をも呑み込んでしまう沖縄のエネルギーを、僕は憧れの眼差しで眺めていたのだ。


  そういえば、10年ほど前に大阪に住む沖縄関係者に、沖縄のことを理解するためにどんな勉強をしたらよいかと尋ねたことがあります。彼は、エイサーを踊ったとかいうような、表面だけをなぞって分かったつもりになるのならやらないほうがましだと言いました。どういう偶然か、その時よく理解できなかった彼の言葉が、本書で謎解きできたような気分です。もちろん、心が晴れるような気分ではありません。知っていたつもりになっていた、好きなつもりになっていた自分の頬を張り倒されたような、そんな謎解きです。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かくれんぼ | トップ | オハラ洋装店 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んだ本」カテゴリの最新記事